第5話「金魚がつなぐ信頼」
ティムはネムと二人で歩いていた。
反対側から歩く人を避けながらも、立ち並ぶ店を見て行った。
「人が多いですね……」
「祭りだからよ。リアリティアって、娯楽も多いのね。フィーヴェでは、こんなにたくさんのお店、見たことがないわ」
初めてリアリティアへ来たネムは、人混み、屋台の多さ、フィーヴェとの文化の違いに圧倒された。
普段からクールな彼女はカルチャーショックを受けつつも、それらが何なのかをすぐに理解していった。
「あら?」と、ネムは立ち止まり、興味深く一軒を見つめた。
金魚すくいの屋台だった。
「小さな魚が泳いでいるわね?」
「これは“金魚”っていう、リアリティアに生息する魚です」
「生き物を商品として出しているの……?」
ネムがいぶかし気な顔をしたところで、隣にいた未就学と思われる女の子が「取れた、取れた!」と喜んだ。
金魚が入った入れ物を店主へ渡すと、店主は水の入った袋に取れた金魚を入れた。
「キレイ……。あんな風になるのね」
透明な袋の中で優雅に泳ぐ金魚を見て、ネムの目の色が変わった。
「生き物を商品に……」と不満げな彼女だが、今度はうらやむような顔つきへ変わった。
あのまま家に連れて帰って水槽に移せば、そのまま金魚を飼える。
「よかったら、やってみるかい?」
店主から、和紙を張った網・ポイを差し出された。
さすがに有料なので、ティムが困り始めた。
「しまった……。ディーンさんに両替してもらうべきでした」
「私、使えるわよ」
言いながらネムは店主にバレないように、手の中でフィーヴェのお金をリアリティアの通貨に換えてみせた。
「つ、使えたんですね、両替の魔法……」
「あなたは使えないの? リアリティアが気に入ったなら、覚えていた方がいいわよ」
あっけに取られるティムをさりげなく叱りながら、ネムは店主へお金を払い、ポイを受け取った。
早速、水に突っ込んで金魚をすくうが……すぐに破れてしまった。
「え……? これで、すくうのよね?」
ネムは腑に落ちない顔で、穴が開いたポイを睨みつけた。
「お姉さん、初めてかい? 金魚すくいには、コツがいるんだよ!」
店主が笑うと、「ぼ、僕もやってみます!」とティムも参加した。
バレないようにネムに両替してもらい、お金を払ってポイを受け取った。
「たぶん、長い時間、水につけない方がいいと思います」
ティムは推測しながらポイを水に突っ込み、素早く金魚をすくって容器に入れた。
「と、取れた……!」
金魚が一匹取れると、隣でネムも目を輝かせた。
感激したのもつかの間、ポイは二回目で破れてしまった。
収穫は一匹だけだった。
店主は「おまけだよ!」と言いながら、ティムがすくった赤い金魚と新たに黒い出目金を、水の入った袋に入れてくれた。
「どうぞ!」
店主から受け取っていたティムは、金魚の袋をネムに渡した。
「い、いいの? あなたが取ったんでしょう?」
「ネムさん、欲しそうにしてたので。それに、何だかお似合いだなって思って……」
最後にティムは、少し照れくさそうに言った。
「……本当に優しいのね」
ネムは小さく笑って受け取り、「ありがとう」と小さく礼を言った。
その後も歩きながら、彼女は何度も金魚をチラチラと確認した。
まるで、欲しいものを手に入れた子供のように。




