第7話「かき氷を食べに」
ダットとチェルも皆とはぐれ、二人きりになっていた。
「みんな、どこ行った~? これじゃあ、完全にまいきゅう入りだぞ……」
「“迷宮”ね。ここで使うのは大袈裟だし、迷宮入りはあんたの言葉遣いだから!」
ダットの言い間違いに、チェルがツッコんだ。
いつもの光景だった。
「迷宮入り」と言いつつも、ダットは屋台を見るたびに「美味そうだな~」と目を輝かせた。
しかし、ディーンに両替してもらわなければお金は使えなかった。
「腹へった~」
空腹と疲労から階段に座り込む二人。
そこから辺りを見ていると、近くの屋台でかき氷屋を見つけた。
「氷? あれをどうするんだ?」
「あれを削って、その上からシロップをかけて食べるの。リアリティアでは夏の定番らしいよ」
「すげぇ! 物知りだな、チェリー!」
「チェル!!」
チェルは訂正した後で、ダットへささやいた。
「“チェリー”は向こうでの呼び方! 気をつけてよね!」
注意し終えると、今度は普通の声量で言った。
「あと、かき氷のことは、ユアの友達が教えてくれたの」
「こっちじゃ、氷を食べる文化があるのか。美味そうだな~、サッパリしたアイスって感じで……」
ダットは恨めしそうに、かき氷屋を見つめた。
それほど、お腹が空いていたのだ。
「買って来ようか?」
チェルがポツリと言うと、ダットは驚いた目を向けた。
「祭りに行く前に、ネムに両替してもらったの。だから少しだけ使えるんだ、お金」
「い、いいのか?」
「せっかく来たのに、まだ何も買ったり遊んだりしてないじゃん」
チェルは立ち上がると、かき氷屋へ走り出した。
すると彼女の前に、髪を逆立て、アクセサリーをジャラジャラ言わせ、いかにも派手な見た目の男性が三人、立ち塞がった。
「可愛いね~!」
「俺らと、どっか行かない?」
「かき氷、おごってあげようか?」
フィーヴェにもナンパして来る輩はいるので、チェルは「けっこうです!」と断った。
「いいじゃん、行こうよ~」
「俺、タイプ!」
「連絡先教えてよ。俺も教えるからさ」
男性たちは引き下がらない。
そこへ、ダットが話に入って来た。
「じゃあ、みんなで行こうぜ!」
チェルだけでなく、男性たちも目を丸くした。
普通、ナンパされると知り合いが助けるものだが、ダットはフレンドリーに接した。
「どこの誰かは知らねぇが、一緒に行こうぜ! こういう祭りは、みんなと見た方が楽しいだろ! なぁ、チェル?」
ダットは、相手がナンパしていることに気づかず、明るく話しかけた。
「彼氏、いたのかよ……」
男性たちは友好的に返されると思わなかったので、ドン引きしながら去って行った。
「おーい! 一緒に行かなくていいのかー?!」
ダットはまだピンと来ていない様子で、去って行く男性たちへ呼びかけた。
もちろん彼らは振り向かず、人混みへ消えて行った。
「バカね! あれは友達として誘ったんじゃなくて、ナンパよ!」
「あいつら、船、持ってるのか?」
「船が沈む“難破”じゃなくて、口説く方の“ナンパ”!! 私、あいつらに連れて行かれるとこだったのよ!」
「そ、そうか。俺はてっきり、“一緒に祭りを楽しもうぜ”ってことかと……」
「間違ってはないけど……。でも、ダットが来てくれたおかげで、助かった」
今度はダットが目を点にした。
「もう少しであいつらに、蹴りでも入れようかと思ってたから。……だから、ありがとう」
チェルがさりげなく礼を言うと、ダットは彼女の手を引っ張って、かき氷屋へ向かった。
「落ち着いたとこだし、行こうぜ、アイス屋!」
「……アイス屋じゃなくて、かき氷屋ね!」
チェルは彼の間違いを訂正すると小さく笑った。




