↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメンパラダイスへ召喚されたけど、あたしは暗黒邪神でした  作者: 柴野独楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/31

第4章 逆襲の暗黒邪神ザドレア! 7-8

     7

 翌朝。

 この日も夜明け前に飛び起きたあたしは――この天幕に来てからというもの、人生で一番健康的な生活をしてる気がする――枕元においてある豆をボリボリむさぼり喰らい、小腹を満たしたところで、早速イン・ナセへと向かった。

 光の壁を通り抜け、市街をひた走り、市庁舎の入り口をくぐる。と、そこは就任式の執り行われる大広間だ。

 今はまだ時間が早いせいで、会場のセッティングを行う者がちらほらといるだけで、他には誰もいない。

 壁の燭台につけられたろうそくを新しいものに替えたり、床に這いつくばってカーペットのわずかな汚れを落としたり、正面に飾られた花束の中にしおれかけたものがないかどうかチェックしたりと、スタッフ連中が思い思いに最後の手直しを行っている中、あたしはまっすぐに控え室へと向かった。

 今日はメーグル様が会場入りする時から最後のフィナーレまで、ずっと彼にはりついているつもりなのだ。

 数多くの衣装やら小道具やらが雑然とおかれている控え室の奥に陣取り、周囲に誰もいないことを確認したところで、あたしはおもむろにトゲを数本引き抜くと、それら全てを手に持ったまま、「遠隔カメラになーあれ♥」となるべくかわいらしい声で唱え、例の決めポーズをとった。


 ……ところで。

 市庁舎の壁際に配置された「大広間控え室」には、東側に大きな窓がいくつも並んでいたのだが、我らが主人公、暗黒邪神ザドレアが控え室にひそかに侵入したちょうどこの時、その窓越しに、ぼんやりと控え室を眺めている男がいた。

 別段、いやな予感を感じたとか、第六感が悪しき存在を感知したとこか、そういうことではない。

 市庁舎の東側には、庭と防柵、街路をはさんだ向かい側に背の高い集合住宅が建ち並んでおり、男はたまたま、その四階の一室に住んでおり、夜明けを迎えたこの時刻、控え室の窓から上りかけた朝日が差し込む関係で、男の部屋から控え室がよく見えたのである。

 それでいつからか、男は起き抜けのこの時間、誰もいない控え室をなんとなく眺め下ろすようになり……この日も日課どおり、控え室を覗いていたのである。

(あー、いつもは片付いてるのに、今日は様子が違うな。そういえば、なんか今日は催しがあるんだったっけか……。)

 そんなことを思いながらいつものようにぼんやり窓の向こうを眺めていると、無人のはずの部屋の中に、いきなり漆黒の鎧を身につけた何者かが出現した。

 ごつごつとしてあちこちから鋭いトゲや爪のようなものをはやした、見るだに怖ろしげなその姿は、伝え聞いた暗黒邪神の姿そっくりで、男は思わず息を呑む。

 と、次の瞬間。

 鎧を着込んだ邪悪な存在は、無骨な右腕を持ち上げたかと思うと、脳天近くに生えている鋭いトゲを数本、乱暴に引き抜き、それを胸の前に持ってくる。

(なんだ!?呪いの儀式でも始まるのか?)

 思わず男が窓枠に手をついて身を乗りだし、目を見開いたその時。

 鎧は、すうっと頭上に差し上げた左人差し指をはんなりとくるくる回し、同時に後方に差し上げた左足のつま先を床につけ、体全体をきゅっとくねらせたのである。

(……は?)

 それは、呪いの儀式というよりかは、ダンスか何かの決めポーズに似ていた。が、いかつい鎧が行うそれは、ミスマッチなことこの上なく、無気味な上にも無気味な雰囲気を醸し出している。

(い、今のは……。)

 男は慌てて目をこすり、もう一度控え室の窓の向こうを注視した。

 が、その時には、現れた時と同じく、鎧はかき消すように消えていた。

 男は、しばし呆然と控え室を見つめる。

 その後、はっと我に返ると、

「大変だ。暗黒大魔神がイン・ナセに、それも市庁舎に侵入している!」

と、慌てて部屋を出ようとした。

 が……玄関の扉に手をかけたところで、ふっとその動きが止まった。

 イン・ナセの街は、防御結界ですっぽりと覆われている。その結界をくぐり抜けて敵が――しかもその首魁(ラスボス)である暗黒邪神が市内に入り込むことなど、決してあり得ない。

(今目にしたものを誰かに告げたところで、一体誰が信じる?というか、今本当に俺は、暗黒邪神を目にしたのか……?)

 うつむいたまましばし考えたところで、男はため息をつき、ふっと体中の力を抜いた。

 そして、今日の仕事は病休を取ることにし、そのまま再びベッドにもぐり込むと、固く目をつぶったのである。


 あたしが数本のトゲを手にしたまま魔法の呪文を唱えると、予想通り、トゲはすべてがドローンカメラになった。

 これで、就任式を余すところなく、いろいろな角度、いろいろな距離から撮影できる。

 よかった!カメラ一台じゃ、絶対後々不満が残るって思ったんだ!なんてったって、メーグル様一世一代の晴れ舞台なんですもの!

 目論見が図に当たってほくほくしながら、あたしは早速、カメラたちに指示を飛ばした。

「1カメは市庁舎上空、入り口前広場全てが映る位置で待機。2カメは大広間上空で、メイン会場全体と、真正面から舞台全体を映し出せる位置を確保。3カメは舞台上手斜め上空、4カメは下手斜め上空に待機。5カメは常にあたしの後ろについてきて、ここぞって時にアップを狙う。はい、それじゃカメラテスト行くよ、はい、3、2、1、スタート」

 テレビのディレクターよろしく指示を飛ばすと、それぞれのカメラが映し出した映像が一斉に、別画面で表示される。

 それら一つ一つをチェックしながら「1カメ、もう少し高度下げて、閲兵式の兵士たち全員がぎりぎり映るところに移動……そうそう、そこ!んで、メーグル様が入場したら適宜高度を落とし、あの方の全身がはっきり映る位置に移動して」「2カメも同じく、はじめはメイン会場全体と、メーグル様が入場したら舞台全体が映る位置に移動」「3カメはメーグル様入場から舞台中央に移動する時、きちんと追いかけて」「4カメは移動中のメーグル様を常に正面から捕らえるように」「5カメはあたしの頭のすぐ上にいて、常にそこからメーグル様を狙うこと」などなど、夢中で細かい撮影位置や角度、画質や画面の明るさなんかの微調整を行っているうち、あっという間に時間が過ぎていき……気がつけば、メイン会場には続々と着飾った人々が入場し、市庁舎の外にも一般民衆が詰めかけ、そして、控え室には「おはようございます」の声と共にメーグル様ご本人がおいでになられる。

 そして……いよいよ将軍就任及び爵位授与の式典が、しずしずと開会したのである。


     8

 「……数々の武勲を上げ、共和国のために尽くした貴君に対し、名誉伯爵の位を授ける。なお、当共和国においては、貴族制は既に廃止されているため、爵位を授与するとはいえ、領土や統治権の授与はできぬ。与えるのは、あくまで栄誉のみ。しかしながら、その栄誉には共和国国民全員の感謝の念が込められている。その思いは尊称となり、未来永劫貴君の氏名を飾ることによって、常に変わらぬ尊崇の念を示すこととなる!勇敢なる兵士にして国家の守護者であるレイン・メーグル。貴君は今日この時より、『カウントアーオン・レイン・メーグル』である。カウントアーオン・レイン・メーグルに、神の祝福のあらんことを!」

 総主教――キンキラキンの模様が一杯入ったバスタオルみたいな服を着て、やっぱりキンキラキンの巨大な帽子をかぶったデブのジジイだ――はそう叫ぶと、これもやっぱりキンキラキンの杖を、跪(ひざまづ)いたメーグル様の上にかざした。

 その瞬間、会場を揺るがすほどの歓声が沸き起こり……その様子をごくごく至近距離で眺めていたあたしの目からは――それまでの式典で散々感動の涙を流していたにもかかわらず――またしても、ぶわっと涙があふれ出た。

 よかった、よかったねメーグル様!あたしも、これまであなた様のためにいろいろ尽くしてきた甲斐があったよ!これからもがんばっていこうね!あたしも全力で応援するから!

 声にならない思いが頭の中を全速力で駆け巡る中、あたしはぼたぼた涙を落としながら、うん、うんとひたすらうなずいていた。

「ありがたき幸せにございます!カウントアーオンの名に恥じぬよう、これからも国家のため、国民のために尽くし続けることを、ここに誓います!」

 メーグル様が返礼の言葉を口にすると、再び怒号のような歓声が沸き上がる。

 それを目にして、あたしもまた、だーだー泣きながら、うん、うんとうなずく。

 総主教が杖を胸元に引き戻し、メーグル様に軽く一礼して引き下がる。後に一人残されたメーグル様は、立ち上がって正面を向くと、列席しているモブどもに向かって、高々と右手を差し上げた。

 今までで一番大きな歓声。そしてあたしは、あの御方の雄姿をすぐ横で見つめ、滂沱の涙を流しながら、うん、うん、とやっぱりうなずき続ける。

 その後、手を下ろして一礼すると、メーグル様はリハーサルよりもやや速い足どりで歩き出し、会場を後にした。

 あたしは当然、その後を――相変わらずうんうんうなずきながら――いそいそとついて行ったのだった(あまりに泣きすぎ、うなずきすぎたせいで、この後数日間、まぶたは腫れ上がるわ、のどは渇くわ、首がコチコチに凝っているわでひどい目に遭ったのだけど……それはまあ、別の話だ)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。