13
あれから一ヶ月以上が経った。
俺は毎日、ルーナの家で特訓を続けていた。
朝は体力作り。魔力を全身に巡らせながら走り込み、その後は魔法の練習。
午後からはルーナと一緒に街の外へ出て、様々な魔物の討伐や薬草の採取を行った。
最初はゴブリン一匹を倒すのにも躊躇していた俺だが、今では自分一人でもある程度戦えるようになっている。
もちろん、強い魔物が相手なら話は別だ。
それでも、この周辺に出てくる魔物なら、以前ほど苦労することはなくなった。
短剣の扱いにも慣れ、魔物の弱点や素材の取り方も覚えた。
そして、空間魔法も毎日のように使っている。
荷物を持ち運ぶ必要がないので、冒険者としてはかなり便利な能力だ。
ただ、魔法の方はというと……。
「よし、今日はここまでだ!」
「ありがとうございました!」
俺は額の汗を拭いながら、ルーナの方を向いた。
「段々良くなってきたじゃねぇか」
「本当ですか?」
「ああ。最初に比べれば随分マシになった。体力もついてきたし、短剣もそれなりに扱えるようになったな」
「ありがとうございます!」
「まあ、魔法は微妙だがな」
「うっ……」
そこは相変わらずらしい。
魔力操作はできるようになったものの、攻撃魔法を使おうとすると、威力が弱かったり、狙いがずれたりする。
ルーナのように自在に魔法を扱うには、まだまだ時間がかかりそうだ。
「まあ、この辺ならもう大丈夫だな」
「この辺って、周辺の魔物ですか?」
「そうだ。お前一人でも、ある程度は対処できるだろう」
「はい。最初よりは自信がつきました」
「よし。そろそろダンジョンでも行くか」
「えっ! ダンジョンですか?」
思わず声が大きくなった。
以前から気になっていた場所だ。
魔物が出てくるだけでなく、珍しい素材や魔道具、宝物なども見つかるらしい。
いつか行ってみたいと思っていた。
「行くぞ。ただし、準備はしっかりするからな」
「分かりました!」
「まずは食料と水。それから着替えも必要だな」
「着替えですか?」
「ダンジョンにどれくらい滞在するか分からねぇだろ。汚れたり濡れたりすることもある。予備は持っておけ」
「なるほど」
俺は言われたものを確認しながら、空間魔法に収納していく。
食料、水、着替え、必要な道具。
こういうとき、空間魔法は本当に便利だ。
普通なら荷物を背負って歩かなければならないが、俺にはその必要がない。
「よし、これで大丈夫か?」
「はい。だいたい収納しました」
「じゃあ、これも頼む」
ルーナが持ってきたのは、少し変わった形の大きな袋だった。
「これは?」
「アイテムの簡易テントだ。これも収納しておいてくれ」
「テントですか?」
「ああ。水があればシャワーも浴びられるし、ベッドも付いてる」
「えっ、シャワーまであるんですか?」
俺は驚いて袋を見つめた。
見た目は普通の荷物に見えるが、そんな便利な機能があるらしい。
「かなり便利だぞ。少し固いけど、ベッドもある。野宿するよりずっとマシだ」
「そんなものまであるんですね」
「昔、友と一緒に作ったんだよ。かなり便利だけど、一人用だけどな」
「へぇ……師匠が作ったんですか?」
「俺様と友がな。まあ、細かい話はまた今度だ」
ルーナは何でもないように言った。
俺は簡易テントを受け取り、空間魔法に収納した。
昔、誰かと一緒に作ったものか。
ルーナにも、いろいろな過去があるのだろう。
「あと、これも持っていくぞ」
今度は小さな瓶をいくつか取り出した。
中には赤みがかった液体が入っている。
「これは何ですか?」
「回復薬だ。ケガしたとき用にな」
「回復薬? そんな物まで売ってるんですね」
「当たり前だろ。冒険者にとっては必需品みたいなもんだ。傷を治したり、体力を回復させたりできる」
「すごいですね」
「ただし、何でも治るわけじゃねぇぞ。重傷なら効果も限られるし、失った腕が生えてくるような代物じゃない」
「なるほど……」
「今回は少し多めに買っておく。お前が無茶をする可能性もあるからな」
「俺、そんなに無茶しますか?」
「するだろ。自分の実力も分からずに突っ込む奴は、だいたいそう言うんだよ」
「気をつけます……」
ルーナは回復薬を俺に渡した。
俺はそれも空間魔法に収納する。
「師匠、回復薬って自分で作れるんですか?」
「作れるぞ。薬草や魔物の素材を使うんだ」
「そうなんですか!」
「今度、作り方も教えてやるよ。薬草の見分け方も覚えてきただろ?」
「はい。まだ全部は分かりませんけど」
「まあ、少しずつ覚えればいい」
ルーナは腕を組んで、俺の顔を見た。
「それに、今回は俺様も一緒に行く。死ななければ回復魔法も使ってやるよ」
「死ななければって……」
「ははっ! 冗談だよ」
本当に冗談なのだろうか。
この師匠なら、笑いながら言いそうで少し怖い。
「とにかく、無理はするな。ダンジョンは森とは違う。逃げ道が限られることもあるし、奥へ行くほど危険になる」
「分かりました」
「お前はまだ経験が浅い。俺様の指示には従え。勝手な行動はするなよ」
「はい!」
俺は腰の短剣を確認した。
食料、水、着替え、簡易テント、回復薬。
必要なものはすべて空間魔法に収納した。
準備は整った。
「よし、行くぞ!」
ルーナが玄関へ向かう。
俺もその後に続いた。
異世界に来てから、いろいろなことがあった。
言葉も分からず、魔物に追いかけられ、路地裏で途方に暮れていたあの日。
そんな俺が、今では冒険者組合に登録し、魔物を倒し、ダンジョンへ向かおうとしている。
自分でも不思議なくらいだ。
「ケン、何ぼーっとしてやがる。置いてくぞ!」
「あっ、待ってください!」
俺は慌ててルーナの後を追った。
いよいよダンジョンだ。
どんな場所なのか、どんな魔物がいるのか。
不安もあるが、それ以上に楽しみだった。




