第3話「夏祭りへ」
ディーンと別れ、ユアはアクセプト寮へ戻った。
食堂では、空想組とギャル組が楽しそうに話していた。
よく見ると、タイシの手には夏祭りのチラシが握られていた。
最初に気づいたソウカが、声をかけた。
「ユアっち、おかえり! お兄さん、帰ったの?」
「うん。ねえ、それって夏祭りのチラシだよね?」
「そうだよ。明日、みんなで行くんだ! ユアも行こう!」
チラシを持っていたタイシが、目を輝かせていた。
さっきもらったチラシは、ユアの手元にはなかった。
ディーンがフィーヴェにいる仲間たちへ説明するため、持って帰ったのだ。
「もしかしたら明日、お兄さんの友達も来るかもしれないんだ」
ユアがそう言うと、ギャル組から喜びと驚きが混じった歓声が上がった。
「お兄さんの友達ってことは、男だよね?!」
「お兄さんがカッコ良いんだから、友達もカッコ良いよね?!」
「ユアっちは会ったことあるの?!」
ヒース、ズノ、ソウカの順番に聞いて来た。
三人とも、明らかに目当ては男性だった。
対して、空想組は彼女たちを微笑ましく見つめていた。
現実派のギャル組と違って、二次元の方にしか、なびかないからだ。
◇
次の日。
ユアはミラーレの弁当屋の仕事を終え、アクセプト寮へ戻った。
「おかえりなさい」と寮母が迎えてくれた。
「ユアちゃん、ちょっと来て」
寮母は、ユアを自身の部屋へ手招きした。
部屋に入ると、水色の生地に薄いピンク色の花が描かれた浴衣が広げられていた。
「今夜、よかったらこれを着ていかない?」
「えっ?! いいんですか?」
「せっかく、お兄さんが来て下さるんだもの。オシャレして行きなさい。大丈夫よ、浴衣は利用者のために用意してある分だから」
最後に浴衣を着たのは、小学校の時。
ユアは久しぶりの浴衣に、有頂天になった。
◇
夕方五時頃。
ディーンが、寮へ迎えに来た。
「お待たせー!」
彼へ駆けるユア。下駄がカタカタと鳴る。
寮母から貸してもらった浴衣を着こなし、髪型も上の方で団子を作ったシニヨンヘアになっていた。
いつもと違う風貌に、ディーンは開いた口が塞がらなかった。
「な、何だ、その衣装は……?」
「これは“浴衣”って言って、祭りの時に着る服なんだ! 私の国では、昔もこういう形の服が着られてたんだよ!」
驚きを隠せないディーンを見て、ユアがドヤ顔で説明した。
「そ、そうか。祭りのために着る服か……」
ディーンは、彼女を眺めながら納得した。
「と言うことは、俺たちも着替えた方がいいのか?」
ユアは「俺たち」という複数形を聞き逃さず、目を輝かせた。
「みんな、来てるの?!」
「まだフィーヴェだ。こちらはあまりにも暑いから、“覚悟を決めるように”と待たせている」
「覚悟って、そんな大袈裟な……」
ユアが言ったところで、ディーンは「少し待ってろ」と、足早に去って行った。
三十分が過ぎた。
ユアは浴衣姿のまま、冷房が効いている寮の玄関で待ち続けた。
「何やってんだろ……?」
心配していると、向こうの曲がり角から人影が現れた。
ユアは急いでドアを開け、駆け寄った。
やって来たディーンを見た瞬間、彼女の体は硬直した。
何故なら、彼は髪型と眼鏡はそのままに、黒い浴衣を着ていたからだ。
「ディ、ディ、ディン様?! どうしたの、その浴衣?!」
「祭りの時に着るのだろう? 変身能力で着替えたのだ」
「そうなんだ。別に強制じゃないんだけどな……」
ユアが赤面しながらつぶやいた。
フィーヴェは洋風の世界。
和風の文化はないため、和服を着たディーンが新鮮に見えたのだ。
彼は自身の後ろへ「来ていいぞ」と声をかけた。
すると、一気に五人の人物が顔を出した。
最初に現れたのは、えんじ色のウルフカットにグレーの浴衣を着たラルス(フィトラグス)。
「誘ってくれてありがとな」
続いて、紺色のウェーブヘアに丸眼鏡をかけたティム(ティミレッジ)。
黄色の浴衣がよく似合っている。
「またリアリティアに来れて、嬉しいよ」
さらに、黄土色のツンツンヘアにオレンジ色の浴衣を着たダット(オプダット)もいた。
「楽しみだぜ、リアリティアのまつなつり!」
「”なつまつり”な!」
ダットの言い間違いを、ラルスが訂正した。
「みんな、来てくれたんだ?! それに……」
三人の後ろには、水色の長い髪を三つ編みにし上部で巻き、紺色の浴衣を着たソールネム、黄緑色の髪を三つ編みドーナツにした、ピンク色の浴衣を着たチェリテットがいた。
「ソールネムと、チェリーも来てくれたの?!」
意外な人物に思わず声を上げると、全員から人差し指を立てながら「シー!」と静められるユア。
彼女たちもゲームのキャラクター。リアリティアでは名前が知られていたので、迂闊に名前を出してはいけなかった。
「仕事が終わったからね。この後、することもないし」
「リアリティアにも、前から来てみたかったんだよね~」
ソールネムとチェリテットは、小声で答えた。
続いて、ティム、ラルス、ダットがお礼を言った。
「今日はお招きありがとう、ユアちゃん!」
「リアリティアにまた来れるだけでも嬉しいのに、祭りにまで参加出来るとはな」
「俺も昨日、ディンフ……ディーンから聞いて、朝から寝られなかったんだぞ!」
「“夜も”! 朝は寝ないで起きてっ!」
ディーンの名前を言い直すダットだが、言い間違いをチェリテットから訂正されてしまった。
予想以上の人数に、ユアは思わず笑みがこぼれた。
そこへ寮から、浴衣姿の空想組とギャル組の六人が出て来た。
「うわっ! すごい人数!」
「もしかして、お兄さんのお友達?」
人数の多さに驚くヒースと、尋ねるラッカ。
ユアは得意満面で「そうだよ!」と答えた。
「お兄さん、友達多いね! 自己紹介しよっ!」
ソウカは取り仕切ると、最初に自身が名乗った。
ギャル組、空想組が名乗った後で、ディーン、ラルス、ティム、ダットが自己紹介した。
次はソールネムとチェリテットの番。
ユアは二人が来ると思わなかったので、仮の名前を考えていなかった。
「初めまして、ネムです」
「チェルです! よろしくね!」
しかし、二人は即座に名乗った。
ディーンたちが教えてくれたのか、名前を考えて来たようだ。
自己紹介も無事に済み、祭りをしている街へ大人数で向かい始めた。




