12
ゴブリンの討伐を終えた俺たちは、街へ戻ることにした。
「それにしても、まさか全部収納できるとはな」
ルーナは歩きながら、何度も俺の方を見てくる。
「俺も驚きましたよ。まさかこんな能力があるなんて」
「空間魔法か……いや、普通の空間魔法とは少し違う気もするがな」
「そうなんですか?」
「まあ、詳しく調べるのは後だ。まずは素材を売りに行くぞ」
「はい!」
街に到着すると、俺たちは冒険者組合へ向かった。
受付で依頼書を提出し、討伐したゴブリンの数を報告する。
「ゴブリンの討伐ですね。確認いたしますので、少々お待ちください」
受付嬢が確認を終えると、報酬を渡してくれた。
さらに、回収した魔石や牙も買い取ってもらう。
「こちらが討伐報酬と素材の買取金額になります」
「ありがとうございます」
受け取ったお金を確認する。
思っていたよりも稼げた。
ゴブリン自体は大した素材にならないと言っていたが、数が多かったおかげだろう。
「初めてにしては上出来だな」
「師匠のおかげですよ」
「まあな。俺様がいなかったら、どうなっていたことか」
ルーナは得意げに胸を張った。
「さて、今日は頑張ったし飯でも食いに行くか」
「いいですね!」
俺たちは冒険者組合の中にある酒場へ向かった。
酒場は冒険者たちで賑わっていた。
大きな声で笑う者、仲間と話し込む者、酒を飲んで騒いでいる者。
まさに冒険者の集まる場所という雰囲気だ。
俺たちは空いているテーブルに座り、料理と飲み物を注文した。
しばらくすると、料理と酒が運ばれてくる。
「お待たせしました!」
テーブルに並べられた料理を見て、俺は思わず笑顔になった。
肉料理にスープ、パン。
豪華とは言えないが、今日の俺にとっては十分なご馳走だ。
「師匠もお酒を飲むんですね」
「当たり前だろ。俺様だって酒くらい飲むぞ」
「見た目は小さいですけど……」
「なんか言ったか?」
「いえ、何でもありません!」
ルーナはグラスを持ち上げる。
「ほら、お前も飲んでみろよ」
「いいんですか?」
「冒険者になった記念だ。少しくらい飲んでみろ」
俺はグラスを受け取り、一口飲んでみた。
「……うっ」
思わず顔をしかめる。
「なんだ、その顔は」
「あまり美味しくないです……」
「ははっ! 酒なんてそんなもんだろ」
「日本じゃもっと美味しかったですし」
「ほう? お前の世界の酒はそんなに美味いのか?」
「はい。種類もたくさんありますし、美味しいんですよ」
「へぇ……ますます行ってみたくなったな」
ルーナは興味深そうにグラスを傾けた。
それから俺たちは料理を食べながら、いろいろな話をした。
俺の世界の食べ物や飲み物、ルーナが知っている魔物や魔法の話。
気がつけば、かなりの時間が経っていた。
そして……。
「おい、もう一杯だぁ!」
「師匠、もう結構飲んでますよ」
「うるせぇ! まだ飲める!」
どうやらルーナはかなり酒に強いらしい。
いや、強いというより、飲み過ぎているだけかもしれない。
その後も飲み続けた結果、帰る頃にはルーナはすっかり酔っ払っていた。
「師匠、帰りますよ」
「んぁ? 帰るのかぁ?」
「はい。歩けますか?」
「歩けるに決まってんだろぉ……」
そう言いながら、ルーナはふらふらと立ち上がった。
そして一歩踏み出したところで、俺の方へ倒れ込んでくる。
「うわっ! 師匠!」
「むにゃ……」
完全に酔い潰れてしまったようだ。
仕方がない。
俺はルーナを背負うことにした。
「軽いな……」
小柄な体なので、思ったよりも軽かった。
そのままルーナをおんぶして、家まで帰る。
「よいしょっと」
家に着くと、俺はルーナをベッドに寝かせた。
「お疲れさまでした、師匠」
返事はない。
すっかり眠っているようだ。
俺も疲れていたので、そのまま自分の寝床に入った。
こうして、異世界での初めての討伐と冒険者としての仕事は終わった。
翌朝。
「うぅ……」
ルーナの声で目が覚めた。
「頭いてぇ……」
どうやら二日酔いらしい。
「飲み過ぎた……」
「おはようございます、師匠」
「ああ……おはよう……」
ルーナは頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がった。
「てか、いつ帰ってきたんだ?」
「昨日の夜ですよ」
「どうやって帰った?」
「俺がおんぶして帰りました」
「……はっ?」
ルーナの動きが止まった。
「おんぶだと?」
「はい。歩けそうになかったので」
その瞬間、ルーナの顔がみるみる赤くなった。
「て、てめぇ! 恥ずかしいことしてんじゃねぇーよ!」
「えっ? でも、仕方なかったじゃないですか」
「他から見たら親子じゃねぇーか!」
「まあ、いいじゃないですか。師匠はちっちゃいんですから」
「……はぁ?」
ルーナの声が急に低くなった。
「てめぇ、今ちっちゃいって言ったか?」
「えっ……」
「殺すぞ」
冷たい声だった。
冗談ではない。
俺はすぐさま床に手をつき、勢いよく頭を下げた。
「すみませんでしたぁぁ!」
スライディング土下座である。
「次はないぞ!」
「はい! 気をつけます!」
危なかった……。
師匠の地雷を踏んでしまったらしい。
朝食を済ませると、ルーナはいつもの調子に戻っていた。
「さて、今日は修行だ」
「はい」
「まずは走ってこい」
「分かりました!」
俺は外へ出て、いつものように魔力を全身に巡らせながら走り始めた。
その間、頭の中では昨日の空間魔法について考えていた。
せっかく手に入れた能力だ。
もっと詳しく調べておきたい。
走り込みを終えたあと、俺はルーナに相談してみた。
「師匠、昨日の空間魔法なんですが、色々試してみてもいいですか?」
「おう。面白そうだしな。やってみろ」
俺は庭に置いてあった石や木材、道具などを収納してみることにした。
まずは小さな石。
次に木材。
さらに少し大きな道具。
どれも問題なく収納できた。
「なるほど……」
ただし、一つ気づいたことがある。
「師匠、これって触れないと収納できないみたいです」
「ほう?」
「目の前にあるものでも、手が届かないと入れられません」
「なるほどな。今のところは触れたものを収納する能力ってことか」
俺はさらに色々なものを入れてみた。
少しずつ収納する量を増やしていく。
どうやら容量には上限があるらしい。
ただ、その上限はかなり大きい。
「だいたい分かってきました。容量には限界がありますけど、かなり入りますね」
「どれくらいだ?」
「そうですね……街ごと入るんじゃないかと思うくらいです」
「おいおい、それはやべぇな」
ルーナは驚いた顔をした。
「普通の魔法袋とは比べものにならねぇじゃねぇか。便利な能力だな」
「そうですね。荷物を運ぶ必要がなくなりますし」
さらに、もう一つ気になることがあった。
「あと、時間が止まっているかもしれません」
「時間が?」
「昨日入れたゴブリンを出してみたんですけど、見た目が変わっているようには見えなかったんです」
「腐敗してねぇってことか?」
「はい。まだ一日しか経っていないので、確実ではないですけど」
「それは面白いな。もう少し調べてみる価値はありそうだ」
「なので、確認のために数日間入れておこうと思います」
「そうだな。食べ物なんかも入れてみたらどうだ?」
「それも試してみます」
空間魔法については、まだ分からないことだらけだ。
これから少しずつ検証していこう。
その日の午後。
俺はルーナの家にある本を読んでいた。
魔物や薬草についての本は一通り目を通している。
その中で、気になる言葉があった。
「師匠、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「本で見たんですが、ダンジョンってどんなところなんですか?」
ルーナの手が一瞬止まった。
「ダンジョンか……」
「はい。魔物がたくさんいる場所なんですよね?」
「ああ。魔物が出てきたり、珍しい素材や魔道具が見つかったりする場所だな」
「宝物もあるんですか?」
「あるにはある。だが、危険も多いぞ」
ルーナは本を閉じ、俺の方を見た。
「ダンジョンは普通の森や洞窟とは違う。中の構造が変わることもあるし、強力な魔物がいる場所もある」
「へぇ……」
「興味があるのか?」
「まあ、少しは。冒険者なら一度は行ってみたいですし」
「ははっ! その前に、まずはゴブリン相手に一人で戦えるようになれ」
「ですよね……」
ルーナは楽しそうに笑った。
「ダンジョンに行きたきゃ、もっと鍛えろ。話はそれからだ」
「はい!」
俺は再び本に目を落とした。
この世界には、まだまだ知らないことがたくさんある。
魔法に魔物、魔道具、そしてダンジョン。
これからどんな経験が待っているのだろう。
少し怖いけれど、それ以上に楽しみでもあった。




