ゲーム探索日記 その4
さっきから妖精さんが頭の上で飛び回って早く行けと催促してくる。
よし、いくか。
目の前に広がる白の世界。
固い地面を踏みしめる感覚だけが自分が進んでいることを肯定してくれる。
……実はぐるぐる同じところを歩いているかもなんて考えない。
ただでさえ精神的に病みそうな行程なのだから、これ以上ネガティブなことは考えないほうが安全だ。
黙々と歩いていると、次々とログが更新した。
どうやらステージクリアらしい。
『勇者は古びた町中を通過した。
このステージを通過するのにかかった移動距離8000M
このステージでの戦闘回数は 12 回だった。
ここまでの総移動距離は 28500 Mです。』
これで4ステージ目クリアだ。
改めて見ると、移動距離がもうすぐ30kmだ。
こんなに長い距離を休みなしで歩いたのだとしたら、どのくらいの時間がたっているのだろうか。
というか、ここから出たとき時間ってどうなっているんだろうか。
普通に考えたら、ここがプログラムの中の世界だとすると、こっちのほうがかなり時間の密度が大きいはずだろう。
現実の一秒がこっちの何十日とか。
でないと、俺としてはかなり困ったことになる。
まず、直接的な問題として、ノートパソコンの電池の残量だ。
充電器につないでいないから最高でもだいたい2〜3時間くらいで電源が切れてしまう。
そのときが来たとして、どうなってしまうかはわからないが、全くの無事ではすまないだろう。
さらに、部屋自体を放置しておくのもまずい。
俺の進学先を通える範囲内にしたので、未だ俺は実家住まいだ。
つまり、誰かが部屋に入ってくる恐れがあるということで、付けっぱなしのパソコンをいじられてしまう恐れがあるということだ。
勝手にいじられたりなどしたらどうなるかは全くの未知数だ。
そして、いじられなかったとしても、画面を見られただけで後の俺の精神に”かいしんのいちげき”だ。
デスクトップに映る『魔王が現れた!「地獄のふちへようこそ、勇者よ さぁ、死の舞を舞おうではないか」』という痛い文字。
壁紙は俺のイメージ保護のためには誰にも見せられない女子高生のアニメキャラクター。
パスワードロックを付け忘れた、これまた見られては困るファイルの数々。
枕元に出しっぱなしになっているかもしれない紳士のための本。
よくあるトリップものの話では、元の世界に帰りたい理由に『ハードディスクの処分のため』が書かれることがあるが、俺はむしろ部屋ごと焼いてほしい。
妹などに見られたら、今でさえ冷たい目で見られているのに、またゴミを見るような目で見られてしまう。
ま、それでも妹はかわいいのだけどな。
『ステージクリアボーナス!
スタミナが43増えた。
体力が26増えた。
攻撃力が1増えた。
防御力が2増えた。
勇者は古びた町中に突入した。』
また、同じところかよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『勇者は古びた町中を1000M移動した。
薬草をひろった。
体力が 20 回復した。』
ここに来て初めて薬草の効果が現れた。
プチプチと薬草を噛み締めるたびにジンジンと熱を持ったところが癒される。
さっきの戦闘でのケツの痛みも引いていった。
……この効果は現実だと万能薬扱いだろう。
ノータイムで全身に効果のある薬などファンタジー以外あり得ない。
多分この薬草、青あざから始まり切り傷やすり傷、骨折、腹痛、虫歯や痛んだ毛根にまで効くような気がしてきた。
根拠は全くないが、そのぐらい全身が癒されてるって感じがする。
こんなのが道ばたにホイホイ生えていたら製薬会社は廃業しそうだ。
うーん、なんてファンタジー。
さらにもう一回薬草を拾いつつ移動していると、どう前に進もうとしても足があがらなくなるようなことが起きた。
足が重いとかの話ではなく、神経の伝達が阻害されているように足を上げるという動作ができない。
後ろに後ずさることはできるのに、前に進むことは全くできないのだ。
どうにも進めないのでおかしいと思いログをみると、いつの間にかに更新されていた。
『妖精のおやつを手に入れた。』
なんかバグったかとほんとに冷や汗がでたよ。
あー、本当精神的にくるなこれ。
とりあえず振り返って周囲を探すこと10分、進めなくなった場所からだいたい10mほど離れたところに白いボール状の焼き菓子が置いてあった。
いつの間にかにただの地面だったところが、石畳でできた道になっている。
その石も白いから、同化した焼き菓子を見つけるのが大変だった。
それは軽いクッキーのようで、粉雪のような砂糖がまんべんなく振りかけられていて、まるで雪の玉のようだ。
お中元にもらったクッキーの詰め合わせの一つに似たようなのがあったな。
これ、俺でも食えるのかな。
手に持つと妖精さんが寄ってきて物欲しそうに俺の周りを旋回している。
食べたいけどがっついているように見られるのは嫌らしい。
口を開け、食べようとするふりをすると焦ったようにチカチカ点滅する。
そんなことを何回か繰り返して、妖精さんのあまりにも必死な様子にいたずら心が満足した。
「いいよ。 食べな」
声をかけると電光石火の勢いで妖精さんは俺の手にに近づき、自分より少し小さいくらいの焼き菓子を持ち上げられないようで、そのまま手の上で食べ始めた。
今までのためらいはなんだったんだ。
そういえば、声を出すことができるようになったのはいつからだろう。
少なくとも魔王戦の前には声は出なかったよな。
ふと振り返ると、白い石畳の道。
淡い輪郭の手の上には、光る未確認飛行小物体。
俺が気がつかないうちにいろいろなことが変わっているのかもしれない。
この変化にはどのような意味があるのだろうか。
ふと見ると妖精さんは全身の瞬きでおいしさを表現している。
一心不乱に焼き菓子にかじりつく様は、小型犬に餌付けをしているようでなんだか癒される。
まるで”おいしさは正義だ!”といわんばかりに煌々と輝いている様子を見て、さっきまでのシリアスなんかどうでもよくなってしまった。
読んでくださりありがとうございます。
初めて戦闘のない話になりました。
妖精さんは癒し要素ですかね。




