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イケメンパラダイスへ召喚されたけど、あたしは暗黒邪神でした  作者: 柴野独楽


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第5章 さらば暗黒邪神ザドレア! 1

     1

 「ちょっと、アンタたち!これ、一体どういうことだよ!」

ダンダン足音を鳴らしながら「祈りの間」へとずかずか侵入すると、ズィーロたちは他の神官や女官を従え、祭壇の前に跪き、一身に祈りを捧げているところだった。

「イ・ケメン・ガイル・ゾー。これはこれはザドレア様、お呼びいただければ、我らのほうからまいりましたものを」

「イ・ケメン・ダ・ゾー。下賤なる我らのためにご足労いただき、ありがとうございます」

「イ・ケメン・ダ・ゾー。卑俗なる我らのためにお手を煩わせてしまいましたこと、深くお詫びいたします」

「して、今回はどのようなご用件でしょうか?」

 即座に祭壇からあたしへ向き直った三人は、両腕を高くかかげ、深々とお辞儀する。

「どんなご用件でしょうかって、決まってんだろ!これだよ、これ!」

と、あたしは銀色に輝く円盤を突き出した。

「おお、これは、デブ・イデーでございますな」

「我らが魔力により現世の生業を一本の細い金属線に刻み込み記録する、神秘の円盤でございますね」

「魔力によりこの円盤を高速回転させ、微少なる雷を浴びせることで、あたかも今現在その出来事が起こっているかのごとく記録を甦らせることができる、驚異の円盤でございますね」

「通常ならば我ら神官のような信心深く魔力の強き者だけに扱う権利を与えられるところ、今ならなんと!一般信者レベルのお値打ち信仰でご奉仕!これ一枚でお子さんやお孫さんのまばゆい笑顔や若きご夫婦の笑顔をいつでも手軽に、いつまでもご覧になることができます!といううたい文句でおなじみの、深遠なる円盤でございますな。そのデブ・イデーがどうかなさいましたか?」

「いや、円盤自体は別にどうでもいいんだよ!子どもの運動会でもピアノ発表会でも好きに記録しろよ!」

「では、一体なにが問題だと……」

「中身だ、中身!ちょっとこれ、再生してみろ!」

「ほう、それでは……」

 あたしから円盤を受け取ったズィーロは、両手でそれを――指紋がつかないように――そっと捧げ持つと、「ふん!」と気合い一発、全身に力を込めた。

 と、円盤は宙に浮かび上がり、高速で回転をはじめる。その円盤に向かって、ズィーロの指から細い電光が幾本も伸び、円盤全体を包み込んでいく。

 やがて、その光球から一本の光線がまっすぐに壁に向かって伸びたかと思うと、いきなりどこからか荘重でおどろおどろしい音楽が響き、次いで壁に文字が浮き上がった。

「新約ザドレア教典付録特典映像 第14章9節 イン・ナセの終焉」

 やや気取ってもったいぶった感じのナレーション――小汚いダミ声からして、すぐに、ズィーロ本人が吹き込んだものだと分かる――がその文字を重々しく読み上げると、タイトル映像がフェードアウトし、違う映像が浮かび上がってくる。

 先日行われたメーグル様の就任式のクライマックス、大広間で跪いたあの御方が、名誉伯爵の位を授かる場面だ。

「……カウントアーオン・レイン・メーグルに、神の祝福のあらんことを!」

 総主教が厳かに宣言し、会場中が沸き立つ。と、その歓喜の声の音量が急に下がり、ナレーションがカットインする。

「……その日、スタットン共和国は新将軍の就任式を挙行せし。新たなる英雄の誕生に民草は希望を胸にふくらませ、歓喜の声は天上にまで届かんとす。ああ、されど、スタットンの民草は知らず。我らが尊崇する暗黒邪神ザドレア、その時既にイン・ナセの懐深く、奥つ城たる市庁舎大広間、まさに祝典の行われたるその場へとひそかにご光臨あったことを……」

 そこで場面が変わり、今度はメーグル様の怒りにゆがんだ顔が大写しになる。

「おのれ、ザドレア!」

 叫ぶが早いか、神速の突きを繰り出す。が、次の瞬間、メーグル様は「ぷがあ!」と情けない声を出して後方に吹っ飛び、壁にぶつかって地面にくずおれる。

 パニックになる控え室内。襲いかかる兵士たちを片端からぶちのめしている場面で、再びズィーロのナレーション。

「式典の最高潮に顕現なされし高貴なる暗黒邪神ザドレア、英雄を騙(かた)るかの弱き者を、一撃の下に葬りたり。スタットンの民の絶望たるや言うもおろかなり。算を乱して逃げ去る者あり、ただ立ち尽くし涙する者あり。わずかに襲い来たれる者あれど、我らが主ザドレア、全ての敵を鎧袖一触にて打ち倒されたまいき。しかしてザドレア、神への大いなる畏怖を忘れたかの民の傲慢に憤りを覚えたまいきや、イン・ナセにさらなる劫罰を与えたまいき……」

 と、ここでまた場面が変わり、腰を落として両腕を頭上で十字に組む漆黒の鎧を――つまりあたしを――左斜め背後から撮したショットが、大写しになる(長剣で斬りかかっていたはずのメーグル様は、どういう映像の魔術か、きれいに消去されていた)。

 と、一言「ふん!」と気合いの入った声が響き……次の瞬間。

 「ぶぼおっおっおっおっ……!」とかなりしつこいエコーのかかった爆音が響き渡り、鎧のケツのあたりから黄土色の気体が噴出した。

 そこでカメラが切り替わり、今度は真上から鎧を撮したショットとなる。そこで再び「ぶぼおっおっおっおっ……!」と爆音。鎧の背後から噴出した気体が、みるみる画面一杯を黄土色に染める。

 さらにカメラが切り替わり、次は人々が右往左往しながら逃げ惑う大広間が映し出される。そこへ 「ぶぼおっおっおっおっ……!」と爆音。画面端から黄土色の気体が流入、大広間全体を染め上げる。

 そしてまたカメラが切り替わり、前庭を含めた市庁舎全体が映し出される。そこへ 「ぶぼおっおっおっおっ……!」。みるみるうちに建物から流出した黄土色の気体が、あっという間に前庭を覆いつくしていく。

 でもって、さらにしつこくカメラが切り替わり――何回同じシーンを返せば気が済むんだよ――今度ははるか上空からイン・ナセの街全体を撮しだした映像となる。そこへ、「ぶぼおっおっおっおっおっおっおっおっ……!」と、今までよりもさらにしつこくエコーのかかった爆音が、さらなる大音量で鳴り響き……街の端にそびえ立つ市庁舎から、黄土色の気体が軟体動物のように市街全体を侵食していく。

 次の瞬間、街中から苦痛と驚愕と困惑に満ちた悲鳴、怒号、絶叫、咆吼が湧き上がった。

 すぐに画面が切り替わり、人々がのどを押さえつつ悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべてのたうち回っている映像が大写しになる。

 中庭、街路、大広間、控え室と次々に画面が切り替わってはもがき惑乱する人々を捕らえていく中、ズィーロの淡々としたナレーションが響く。

「暴虐たるザドレア、爆音と共にその尊き玉体の内より禍々しき災厄を放出されたり。災厄、猛悪なる臭いを伴いつつ速やかに広がり、生きとし生けるあらゆるものを凄絶なる苦痛へと誘う。阿鼻叫喚、鬼哭啾々たる中、愚かなるイン・ナセの民草、累々たる屍の山と化したり。まこと怖ろしきは邪心の怒り。民草よ、恐れおののき、たたえよ、邪神ザドレアの凄絶なる御業を……!」

 声の余韻を残しながら画面がフェードアウトすると、青一色となった画面のど真ん中に「製作著作:暗黒神官記録部」の文字が浮かび上がり……やがてその文字も消える。

 再生が終了したところで、あたしは「目だけが笑っていない笑顔」を、三人に向けた。

「で?なんだよ、これは?」

「なんだと言われましても、ご覧いただいたとおり、新約版ザドレア教典に付録としてつける予定の特典映像でございまして……」

「イン・ナセ侵攻当日、ザドレア様、一部始終を記録に残していらっしゃったじゃないですか。それを眠らせておくのももったいないかと思いまして」

「文字情報だけではザドレア様の深遠なるお力をお伝えするのに限界を感じていましたので、ちょうどよかったっす!我ら神殿記録部全員の力を振り絞って編集させていただきました!」

と、イナーチャが誇らしげににっかりと笑う。

 そうか、貴様の仕業か、イナーチャ。

 屈託ない笑顔を浮かべているブサイク三号を剣呑な目でにらみ据え、あたしはぐっと拳を握りしめた。

「いやあ、さすがは記録部。本当に素晴らしい作品に仕上げてくれた。これなら、ザドレア様の超絶たる霊験、存分に民草に伝わること間違いない!」

「いえ、そんな。これだけいい作品に仕上がったのは、やはりズィーロ様のあのナレーションあってこそですよ!」

「そ、そうか、そうか?いや、ちょっと朗読の口調を気取りすぎてしまったかと思っていたのだが……」

「いやいやいやいや、ズィーロ様のあのしぶい声、落ち着いた調子での教典朗読あってこその迫力ですよ!」

「そ、そうか?実は、教典のこの部分は、ヤムザのアドバイスが実に役に立ってな、自分でもよく書けたと自負しているのだ」

「いえいえいえいえ、全てはズィーロ様の文才あればこそです。私の助力など微々たるもので」

「いやいやいやいや、そなたのアドバイスには、実に感心させられたぞ。時にヤムザ、奥方であるオーユに子どもができたとか」

「あ、もうご存じでした?いっやあ、そうなんですよ!」

「結婚なさってからまだ二月ぐらいで、しかもそのほとんどがテント生活だったじゃないですか!それなのに、一体どんだけラブラブなんですか!」

「いっやあ、隣近所のテントの人たちにも、散々冷やかされちゃってさあ、参ったよ」

「いやいや、実にめでたいことだ。無事出産ということにもなれば、神殿を挙げて祝わねばならんな!」

「ありがとうございます!きっと妻も喜ぶと思います!」

 いつのまにかあたしそっちのけでイチャイチャしだしたエクセレントブサイクどもを眺めているうち、どんどんイライラがつのり、気がつけばあたしは、拳を思い切りテーブルに打ちつけていた。

 だぁん、と大音響が響くはず……だったのだけれど、あいにくそうはならず、代わりに響いたのはあたしの悲鳴だった。

「いってえええええ!めちゃくちゃいてええ!なんだこのテーブル、すんげえ固いじゃん!鎧つけてからぶん殴るんだったああああ!」

 「ぼこ」と鈍い音しかしなかった割に衝撃はものすごく――考えてみればそのテーブル、厚さ10センチ以上はあるぶ厚い一枚板でできていたのだ――あたしは拳を押さえてのたうち回る。

「だ、大丈夫でございますか、ザドレア様!」

「お怪我はありませんか?」

「鎧も着けずにそんなものぶったたいたら、そりゃ痛いですよザドレア様……」

「うっるせえな!ちょっとうっかりしたんだよ!大丈夫だからこっち見んな!」

 おろおろとすり寄る三人組に涙目で怒鳴りつけ――うん、我ながら身勝手だと思う――しばらくの間ぶんぶん手を振り下ろしたり、ふーふー息を吹きかけたり。ようやく痛みが治まってきたところで、あたしは改めて、肩を縮めて居心地悪そうに立ち並ぶヤツらをじろりとにらみつけた。

「ヤムザ!」

「は、はい!」

 びくっと直立不動になった相手に向かい、あたしは深々と頭を下げる。

「奥さんの懐妊、おめでとう」

「え、は?いえ、あの……ありがとうございます……」

「ハシカに――あ、いや、今はオーユだっけ?その、とにかく奥さんに、健やかな出産を心から願ってますって伝えて。本当ならお祝いに行きたいけれど、つわりやなんかで苦しんでるとこ見られたくないだろうし」

「あ、はい、ありがとうございます、必ずお伝えいたします。オーユもザドレア様ご本人から祝福の言葉をいただけて、きっと大喜びするかと思います!」

「彼女はあたしの親友だもの、幸せを願うのは当然だよ。相手がアンタだってことだけがものすごーく気に入らないけど」

「そんなあ……」

「あたしの親友をうまいことだまくらかして結婚して、その上傷物にまでしやがって!」

「だましてませんよ!ボクたち、お互いに心から愛し合っているんです!だから、結婚も、子どもができるのも自然なことで……」

「ああ、聞きたくない聞きたくない!あのかわいいハシカがアンタなんかとちゅーしてると思うだけで吐きそうになるってのに、それ以上のこと想像させんな!」

「「なんか」って、「吐きそう」って、ザドレア様、いくらなんでもひどくないですか?それじゃまるで、ボクがバケモノかゲテモノみたいじゃないですか!」

「それ以外のなんだってんだよ!いつも言ってるだろ、あんたらのようなブサイクに人権はないんだよ!」

「ええ……」

「とにかく、ハシカ――オーユのことはあたしも喜んでるから、よろしく伝えて。困ったことがあったらすぐ駆けつけるから。特に、この結婚は間違いだったとか、やっぱり相手を間違えたとか少しでも思ったら、真っ先にあたしに相談してくれれば……」

「ないですから!さっきも言いましたけど、ボクたちラブラブですから!」

「ちっ、つまんね」

「つまんねって……まあいいです、それじゃ、オーユには確かに伝えときますね」

「うむ」

 あたしがうなずいたところで、すっとズィーロが一歩前に出た。

「ではザドレア様、他に御用事がないようでしたら、私どもはこれで……」

「スタットン併合に関わるなんやかんやの問題が山積みでして、なる早で処理しないとならないのです」

「それでは、失礼いたします」

 深々と礼をする三人に対し、

「うんうん、しっかり働け、我が奴隷たちよ」

と、右手をシッシッと振って追い払う仕草をし、きびすを返したところで、はっとあたしは立ち止まった。

「ちょっと待てィ!ここに来た肝心の用事がまだ済んでねえだろがィ!」

 そう呼び止めると、三人は揃ってつかの間「ちっ!」という顔をした後、素知らぬ風を装いふり返った。

「他になにかありましたかな?」

「覚えがありませんが」

「とぼけんじゃねえ!あの特典映像とやらの話だよ!」

「ああ……あれがどうかなさいましたか?」

「どうかも銀貨もケンサキイカもねえ!なんだよ、あのウソ八百の映像は!あれじゃ、あたしがわざわざ就任式典をぶち壊すために市庁舎に乗り込んだみたいだろ!」

「いやあ、結果そうなりましたしい」

「それになんだよ、あのオナラは!あの声は!ありゃメーグル様の愛の攻撃を防ごうと腹に力を入れたら、思わず出ちゃっただけだろ!あれじゃあまるであたし自身が「ふん!」って力んで出したみたいじゃねえかよ!」

「愛の攻撃?どう見ても本気で殺そうとしておったように見えますが……」

「うっせえな!あたしが『愛の攻撃だわ♥』と思ったら愛の攻撃なんだよ!なんか文句あんのかよ!」

「いやあ、暗黒邪神ともあろう御方がそんな虚偽報道なんかしちゃっていいのかなあって」

「そうだよなあ、そんな嘘っぱち流したら、報道協定に引っかかっちゃうよなあ」

「それはいけませんな、ザドレア様、ここはひとつ、謝罪会見を」

「えー、このたびはあたしの不適切な発言により、視聴者の皆さん、並びに関係者諸氏に多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした……って、違うだろが!今あたしが問題にしてんのは屁の方だよ!あれは不可抗力!わざとこいたんじゃねえって言ってんだよ!」

「えー、でもお、故意かそうじゃないかなんて、ちいさい問題っていうかあ」

「それに、なんだよあの黄土色のガスは!あんな色じゃなかったし、あたしの屁がああやって街中に広がったんでもなかっただろ!」

「でもお、イン・ナセ滅亡のきっかけになったのはまちがいないですしい」

「多少のヤラセはバラエティにつきものですしい」

「絵的にインパクト強い方が視聴者にもアピールしますしい」

「さっきと言ってることが違うだろ!虚偽報道はいけないんじゃねえのかよ!」

あたしがそう言うと、三人はにんまりと笑い、声を揃えてこう言った。

「現場の雰囲気を忠実に伝えるためには、多少の加工も必要なんです!」

 あらかじめ示し合わせていたとしか思えない、そのずうずうしい言い訳を耳にして、あたしの中のどこかがブチッと切れた。

「へえ~、そうなんだあ」

「ええ、そうなんです!」

 にっこり笑ったままうなずくと、あたしはすっと右腕を上げた。

「鎧よ、来い」

 たちまちあたりが漆黒に包まれ、神殿の様子がモニターに映し出されたことを堪忍したところで、あたしは、正面にある巨大なザドレア神像にすたすたと近づくと、片手をその足もとにかけ、思い切りそれを揺さぶりはじめた。

 たちまち女神像は「ゴゴゴゴ……」とうめき声のような鈍い音を立て、あちこちひび割れながら、細かく振動しはじめる。

「ああああ、なにをなさるのです!おやめください、ザドレア様ああ!」

「この間あなたに壊されたのを、ようやく直したばっかりなんですうう!」

「どうか、どうかお怒りをお鎮めくださいい!」

「うるせえ!勝手に人を暗黒邪神とかに祭りあげたあげく、好き勝手なことばかりほざきやがって!なにが大神官だ、なにがザドレア教典だ!そんな身勝手宗教、今すぐあたしがぶっ壊してやんよ!」

 三人の制止を振り切り、さらに強く像を揺さぶる。と、とうとうその衝撃にたえられなくなったのか、「ビシーッ!」と鋭い音が響き、根元からポッキリ折れた女神の右腕が床に落下し、粉々に砕け散った(その瞬間、あたしの右腕にも痛みが走ったような気がしたけど、多分気のせいだ)。

 破片が一斉に飛び散り、神殿に居合わせた女官や「モブ神官」たちが、悲鳴を上げつつ、算を乱して逃げ惑う。

 そんな阿鼻叫喚の騒ぎの中、「騒ぎのきっかけ」三人が半泣きになって、あたしの前に並びひざまずいた。

「お願いですからもうやめてくださいいい!謝りますからああ!」

「もう二度と生意気な口は利きませんからあああ!」

「今後一生ザドレア様に逆らったりしませんからあああ!」

「どうか、どうかお許しくださいいいいいい!」

 三人が一斉に土下座したところで、ようやくあたしは神像を揺する手を止めた。

「よおし。分かりゃいいんだ。それじゃ、その特典映像とやらは全部破棄すること。分かったな?」

「ええ!?せっかく苦労して編集したのに~」

「信者たちも楽しみにしてるのに~」

「ザドレア様、ここは一つ、ちょっと手直しをするだけというのは……」

 腰を低くし、揉み手をしながら、媚びへつらうような笑顔を浮かべる三人。

 あたしは無言で再び神像を揺さぶりはじめた。

 ゴゴゴゴ、と鈍い音と共に、今度は神像の首がごろりと体から離れ、床にぶち当たり、粉々になる(その瞬間、あたし自身の鼻筋辺りにも鋭い痛みが走ったかのように……(以下略))。

 さすがにこれは効いたらしい。

「わかった、わかりましたからあ!」

「破棄します!ぜえーんぶ破棄しちゃいます!」

「ええ、そりゃもう景気よくたき火に放り込んで、ばんばん燃やしちゃいます!」

「ですから、どうかお怒りをお収めくださいい!」

 再び三人がひざまずき、半泣きになりながら必死で懇願しはじめたところで、あたしは手を止めた。

「その言葉に嘘はないな?今すぐぜえーんぶ破棄するな?」

「はい!誓ってウソはもうしません!」

「もしウソだったら、この神殿、ぶっ潰すぞ!分かったか?」

「はい!胸に刻みましてございますう!」

「よおし!だったらすぐに作業にかかれ!もしもどっかに一枚でも隠してたりしたら……」

「分かってます!直ちに全部破棄します!」

 三人が揃って弾かれたように立ち上がり、大慌てでばたばたと動き出したのを見て、ようやくあたしは鎧を解除し……両腕を天に差し上げ、一仕事終えた満足感で一杯の大あくびをした。

「あふあ……あ。そんじゃあたしは昼飯食ってその後昼寝すっから、それまでに全部済ませとけよ」

「え!?あ、はあ、はい。分かりました」

 唇をとがらせ、不満げな返事を寄越すイナーチャを、じろりとにらみつける。

「なに、なんか言いたいことでもあんの?」

「あ、いえあのその、いいご身分だなって」

「そりゃそうでしょ、神様なんだから」

「え!?ああ、そうでしたね、ザドレア様、神様でしたっけ!」

「なんだよ、その驚いたような声は」

「いえあの、腹減っただの眠いだの退屈だの、あまりに親しみ深い感じなので、つい神様だってことを忘れておりまして……」

「うるさいな、しょーがないでしょ、本当にやることないんだし!」

「え、あの、スタットンと聖トゥーハ国境沿いの砦を攻略するとか、まだまだやることはいくらでも……」

「えー?だって、あの辺の砦って、観に行ってもつまんないじゃん!守ってんのよぼよぼのジジイばっかで、どこにもイケメン様いらっしゃらないし!」

「あー、そもそも聖トゥーハの軍勢は少数精鋭主義でしたし、その精鋭の大半はもう既に地の底に飲み込まれましたしね。辺境の砦に割ける人員など、ほぼ残っていないんでしょうね」

「でしょ?イケメン様いらっしゃらないなら行く意味ないし。ここでピザでも食いながら寝てる方がまし……」

 またしても大口を開け「ふあああああ……」と大あくびをすると、あきれ果てた、うんざりです、といわんばかりの顔で、ヤムザがため息をついた。

「まあ、そうですね。確かにあれっぽっちの兵士の相手でしたら、我々でもなんとか対処できますし、ザドレア様の御手を煩わすこともありませんけどね」

「分かったら、寝室にピザとコーラ持ってきて。食ったら寝るから……」

 目をしょぼしょぼさせながらきびすを返そうとしたところで、ふとズィーロが顔を上げた。

「そういえば、聖トゥーハ騎士団について、おかしなうわさを耳にしまして」

「うわさ?」

 あたしはぴたりと足を止めると、鋭い視線をヤツに送る(イケメン様の情報は、それがたとえどんなに些細でつまらないものであろうと残らず収集するよう、あたしは心がけているのだ)。

「ええ。我らの快進撃によりここまで追いつめられ、てっきり城にこもって震えているのかと思えば、毎日決まった時間に揃って外へ出ては、なにやら面妖な踊りを披露しているとか」

「ああ、それ。私も聞きました。一体なんなんでしょうね」

「実力じゃかなわないから、ヤケクソで神頼みの神楽でもはじめた、とかですかね」

 イナーチャがニヤニヤしながらそういうと、三人は揃ってぐはぐはと笑う。

 神頼みで敵をやっつけてるのは、自分たちだって同じなくせに、なに言ってんだこいつら。

「ま、その意図ははっきりせぬが、いずれにせよ、ヤツらの運命が風前の灯火であることは間違いなかろう。なにしろ若き王以下、騎士団員がそろいも揃って粗野な格好をし、軍議を開くでもなく踊り狂っているというのだからな」

「粗野な格好?」

「ええ、なんでも、このケメンの地南部に古くから伝わる装束で、真っ白な布を下半身に巻き付けただけの実に野蛮な格好であるとか」

「上半身にはなにも身につけないと聞きましたよ。文明人の姿とは思えません」

「本当に。なんだって、今はもう廃れて久しい、あんな格好をしてるんでしょうね。あれは、なんと言いましたか……」

「フン・ドゥシーではなかったかな」

「ああ、そうそう、そんな名前でございました」

「なにやら、名前まで優美さのかけらもありませんね」

「まことに、まことに」

 ぶははは……とまたも笑い声を響かせる三人組。が、そんなヤツらとは対照的に、あたしは目を見開き、呆然としたまま、ひたすらあらぬ方を見つめていた。

 ふん……どしだと……?


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