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ゴブリンの巣での討伐は、まだ続いていた。


「ほら、次だぞ!」


「は、はい!」


ルーナが魔法でゴブリンの動きを封じたり、弱らせたりする。


そして、動けなくなったゴブリンに俺が近づき、短剣でトドメを刺す。


その繰り返しだった。


最初の一匹は、手が震えてなかなか動けなかった。


二匹目も、三匹目も、決して簡単ではなかった。


それでも何度も繰り返しているうちに、少しずつ躊躇いが薄れていった。


もちろん、気持ちのいいものではない。


だが、ここで生きていくためには必要なことだ。


「よし、これで最後だな」


ルーナの魔法で動けなくなったゴブリンに、俺は短剣を突き立てた。


これで終わりか……。


周囲を見回すと、そこら中にゴブリンが倒れている。


「全部で二十匹以上はいたな」


「そんなにいたんですね……」


「巣だからな。まあ、今回は俺様がほとんど弱らせてやったが」


「ありがとうございます。師匠がいなかったら、とても無理でした」


「最初はそんなもんだ。少しは慣れたか?」


「はい。最初よりは……」


自分でも驚くほど、最初のような恐怖は薄れていた。


それでも、まだ一人で戦える自信はない。


「よし、次は素材の回収だ」


「素材ですか?」


「そうだ。魔物を倒したら、使えるものを回収する。これも冒険者の仕事だぞ」


ルーナは倒れているゴブリンの一匹に近づいた。


「ゴブリンは素材としてはカスみたいなもんだが、魔石は取れる」


「魔石?」


「魔物の体内にある石だ。魔力が蓄えられている。小さいが売れるぞ」


ルーナは慣れた手つきでゴブリンの体から小さな石を取り出した。


「これが魔石だ」


「へぇ……」


「ほかにも牙くらいは取れる。袋に入る分だけ持って帰るぞ」


「牙もですか?」


「当たり前だろ。買い取ってもらえるものは回収する」


俺もルーナを見習って、素材を取り出そうとした。


しかし……。


「うっ……」


思わず顔をしかめてしまう。


「なんだ?」


「いや、これ……結構グロいですね」


「はぁ? 何言ってやがる。これも慣れろ」


「そうですよね……」


魔物の体から素材を取り出すのは、想像していた以上に大変だった。


魔石を取り出し、牙を抜く。


それだけでも、かなり時間がかかる。


「魔法をもっと練習すれば、こういう作業も簡単にできるようになるぞ」


「本当ですか?」


「ああ。魔力操作を覚えれば、刃物を使わなくても魔法で取り出せるようになる。まあ、今のお前にはまだ無理だろうがな」


「頑張ります……」


俺は苦笑いしながら、再び素材の回収を始めた。


しかし、周囲を見渡すと、まだまだゴブリンの死体が残っている。


「師匠、これ全部回収するのは無理ですね」


「そうだな。魔石と牙だけでも結構な量になる。持って帰れる分だけでいい」


俺は自分の袋を見た。


これだけの素材を持ち帰るとなると、かなり重くなるだろう。


そのときだった。


ふと、何か違和感を覚えた。


目の前に転がっているゴブリンの死体。


その横にある魔石や牙。


これを全部持って帰れたら、どれだけ楽だろう。


そんなことを考えた瞬間だった。


――何か、できそうな気がする。


「……ん?」


俺は何となく目の前に手を伸ばした。


すると、目の前の空間が歪んだ。


「えっ?」


空気が揺れるようにして、俺の目の前に黒い穴のような空間が現れた。


「おい、ケン! なんだそれ!」


ルーナが驚いた声を上げる。


「えっ? いや、俺にも分かりません!」


「何をしたんだ?」


「いや、何となく……」


俺は自分でも何が起きたのか分からず、目の前の空間を見つめた。


「もしかして、空間魔法か?」


ルーナが興味深そうに近づいてくる。


「空間魔法?」


「物を収納したり、空間を移動させたりする魔法だ。だが、何の詠唱もなしに使うなんて……」


「とりあえず、入れてみますね」


俺は目の前に転がっていたゴブリンの死体を見た。


そして、何となくそこに収納するイメージを浮かべる。


すると――。


スッ。


「おおっ!」


ゴブリンの死体が、丸ごと空間の中へ消えてしまった。


「入った……」


「おい、今のは死体ごとか?」


「はい。入りましたね……」


「出せるか?」


「やってみます」


今度は取り出すイメージを浮かべた。


すると、目の前に先ほどのゴブリンが現れた。


「出ました!」


「おおっ! すげぇな!」


ルーナが珍しく大きな声を上げた。


「良い能力じゃねぇか。まさか空間魔法を使えるとはな」


「俺にもよく分からないんですけど……」


「とりあえず、もう少し試してみようぜ」


ルーナは楽しそうに笑った。


俺も自分の手を見つめる。


そういえば、こちらの世界に来たときのことを思い出した。


最初、俺は草原で目を覚ました。


そのとき、持っていたのは着ていた服だけだった。


スマートフォンや財布はポケットに入っていたはずなのに、見当たらなかった。


だが、ルーナの家で服のポケットを調べたとき、スマートフォンが見つかった。


「あれ……もしかして」


「どうした?」


「いや、ここに来たときのことなんですけど。最初は服しかなかったんです。でも、あとからスマートフォンが見つかったんですよ」


「ほう?」


「もしかしたら、あのときもこの能力が関係していたのかなって」


「なるほどな。転移したときに、無意識に収納した可能性もあるかもしれねぇな」


ルーナは顎に手を当てて考え込んだ。


「どれくらい入るか試してみようぜ」


「えっ、ここでですか?」


「他にどこで試すんだよ。ちょうど素材も大量にあるだろ」


確かにそうだ。


俺は目の前の空間に意識を集中させる。


まずは、ゴブリンの死体を一つ。


次に二つ。


魔石や牙も収納していく。


さらに、少し離れた場所にあるゴブリンも試しに入れてみた。


すると、問題なく収納できた。


「おお……」


気がつけば、周囲に転がっていたゴブリンの死体は、すべて消えていた。


「全部入っちゃいましたね……」


「おお! すげぇな!」


ルーナは目を輝かせていた。


「こんなに入る空間魔法なんて、そうそうねぇぞ」


「そうなんですか?」


「ああ。普通の魔法袋より、よっぽど便利じゃねぇか。大きな魔法袋を持っているようなもんだな」


俺は目の前の空間を見つめた。


まさか、自分にこんな能力があったなんて。


今まで魔法の才能がないと言われ続けてきた俺だが、これだけは別らしい。


「もしかして、これがいわゆる異世界特典ってやつですかね?」


「異世界特典?」


「いや、俺の世界の物語だと、異世界に行くと特別な能力をもらったりすることがあるんですよ」


「ははっ! そういうことか。まあ、そうかもしれねぇな!」


ルーナは楽しそうに笑った。


「しかし、魔法の才能はねぇのに、こんな能力を持ってるとはなぁ」


「うっ……」


「まあいい。便利な能力には違いねぇ」


ルーナは俺の肩を軽く叩いた。


「それでも鍛えてやるよ。せっかく異世界に来たんだ。生き残れるくらいには強くなってもらわねぇとな」


「はい! よろしくお願いします!」


俺は改めて、目の前の空間を見つめた。


これが俺の能力。


この力があれば、荷物を運ぶのも楽になるし、冒険者としても役に立つかもしれない。


思いがけない形で手に入れた力。



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