第8話「夜空に咲く大輪の花」
相変わらず、人混みを歩くユアとディーン。
人はどんどん増え、仲間と再会出来る気配がない。
「わっ!」
突然ユアがバランスを崩し、倒れそうになった。
急いでディーンが支え、転倒はまぬがれた。
「ありがと……」
「しっかり前を見て歩け。そうでなくとも、人が多いというのに」
「前は見てたよ。でも……」
ユアが足元に目をやると、「やっぱり……」とため息をついた。
履いていた下駄の鼻緒が、抜けてしまったのだ。
「どうした?」
「鼻緒が取れたの。下駄では時々、あるんだよね……」
すると、ディーンはユアをお姫さま抱っこをし、人気がない場所へ連れて行った。
そこで、元のディンフルの姿に戻った。
「え? え?! ディン様、何で?」
「つかまっていろ」
一旦、ユアを降ろしていたディンフルだが、再び抱えると今度はマントの飛行能力で街を去って行った。
「ちょ……! 見つかっちゃうよ!」
「祭りに夢中なら、問題ない」
ユアは射的でもらったクマのぬいぐるみを抱えながらも、ディンフルにしがみついた。
ディンフルはユアをマントで包んだまま空を飛んでいると、近くの裏山に降り立った。
そこで彼女をベンチに降ろすと、鼻緒が抜けた側の下駄の裏側を観察し始めた。
「……なるほど。単純な構造だ」
すると、ディンフルは緩んだ鼻緒を一旦抜くと、長さをそろえて再び通した。
最後に器用に結ぶと、完全ではないが下駄が元どおりになった。
「何でわかるの?!」
「勘だ。履いてみろ」
ディンフルが下駄を差し出すと、ユアはおそるおそる足を通した。
「……ちょっと、きついかも」
「抜けるよりはマシだ。足が痛んだら、また直してやる」
「あ、ありがとう……。まさか、ディン様が下駄まで直せるなんて思わなかったよ」
ユアは、改めて彼の器用さに脱帽した。
「何で、わざわざここへ連れて来たの? 直すぐらいなら、街でも出来たのに」
「人混みに疲れた。座るところも人で溢れていただろう。少し離れて、息抜きをしたかったのだ」
ディンフルが答えたその時……。
ドォン!!
薄暗い空に七色の光が一瞬だけ光った後で、轟音が鳴った。
「あっ! 始まったんだ、花火!」
二人が同時に、空を見つめた。
花火は、次々と打ち上げられた。
ディンフルは再び変身するのも忘れ、そのままユアの隣に腰かけ、花火を眺め始めた。
裏山に人はいなかったので、二人だけの時間を過ごせた。
「これが、リアリティアの花火か……」
「夏の風物詩だよ。フィーヴェには、あるの?」
「一応あるが、リアリティアの方が豪華だ。こんなに種類が豊富ではないからな。それに……」
そこまで言うと、ディンフルは言葉をつぐんだ。
突然彼が黙ったので、ユアは心配になり相手を見つめた。
「フィーヴェの祭りは人間のためのもので、ディファートは参加させてもらえなかった」
ディンフルは、うつむきながら言った。
彼の辛さを感じ取ったユアが、思わずその手を握った。
驚いた目で相手を見るディンフル。
だが、すぐに穏やかな表情を浮かべた。
「こんなに楽しい祭りは、初めてだ。今日は、本当にありがとう……」
彼は、ユアの手を優しく握り返した。
打ち上がる光を見上げながら、二人は手を離さなかった。
つないだ手の温もりが、同じ時間を過ごしていることを実感させていた。
◇
花火が終わり、ディンフルはなるべく光が当たらない場所を飛んで、街へ戻った。
人気のないところに降りるとユアはぬいぐるみを抱いたまま、仲間たちと友人たちがそろっているのを見つけた。
「ユア!!」
「ユアっち!!」
全員で彼女を呼んだ後で、ギャル組が心配し始めた。
「どこ行ってたの?! 心配したんだから~」
「あたしらは、花火が始まる前に合流したんだよ」
「そのクマ、かわい~! それより、お兄さんは?」
ソウカ、ヒース、ズノが順番に言うと、ディンフルがユアの後から歩いて来た。
「無事、集まれたようだな」
その場の空気が止まった。
ギャル組は口が開きっぱなしに、空想組は目を見開いたまま息をのみ、ユアと仲間たちは顔面蒼白になった。
行き交う人々も足を止め、凝視した。
「どうした?」
変身するのを忘れたディンフルが疑問に思うと、空想組が声を張り上げた。
「ディンフルだーーー!!」
ようやく気づいた彼があわてて、来た道を引き返す。
空想組を含めて、注目していた通行人たちもスマホを向けながら追い始めた。
ユアはギャル組から「あれ、誰?!」「クオリティ高すぎね?!」「てか、お兄さんどこ?!」と質問攻めに遭い、めまいを起こした。
見ていたラルス、ティム、ダット、ネム、チェルは「何やってんだか……」と、五人そろってため息をついた。
せっかくのロマンチックな時間だったというのに、最後まで騒がしい夜なのであった。
(完)
以上で「ゲームのキャラと現実世界の夏祭り」は完結です!
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本編「ラスボスと空想好きのユア」新作は9月上旬頃、投稿を予定しております。
もうしばらくお待ちくださいませ。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!




