はじめての魔術5
「ナンカネ〜ユイミーちゃんヲネ〜個人的ニ狙ッテソウナ感ジスルダヨネ〜」
「えっ誰が? ていうか何で?」
「シノチャンワカンナイケドォ〜最近湧イテル雑魚モソイツガ関係シテルカモ説アルナ〜ッテ思ッタヨネ〜」
「えーっと、つまり誰かが故意に、そういう存在を行き来させてるってこと?」
「カモネ〜」
「まじょばちゃんは、なんか磁場の関係で穴が開きやすくなったとか言ってたけど」
「ソレハ魔女ノ仮説〜、シノチャンハシノチャンノ仮説〜。ムーンライトハ伝説〜」
プェプェと歌い始めたシノちゃんのクチバシを押さえて音量を下げつつ、コンクリートから飛び出る鉄筋を眺めながら考える。
「……自分でいうのも何だけど、そんな恨みとか買った覚えないんだけど」
「ユイミーちゃんハ優良店員デ優良オヤツウーマンダモンネ〜」
「シノちゃん私に対してそんなこと思ってたの」
オヤツウーマンって何だ。しばらく野菜だけにしてやろうか。
「危ない!!」
「えっ」
後ろから掛けられた声に、私はとっさに振り向いた。
こちらに向かって走ってくるのは、昨日もうちに荷物を配達してくれた、院生のお兄さんである。振り向いてから思い出したけれど私の腕にはシノちゃんがいるので、慌ててバッグの中に入れる。
あっという間にやってきた院生のお兄さんが、手を動かして私に移動するように促してきた。
「そこ、割れたガラスとか結構危ないものとか放置されてるから、怪我した人もいるし……あと、なんかこないだ蛇も出たらしくて、この辺は近付かないほうが」
「あ、そうなんですか」
「ごめん、驚かせて。何もなかった?」
「はい、大丈夫です」
息を整えたお兄さんにお礼を言うと、いや無事でよかった、と返された。
顔見知りの私が危ないエリアにいたので、わざわざ走って注意しにきてくれたようだ。
しばらく無言でいたあと、お兄さんはちょっと気まずそうに私のバッグをチラ見する。
「……あのさ、今、なんか生き物抱えて」
「ペンケースです」
「えっ」
「雑貨屋で見つけた派手で大きいペンケースなんです。染めた羽毛が付いてるので、よく生き物に間違われるんですけど」
「ぺ、ペンケース?」
「ペンケースです。大きくてペン沢山入るので便利なんです」
不満そうにモゾモゾ動く鞄を抑え込みつつ、私は強気で誤魔化した。
お兄さんは若干困惑しながらも、私の堂々とした態度に納得したのか、ペンケースか……と一応頷いてくれた。
「えぇと、とにかくこの辺りは危ないから、つかほら、うちの学校木とか多くて虫や蛇も多いらしいし、あんまり人のいない場所は行かないほうがいいかと」
「気をつけます、ありがとうございます」
「うん、じゃあ……とにかく無事でよかったね」
なんとなくお兄さんと並んでゴミ置き場から離れ、大通りに出た。食堂に行く私とは反対方向に行くようなので、会釈して別れる。
「あ! 待ってください! 名前教えてもらってもいいですか?」
「え?」
お兄さんがちょっと驚いた顔で私を振り返る。
私も驚いた。
今のは私の声だけど、私が言ったんじゃない。バッグの中から聞こえてきた声だったからだ。
「そういや言ってなかったな。オレは山田 勇太。勇気に太いでユウタね」
「あ、ありがとうございます。私は野々木 由衣美です」
「野々木さん。配達の時もちょっと思ったけど、苗字変わってるね」
「よく言われます」
「覚えやすくていいけど。じゃあ、よろしく?」
「はい。よろしくお願いします」
今度こそ別れて、私は食堂の方へと急ぐ。
シノちゃんの声真似が似ていたせいか、状況的にも不自然ではなかったからか、配達のお兄さんこと山田さんに不審に思われないでよかった。けど、なんでシノちゃんはわざわざ名前なんか訊ねたのだろう。
聞こうと思っていたけれど、ランチの待ち合わせに遅れていたこともあって、シノちゃんとちゃんと話せる時間が取れたのは講義が全て終わってからだった。




