はじめての魔術7
『魔女は……力を付けるとむしろ狙われにくくなりますし……使い魔を従えることでも身に迫る危険を防ぎやすくなります……魔術ノートは……書き込んだ魔術陣に魔力を込めることによって、防御壁の核として使うことも可能です……』
どうかどうか……と本棚の上から低姿勢で売り込んでくる魔術ノートについてはスルーするとしても、とりあえず、私が今すべきなのは魔術について勉強することで変わらないようだ。
異世界からやってきてご近所をうろうろしている存在が故意に私を狙っていようがいまいが、そういうのを察知して避けられたらそれでいいわけだし、そのためにすべきなのはまず、この魔術のテキストを読み進めることくらいしかない。
お昼にあった出来事はそこそこ怖かったけれど、だからといって怖がっていたところでどうにかなるわけでもないし、とりあえず外出のときは神社のお守りやゲヒゲヒのノートはしっかり持ち歩いて、シノちゃんになるべく一緒にいてもらえばいいだろう。
そもそも外に出なきゃいけない用事は大学か買い物しかない。バイト先が迷宮で良かったような、そもそもそれがきっかけでこんな状況になってる気がしなくもないような。
「そういえばシノちゃん、なんで山田さんの名前聞いたの?」
「ン〜?」
クチバシをお猪口に入れてはグビグビと麦茶を飲んでいたシノちゃんが、プェッと鳴いた。
「ナンカアイツ怪シイカラッ!!!」
「声静かにね。怪しいかな? 別にそんなことないけど」
「ヤマダネ〜、何カ隠シテルダヨネ〜」
「いや、誰だって隠してることはあるものじゃない? そもそも何度か顔合わせただけで話もしっかりしたことはないし、隠してるも何もないような」
そもそも、大学に異世界の生き物をわんさか連れていっている上に神様関係のひとに預かってもらったり、バッグに入れてこっそりおやつをあげたりしている私の方こそ、世間に対して隠し事をしまくっている立場である。他の人も誰にもいえないようなことを抱え込んでいても不思議ではない。
荷物の配達をしてくれていた人が大学にいたというのも偶然であり得る範囲だし、人気のない旧館で出会ったのも、不自然というほどでもない。旧館で他の人がいるのも見たことがあるし。
シノちゃんの言う怪しいの意味がわからないけれど、玄関先でユウを防いでくれたり、今日も注意しに走ってきてくれたところを考えると、何かを企んでいるとは思えなかった。
「山田さん、どう見ても人間だったけどどういうところが怪しいの? なんか悪いことしてた?」
「ワカンナイ〜」
「じゃあ怪しくなくない?」
「シノチャンガアヤシイッテ言ッタラアヤシイノッ!!!」
「わかったから、叫ばなくていいから」
クワッとクチバシを開いたシノちゃんの前に食べかけの苺白玉を置くと、静かになって食べ始めた。
「まあ、こんな状況だし、シノちゃんが怪しいっていうならあんまり話さないようにしておこうか。そもそも学科も違うし会うこともほとんどないけど」
「ソウシテ〜間違ッテモ重ナル偶然ノ出会イニ少シズツ胸トキメクトカ〜昼休ミバッタリ会ッテ〜話ガ弾ンデ屋上デ一緒ニ小町定食食ベタリシチャダメダヨ〜!」
「何その具体性」
「小町定食屋上デ一緒ニ食ベルトネ〜カップルニナレルジンクスアルダヨ〜」
「詳しすぎない? シノちゃんうちの大学に学生として通ってたこととかあるの?」
私よりも大学生活に通じていないだろうか。シノちゃんがサークル掛け持ちして充実したキャンパスライフを送っていても不思議じゃない気がしてきた。
「まあ山田さんは置いといて……バイトまで時間あるし、かんたん魔術のテキストでもやっとこうかな」
「シノチャン教エタゲルッ! ブワッテキタラドーンッテヤレバ大体ノ雑魚ハ死ヌッ!!」
「感覚派か」
シノちゃんの豪快な説明に適当に頷きつつ本棚に入れていたテキストを手に取り、ローテーブルの前に座り直すと、本棚の上に載っていた魔術ノートが『私も使ってよぉ』としくしく泣き始めた。ノートも泣いたりするらしい。




