11
ゴブリンの巣での討伐は、まだ続いていた。
「ほら、次だぞ!」
「は、はい!」
ルーナが魔法でゴブリンの動きを封じたり、弱らせたりする。
そして、動けなくなったゴブリンに俺が近づき、短剣でトドメを刺す。
その繰り返しだった。
最初の一匹は、手が震えてなかなか動けなかった。
二匹目も、三匹目も、決して簡単ではなかった。
それでも何度も繰り返しているうちに、少しずつ躊躇いが薄れていった。
もちろん、気持ちのいいものではない。
だが、ここで生きていくためには必要なことだ。
「よし、これで最後だな」
ルーナの魔法で動けなくなったゴブリンに、俺は短剣を突き立てた。
これで終わりか……。
周囲を見回すと、そこら中にゴブリンが倒れている。
「全部で二十匹以上はいたな」
「そんなにいたんですね……」
「巣だからな。まあ、今回は俺様がほとんど弱らせてやったが」
「ありがとうございます。師匠がいなかったら、とても無理でした」
「最初はそんなもんだ。少しは慣れたか?」
「はい。最初よりは……」
自分でも驚くほど、最初のような恐怖は薄れていた。
それでも、まだ一人で戦える自信はない。
「よし、次は素材の回収だ」
「素材ですか?」
「そうだ。魔物を倒したら、使えるものを回収する。これも冒険者の仕事だぞ」
ルーナは倒れているゴブリンの一匹に近づいた。
「ゴブリンは素材としてはカスみたいなもんだが、魔石は取れる」
「魔石?」
「魔物の体内にある石だ。魔力が蓄えられている。小さいが売れるぞ」
ルーナは慣れた手つきでゴブリンの体から小さな石を取り出した。
「これが魔石だ」
「へぇ……」
「ほかにも牙くらいは取れる。袋に入る分だけ持って帰るぞ」
「牙もですか?」
「当たり前だろ。買い取ってもらえるものは回収する」
俺もルーナを見習って、素材を取り出そうとした。
しかし……。
「うっ……」
思わず顔をしかめてしまう。
「なんだ?」
「いや、これ……結構グロいですね」
「はぁ? 何言ってやがる。これも慣れろ」
「そうですよね……」
魔物の体から素材を取り出すのは、想像していた以上に大変だった。
魔石を取り出し、牙を抜く。
それだけでも、かなり時間がかかる。
「魔法をもっと練習すれば、こういう作業も簡単にできるようになるぞ」
「本当ですか?」
「ああ。魔力操作を覚えれば、刃物を使わなくても魔法で取り出せるようになる。まあ、今のお前にはまだ無理だろうがな」
「頑張ります……」
俺は苦笑いしながら、再び素材の回収を始めた。
しかし、周囲を見渡すと、まだまだゴブリンの死体が残っている。
「師匠、これ全部回収するのは無理ですね」
「そうだな。魔石と牙だけでも結構な量になる。持って帰れる分だけでいい」
俺は自分の袋を見た。
これだけの素材を持ち帰るとなると、かなり重くなるだろう。
そのときだった。
ふと、何か違和感を覚えた。
目の前に転がっているゴブリンの死体。
その横にある魔石や牙。
これを全部持って帰れたら、どれだけ楽だろう。
そんなことを考えた瞬間だった。
――何か、できそうな気がする。
「……ん?」
俺は何となく目の前に手を伸ばした。
すると、目の前の空間が歪んだ。
「えっ?」
空気が揺れるようにして、俺の目の前に黒い穴のような空間が現れた。
「おい、ケン! なんだそれ!」
ルーナが驚いた声を上げる。
「えっ? いや、俺にも分かりません!」
「何をしたんだ?」
「いや、何となく……」
俺は自分でも何が起きたのか分からず、目の前の空間を見つめた。
「もしかして、空間魔法か?」
ルーナが興味深そうに近づいてくる。
「空間魔法?」
「物を収納したり、空間を移動させたりする魔法だ。だが、何の詠唱もなしに使うなんて……」
「とりあえず、入れてみますね」
俺は目の前に転がっていたゴブリンの死体を見た。
そして、何となくそこに収納するイメージを浮かべる。
すると――。
スッ。
「おおっ!」
ゴブリンの死体が、丸ごと空間の中へ消えてしまった。
「入った……」
「おい、今のは死体ごとか?」
「はい。入りましたね……」
「出せるか?」
「やってみます」
今度は取り出すイメージを浮かべた。
すると、目の前に先ほどのゴブリンが現れた。
「出ました!」
「おおっ! すげぇな!」
ルーナが珍しく大きな声を上げた。
「良い能力じゃねぇか。まさか空間魔法を使えるとはな」
「俺にもよく分からないんですけど……」
「とりあえず、もう少し試してみようぜ」
ルーナは楽しそうに笑った。
俺も自分の手を見つめる。
そういえば、こちらの世界に来たときのことを思い出した。
最初、俺は草原で目を覚ました。
そのとき、持っていたのは着ていた服だけだった。
スマートフォンや財布はポケットに入っていたはずなのに、見当たらなかった。
だが、ルーナの家で服のポケットを調べたとき、スマートフォンが見つかった。
「あれ……もしかして」
「どうした?」
「いや、ここに来たときのことなんですけど。最初は服しかなかったんです。でも、あとからスマートフォンが見つかったんですよ」
「ほう?」
「もしかしたら、あのときもこの能力が関係していたのかなって」
「なるほどな。転移したときに、無意識に収納した可能性もあるかもしれねぇな」
ルーナは顎に手を当てて考え込んだ。
「どれくらい入るか試してみようぜ」
「えっ、ここでですか?」
「他にどこで試すんだよ。ちょうど素材も大量にあるだろ」
確かにそうだ。
俺は目の前の空間に意識を集中させる。
まずは、ゴブリンの死体を一つ。
次に二つ。
魔石や牙も収納していく。
さらに、少し離れた場所にあるゴブリンも試しに入れてみた。
すると、問題なく収納できた。
「おお……」
気がつけば、周囲に転がっていたゴブリンの死体は、すべて消えていた。
「全部入っちゃいましたね……」
「おお! すげぇな!」
ルーナは目を輝かせていた。
「こんなに入る空間魔法なんて、そうそうねぇぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。普通の魔法袋より、よっぽど便利じゃねぇか。大きな魔法袋を持っているようなもんだな」
俺は目の前の空間を見つめた。
まさか、自分にこんな能力があったなんて。
今まで魔法の才能がないと言われ続けてきた俺だが、これだけは別らしい。
「もしかして、これがいわゆる異世界特典ってやつですかね?」
「異世界特典?」
「いや、俺の世界の物語だと、異世界に行くと特別な能力をもらったりすることがあるんですよ」
「ははっ! そういうことか。まあ、そうかもしれねぇな!」
ルーナは楽しそうに笑った。
「しかし、魔法の才能はねぇのに、こんな能力を持ってるとはなぁ」
「うっ……」
「まあいい。便利な能力には違いねぇ」
ルーナは俺の肩を軽く叩いた。
「それでも鍛えてやるよ。せっかく異世界に来たんだ。生き残れるくらいには強くなってもらわねぇとな」
「はい! よろしくお願いします!」
俺は改めて、目の前の空間を見つめた。
これが俺の能力。
この力があれば、荷物を運ぶのも楽になるし、冒険者としても役に立つかもしれない。
思いがけない形で手に入れた力。




