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おっ、やっと形にはなってきたじゃねーか」


ルーナは腕を組みながら、俺の様子を眺めていた。


俺は両手を前に突き出し、手のひらに魔力を集めている。まだ小さな魔力の塊を作るのが精一杯だが、以前に比べれば随分と上達したと思う。


魔力を感じ取るところから始まり、魔力を体の中で動かし、そして一箇所に集める。


ここまで来るのに、かなりの時間がかかった。


「ありがとうございます! 師匠のおかげです!」


「調子に乗るんじゃねぇぞ。修行に終わりはねぇからな」


「そ、そうですよね……」


褒められたと思ったら、すぐに釘を刺された。


まあ、ルーナらしいと言えばルーナらしい。


「さて、次は体力作りだな」


「体力作り?」


「そうだ。お前、貧弱すぎる」


「うっ……」


自分でも分かっている。


日本にいた頃は、特別運動をしていたわけでもない。会社と家を往復するだけの生活だったし、休日は家でゴロゴロしていることが多かった。


そんな俺が、いきなり異世界で魔法の修行をしているのだから、体力があるわけもない。


「とりあえず、そのまま全身に魔力を流しながら全力で走り続けろ」


「えっ?」


「聞こえなかったか?」


「いや、聞こえましたけど……全力で走り続けるんですか?」


「そうだ。魔力を全身に巡らせながらな」


ルーナは当たり前のように言った。


「魔力を体に流すと、身体能力を強化できる。最初はうまくいかねぇだろうが、何度も繰り返せ」


「なるほど……」


「それに、魔物に襲われたとき逃げられなきゃ死ぬぞ」


「そ、それは確かに……」


「お前、死にたくねぇだろ?」


「もちろんです!」


「だったら走れ!」


こうして俺の体力作りが始まった。


最初は魔力を全身に流すことを意識しながら走っていたのだが、これが思った以上に難しい。


足に意識を向ければ上半身への魔力が途切れ、全身に意識を向けようとすれば走ることがおろそかになる。


しかも、全力で走れと言われている。


「はぁ……はぁ……もう無理……」


「まだ始めたばかりだろうが!」


「いや、もう足が……!」


「うるせぇ! 動け!」


ルーナの容赦ない声が飛んでくる。


結局、俺は何度も転びそうになりながら、走り続けることになった。


ようやく休憩を許された頃には、地面に倒れ込んでいた。


「はぁ……はぁ……死ぬ……」


「大げさな奴だな」


「師匠……少しは休ませてください……」


「休憩はしていいぞ。ただし、いつまでも寝転がってるんじゃねぇ」


ルーナは呆れたようにため息をついた。


しばらくして息が落ち着いてくると、今度は魔法の練習が始まった。


「よし、次は魔法だ」


「まだやるんですか……」


「当たり前だろ。お前は何をしにここに来たんだ?」


「魔法を覚えるためです……」


「分かってんなら文句を言うな」


ルーナは俺の前に立つと、指先に小さな炎を灯した。


「まずは詠唱を覚えろ」


「詠唱ですか?」


「そうだ。魔法を使うための言葉だ。魔法によって違うが、まずは基本的なものから覚えろ」


ルーナが詠唱を口にすると、指先の炎が大きくなった。


「こんな感じだ」


「へぇ……すごいですね」


「お前もやってみろ」


「はい」


俺は教えられた言葉を口にする。


しかし、いざ声に出してみると、なんだか妙に恥ずかしい。


「……何か恥ずかしいですね」


「はぁ? 何言ってやがる」


ルーナは心底呆れたような顔をした。


「魔法を使うのに恥ずかしいも何もあるか。死にたくねぇだろ?」


「そ、それはそうですけど……」


「まあ、鍛えれば詠唱なしでも感覚でいずれはできるさ」


「本当ですか?」


「ただし、お前には無理だろうがな。何せ覚えが悪いし」


「えぇぇ……」


ひどい言われようだ。


確かに俺は覚えが悪い。魔力を感じ取るだけでも何日もかかったし、魔力操作も数週間かかっている。


それでも、せっかく異世界に来たのだ。


魔法くらいは使えるようになりたい。


「頑張ってみます!」


「おう、その意気だ」


ルーナはニヤリと笑った。


どうやら俺の反応を見て楽しんでいるらしい。


それから俺は、何度も詠唱を繰り返した。


最初は何も起こらなかったが、何度も練習しているうちに、手のひらに小さな光が生まれた。


まだ魔法と呼べるほどのものではない。


それでも、少しずつ前に進んでいる気がした。


「よし、今日はここまでにするか」


「えっ、もう終わりですか?」


「なんだ? もっとやりてぇのか?」


「い、いえ……そういうわけでは……」


正直、体は限界だった。


ルーナはそんな俺を見て、少し笑う。


「ああ、そうだ。これを貸してやる」


そう言って、ルーナは何冊かの本を持ってきた。


「これは?」


「魔物や薬草について書かれた本だ。街の外に出るなら、知っておいて損はねぇ」


本を開くと、見たこともない生き物の絵や植物の絵が描かれていた。


それぞれの名前や特徴、危険性、採取方法などが細かく記されている。


「魔物の弱点や、薬草の使い方なんかも載ってる。分からなければ聞け」


「ありがとうございます。こんな本まで貸してもらっていいんですか?」


「別に構わねぇよ。どうせ俺様の家にある本だ」


ルーナは何でもないように言った。


俺は本を大切に抱えた。


魔法だけ覚えればいいというわけではない。


この世界で生きていくには、知らなければならないことが山ほどある。


「いいか、ケン」


ルーナがいつになく真剣な表情で俺を見た。


「生きたければ知識と力をつけろ。魔法が使えるだけじゃ生き残れねぇ。魔物のことも、この世界のことも知らなきゃならねぇ」


「はい」


「俺様が教えられることは教えてやる。だが、最後にどうするかはお前次第だ」


その言葉を聞いて、俺は背筋を伸ばした。


この世界には、俺の知らないことがたくさんある。


危険もあるし、まだまだ不安なことばかりだ。


それでも、ここで生きていくためには前に進むしかない。


「頑張ります。師匠に教えてもらったこと、無駄にしません」


「ふん。口だけにならねぇようにな」


ルーナはそう言って、いつものように笑った。


俺は借りた本を抱えながら、改めて決意する。


まずは体力作り。


それから魔法の習得。


そして、この世界についてもっと知ること。


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