ゲーム探索日記 その7
あ、あれ?
なんかへんな区切りっだったかも……?
よくよく考えたら、ここはプログラムの中の世界じゃあないか。
プログラムを組むときに必要なのは命令。
何をするにも命令文が必要なのだ。
魔法についてはプログラムに命令を組み込んでいないから発動しない。
じゃあ、ここで命令することができればきっとうまくいくだろう。
強いイメージと命令。
つまり、魔法が使えないのはきっと呪文が足りないからに違いないきっとそうだ違いない!
そう考えた俺は、薬草を頬張りながらプログラミングに基づく適切な呪文を考え続けた。
「いでよ、ファイアーボール!」
(命令文のみ)
「煉獄のふちより我に力を! いでよ、ファイアーボール!」
(命令をどこから引き出すか明示した命令)
「永久に燃える煉獄の炎よ、咎人を清める赤い舌は赤々とうねり、その身を清めるだろう。
東の獄門より溢れし火炎をここに集めん。 いでよ、ファイアーボール!」
(魔法の性質について定義したあと魔法を引き出す命令。)
出会い頭に唱え続けた呪文は何の効果も現さず、ゆがみに殴り掛かられては物理で反撃することを繰り返した。
特に、三番目のやつはいい線いったと思んだが、途中で殴りかかられて言い直さなくてはいけなくなったのはイラッとしたな。
そのかわり、思いっきり蹴り上げてやったが。
三回の戦闘で消費したスタミナは330。
二番目の奴がやけに速かったからログを確認したら素早さが15もあった。
これまでで最速だろうそいつを倒すのに消費したスタミナは一回の攻撃で100。
後の二回は防御した分無駄にスタミナを消費した。
ついに消費スタミナが三桁に突入したな。
ゲーム作成時、俺はスタミナ大量消費でのオーバーキルで戦闘が終わること、つまり一撃で戦闘が終わることがなんだかつまらなく感じて、もう少しで消費スタミナの上限を100にするところだった。
いやぁ、ほんとうに、危なかった。
うん、この状況でそんな縛りがあったらここから先はフルボッコにされる一方になってたよな。
なにせ、素早さに大きな違いがあるんだから。
……うん、素早さ2ってかなりのハードモードだよな……。
現実のほうの感覚と変わらないのが幸いってやつかな。
力も防御力も数字だけで見るとかなり強いことはわかるんだけど、普通に殴ったり防いだりするのと変わらないしな。
自ら動く方法もさすがに慣れてきて、何となくだけど消費するスタミナの加減がわかった気がする。
というか、自分の感覚に従って殴り掛かれば万事解決する。
つまり、問題はいかに自分がモンスターより速く動くかということになるってわけだ。
これ、現実の運動能力は反映するのか?
反映するとしたらかなり残念なことになるのだが……。
いや、そこらへんについてはあまり深く考えないでおこう。
空しくなるだけだ……orz
残りのスタミナは157。
宝箱でアイテムを手に入れない限り残り1回、多くて2回の戦闘だろう。
体調はちょっとだるいかもしれないくらいで特に異常はない。
体調とスタミナの残量がリンクするかもしれないんだったよな。
えっと、157 ÷ 607 = 0.258
これまでの経験もふまえて考えると、だいたいスタミナが全体の20パーセントくらいになったら体調不良になると予想がつくな。
だからと言ってやることが変わる訳でもないんだけどな。
『モンスターが現れた!
MHP:160 MSP:11 MPP:14 MOP:14 MEP: 225』
そういえば、モンスターについても変化があった。
前はぼんやりとそこに存在するのがわかる程度のゆがみだったのが、さらにゆがみが濃縮された形になっている。
なんというか、以前はぐちゃぐちゃにしわの入ったセロファンのような感じだったのが、いまでは磨りガラスくらいの濃度になっている。
触手や腕がつかめるようになったのも、濃度が上がったからなのだろう。
相変わらずはっきりとした形はないのだけども。
ふっふっふっ……。
では、始めようか。
ゆがみの様子をうかがいつつ、途中に攻撃されたらよけることを前提に、イメージを保ちつつ呪文を唱える。
「悠久の時を経てなお燃え続ける煉獄の炎よ、咎人はその咎を悔い、その身を投げ身を清めるだろう。
獄門より溢れし火炎よ、断罪の炎はその舌をうならせ、裁きを下す太陽の姿で罪人の前に現さん。
いでよ、ファイアーボール!」
(魔法の性質について定義したあとどのような操作をするのかを決め、その魔法を引き出してくる命令)
言い切った!
よしっ、来い、ファイアーボール!
だがしかし、なにも起こらない。
右手は何の変化もなくそのままの状態で空間に突き出されている。
正直あきらめかけていたから予想通りの展開だ。
容赦なく殴り掛かってきたゆがみの腕を両腕でかばって受け止める。
ゆがみの拳を受け止めた腕は防御力の補正がかかっているのかダメージとなるほどの傷みはない。
『モンスターの攻撃。
しかし、勇者は攻撃を防ぎきった。』
ここまでは今まで通りだだった。
変化は突如訪れた。
ゆがみの拳の勢いがなくなり、防御が成立したその瞬間に起こった異変。
体中の力が一気に抜けていき、まるで枷を付けられたような感覚へと変わる。
肺の空気が一気になくなったような息苦しさ。
敵前にも関わらず膝をつき肩で息をする。
その異常な現象が起こるにはまだ余裕があったはずなのに。
なんだ、これは……?!
なんでこんなに苦しいんだ?!
ただ攻撃を防いだだけだぞ、そんなにスタミナは消費していないはずだ!
おかしい、何かがおかしい。
どうしてこうなった?
バグか?
何が原因だ?
なんでだ?
どうすればいいんだ?!
そんなことはおかまいなしにゆがみは足と思われるもので蹴りとばしてくる。
脊髄反射だろうか。
重い両腕で体を抱え込むようにして己を守った。
高い防御力のおかげでたいして痛くはない。
だが、それまでだった。
スタミナをすべて使い切ったのだ。
体がさらに重くなり、攻撃を防ぐこともままならなくなった。
風を切り、うなる腕。
重い右ストレート、降り注ぐ拳。
『勇者に 135 のダメージ
勇者は動くことができない。』
顔を殴られ、脳を揺さぶられる。
しかし、混乱する頭に疑問は絶えない。
『勇者に 135 のダメージ
勇者は動くことができない。』
『勇者は敗北した。』




