第5章 さらば暗黒邪神ザドレア! 5
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横一列になったイケメン様たちの一糸乱れぬ演技から、フォーメーションを変えて、リオ様とショー様の演舞へ。その時点で、あたしは既に昇天しそうだった。
鎧の指示に従って設定を変え、装甲を極限まで薄く、そしてスポンジみたいな穴だらけの構造にしたために、ステルス機能はなくならないまま、外からの音や匂い、熱気なんかはそのまま内部に入ってくるようになった。その上――もっと早く教えてくれてもよかったのに――ソーホーコーセーガゾートーシャキノーとかなんとかいう魔法のようななんかを起動させたところ、鎧はあたしの目からも見えなくなった。ということで、あたしはド○えもんの透明マントをはおってその場にいるかのような、臨場感バリバリの状態で、特等席に陣取っていたのである。
ああ、ケツが冷てェ。これだけは設定変えたマイナスポイントだけど、他はちょっとあり得ない位すげぇ……知らなかったな、このあたりの風はこんなに気持ちいい感じだったんだ。それに、公演始まる前から、こんなにオトコくさい匂いが漂っていたなんて……。
野生の精悍なオスを感じさせるその匂いは、ケント様の「そいや!」の声で公演が始まるやいなや、さらに濃厚なものとなって、あたしを押し包んだ。それだけであたしのカラダは全身が鳥肌立ち、胸の奥から大きなカタマリのような何かがせり上がって、全身の穴という穴から熱い液体となってほとばしり落ちる。
おおおおおおオトコの、いいいいいいイケメン様の熱い香りが、ああああああたしを取り巻いて……ああ……天国やあ……。
恍惚とした表情で鼻をひくつかせ、半開きにした口からよだれをだらだら流しながら、あたしはひたすら、イケメン様たちの無骨な演技に、リオ様の分厚い大胸筋に、ショー様の六つに割れた腹筋に、そしてケント様のしなやかなお尻に見入っていた。
ぐへ。ぐへへへ……し、しり、しりしりしり腹筋太もも肩イケメン声、ぐへへへへ……。
あまりの感動に――感動ちゃうやろって?うるさいな――腰が抜け、立っていることも座っていることもできず、四つん這いでうずくまる。全身を細かくぶるぶる震わせ、理性の崩壊したただの一匹のメスのケダモノとなって、あたしはらんらんと光る目で、獲物たちをじっと見つめた。
そして、リオ様とショー様の演武が、濃厚な汗の香りだけを残してつつがなく終了し……その時がやってきたのである!
「いまだ!」
500年もの間、この時が来るのをひたすら待ち続けていたアベーロ師は、身を潜めていた草むらから立ち上がると、目の前にある祭壇へと対峙した。
その上には、既に『原初の三冊』が――ハムンザの砦で秘匿されていた『黒の書』、イン・ナセの街で防護障壁の源となっていた『死の書』、そして、ケント王より借り受けた、聖トゥーハ神王国の王城に秘蔵されていた最後の書が、所定の位置に置かれている。
それぞれが微妙に異なった――しかしどれもおしなべて強力で邪悪な――オーラを放っている三冊の書物を前に、アベーロ師は悲壮な顔つきで天を仰ぎ、体中はち切れんばかりに息を吸い込むと、かっと目を見開き、下腹に力を込めた。
やがて、その口から不吉な響きを宿した呪文が這い出しはじめる。
「オライノオドドキダラホンニセゴギダモンダガラミンナステアダマサカガエデルノ……」
と、『原初の三冊』の扉がばたんと開き、ものすごい勢いでページがめくられ、あるところでぴたりと停止する。同時に、それぞれの中心からぶわっと立ちのぼった暗い色の瘴気が、祭壇の中心で渦を巻き、絡み合い……漆黒の球体を作り出した。
「アンダンドゴノオガガケタズンダモツモヒトリデクテモデワラスラナグゴドナグゴド……」
アベーロ師が額にびっしりと汗を浮かべつつ、なおも呪文を唱えると、漆黒の球体はぶんぶんとうなりを上げながら振動し、真っ黒な炎を上げ、あたりに凄まじい熱を放射しはじめる。
「ホンデカラサケノンデエバリツラスガラハアダレモガレモアイデサスナグナッテヨ……」
球体が見る者の両目を盲いさせるほどの昏い光と熱を発するようになったところで、アベーロ師は呪文を唱えつつ、たもとから取り出した「鎧の欠片」を、そっと球体の中に差し込んだ。
途端に、それまでの数倍、数十倍はあろうかという光と熱が襲いかかり、師はつかの間、その場に打ち伏しそうになる。が、すさまじい意志の力で体を支え、持ちこたえると、さらに声を張り上げた。
「スンダラダレモワリゴトイワネスケハヨスネドミンナスデオモデルノニナンデガナガナガスナネノ……」
と、鎧の欠片はみるみる膨れ上がったかと思うと、より平たく鋭くとがった形に姿を変えていく。
「マンズハアコゲナイエサウマレヅイダノガオラノフゴノハジマリナンダ……!」
最後の一節を一気に唱え、なおもしばらく念を込めたところで、アベーロ師は一気に地面に崩れ落ちた。
『原初の三冊』が再び扉を閉じると同時に、瘴気も漆黒の球体もかき消すように消滅する。
「お師匠様!大丈夫ですか!」
少し離れたところに控えていたゴヤーノが駆けより、倒れ込んだアベーロ師を必死で抱き起こす。
「ご、ゴヤーノか……み、見よ……私は、やり遂げたぞ……」
震える指先で示した先――祭壇の中央には、鈍く黒光りする一振りの剣が突き立っていた。
「おお……おお、師よ、お見事です!」
蒼白な顔につかの間うっすらと笑みを浮かべると、アベーロ師はすぐに表情を引き締めた。
「ゴヤーノよ、では、打ち合わせ通り……」
「分かっております!師よ、どうか、どうかご無事で……」
「そなたもな。この先困難な道を長くたどることになろうが、どうか息災で……」
「ありがとうございます。では……」
ゴヤーノは、抱き起こしていた師の身体をそっと地面に横たえると、やおら立ち上がり、『原初の三冊』のうち、祭壇の最も手近にあった一冊をその手に抱える。そして、漆黒のマントに身を隠しつつうずくまると、そのまま地面に沈み込むように姿を消した。
「よい、これでよい……これでザドレアも、かの書物から力を引き出すことはかなうまい。後は……」
アベーロ師は、ついと視線を上げる。
と、そこでは、透明ながら風景のゆがみや足もとの草を踏みしだく様子で存在が見てとれる何者かが、聖トゥーハ王国総力を挙げて構築した必殺の『肉弾邪神捕縛陣』に向かい、今にも足を踏み入れようとしていた……。




