氷の要塞と極上グルメ
流刑地に辿り着いて数カ月……
エレナの領地は、訪れた商人が目を欺くほど超巨大な「巨大要塞」へと変貌していた。
本来なら建材にならない「雪や氷」を固めて城壁を作り、エレナが氷の温度を『マイナス20℃』に固定。
これによって、物理攻撃や火炎魔法を1ミリも通さない、無敵の氷壁が完成した。
そして都市の内部全体は、常に22℃に保たれ、新鮮な野菜が実る巨大農園まで誕生していた。
さらにエレナは、領地のすぐそばにある、厚い氷に覆われた巨大な湖に着眼した。
氷に穴を開けて糸を垂らすと、丸々と太った絶品寒魚『極寒サーモン』や『氷層タラ』が面白いように釣り上がる。
「ざこ領民達が、バケツいっぱい魚釣ってドヤ顔してるー♡お腹の虫がうるさいから、さっさとエレナに『温度固定チート飯』お願いしたらー?ざ〜こ♡」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
エレナは脂の乗ったサーモンを、ハーブや特性オイルと共に袋に入れお湯に沈める。
『温度固定』−−お湯の温度を45℃に完全固定。
「これでタンパク質が固まる前の、とろけるような質感で熱が通りますわ」
肉厚なタラは衣をつけ、油に入れる。
表面が軽やかに揚がる、油の温度を180℃に固定。
更に揚がった瞬間、タラの内側の温度を65℃でロック。
「油が染み込まず、最高の食感になりますわ」
完成したサーモンのコンフィを、領民が口に入れる。
−−フワァァッッ!!
「く、口に入れたら、溶けていくっっ!?」
−−ジュワァァッッ!!
中から溢れ出す旨味。
「う、美味すぎるぅぅぅ――!!」
他の領民がタラの極厚フライを口に入れる。
−−サクゥゥッッ!!
「しょ、食感がヤバいっス!!」
−−フワァッッ、ジュワ――――ッ!!
「ほ、ホロッホロっス!!あ、悪魔的に旨いっス!」
「いつもありがとうっス!ついてきてよかったっス!!」
領民達は涙を流して魚料理を貪り食う。
リリィはそれを見て……
「どこまでざこ舌なのよー♡いっぱい食べて明日も要塞の拡張、頑張ってよねー!ざ〜こ♡」
とニヤニヤしながら、自分もエレナのコンフィを夢中で口に運んでいた。
一方その頃、王都は悲惨な事になっていた。
歴史的な大冷害が国を襲い、王都の作物は全滅。
薪も底をつき、平民はおろか王宮の貴族達すら凍え死にそうな寒さに震え、冷え切ってカチカチになったマズい干し肉をかじる毎日。
「暖炉の火が消える!魔法騎士団、火炎魔法で温め続けろっ!」
とミゼル王子が叫ぶが、魔法で生み出した熱はすぐ冷めてしまう。
「生み出す」事しかできない王宮の魔術師たちでは、この冷害に対抗できなかったのだ。
「クソッ……!なぜこんな事に……!そうだっ、あの流刑地はどうなっている?誰も住めない極刑の地だ、エレナの奴らはとっくに凍死してるだろうな!」
ミゼルは己の破滅が近づいている事にも気づかず、現実逃避するように醜く笑うのだった。




