第2話「レーメンとの出会い」
久しぶりの再会で、兄妹(という設定)水入らずで過ごすため、寮母が外食を勧めてくれた。
ディーン(ディンフル)は黒いジャケットを脱ぎ、白い襟付きシャツの上にグレーのベストを羽織った。
少し動きやすくなったところで、ユアとラーメン屋へ向かって歩き出した。
「来るなら言ってよ。そしたら、色々準備したのに」
「そうだな……。先に知らせておけば、ここまで暑い思いはしなかった。しかし何故、リアリティアの夏はこんな感じなのだ?」
「こっちが聞きたいよ……」
ユアに聞いても、当然わかることではない。
年々上がる夏の気温については、リアリティア人全員の疑問だった。
フィーヴェにも四季はあるが、夏はここまで暑くはないようだ。
「それにしても、これだけ暑くては勉強どころではないな。お前がミラーレから引っ越した暁は、俺もリアリティアへ飛ぼうと思っていた。しばらくは無理だな……」
ユアは来春に向けて大学入試に励んでいた。
フィーヴェと共通する内容もあるため、ディーンが毎日教えに来ていた。しかも、スパルタで。
「……待てよ。寮の中は、冷房が効いていたな? あれさえあれば、勉強はやめなくていいな」
「い、いや、リアリティアには“夏休み”っていうのがあるし、暑い間は勉強休んでもいいんじゃないかな?!」
どうしても彼のスパルタに耐えられず、ユアが拒んだ。
「フィーヴェにも夏休みはある。そして、長期の休みほど勉強のチャンスだ! 何より、お前は学校がない分、毎日が休みのようなものだろう!」
「そんなことないよ! 今も時々、ミラーレの弁当屋で働かせてもらってるし!」
「働く元気があるなら、勉強する元気もある筈。一度休めば再開するのが億劫になるが、それでもいいのか?!」
「わかった! やればいいんでしょ、やれば~!」
結局ユアはディーンの圧に負け、スパルタ指導を受け続ける羽目になった。
行きつけのラーメン屋に着いた。
ディーンはここのラーメンが気に入り、今も時々食べに来ていた。
「いらっしゃい!」
店に入ると、大将が二人を見るなり、快く声をかけた。
もう常連で顔を覚えられていたのだ。
二人はいつものカウンターに座り、ユアが真っ先に言った。
「冷麺二つね!」
大将は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「あいよ!」と返事をし、準備に取りかかった。
ディーンが不満そうに言った。
「勝手に注文するな! 俺はいつものを食べたいのだ!」
「ディン様、冷麺は食べたことないでしょ?」
「レーメン……? ラーメンの亜種か?」
しばらくして冷麺が来た。
浅い皿に盛られた麺の上にトマトやきゅうり、レタス、ハムに細く刻まれた玉子など、いつものラーメンとは違うものが来た。
温度だけでなく、視覚的にも涼しさを感じられた。
「こ、これが、レーメン……?」
「夏しか食べれない麺類だよ!」
ユアから半ば強引に勧められ、ディーンは早速、口に入れた。
すると……。
「う、美味い……! 何だ?! この、生野菜と相性抜群のさっぱりとしたスープは?! いつも使う麺とも、見事に合っているではないか! 夏には打ってつけだ! 何故、今まで気づかなかったのだ、俺は?!」
ディーンが初めての冷麺に衝撃を受けると、ユアは「やっぱりハマった」と、どこかご満悦だった。
大将も「冷麺にまで感動してくれるなんて……」と嬉し涙を流していた。
◇
帰り道。
猛暑で機嫌が悪かったディーンも、冷麺のおかげですっかり良くなった。
「驚いた。まさか、夏仕様のラーメンがあるとは。本当にリアリティアは、食が豊富だ」
「やっぱりディン様、まだ知らなかったね。それじゃあ、そうめんやざる蕎麦は知ってる?」
「ソーメン? サルソバ?」
彼の聞き間違いに、ユアは思わず吹き出してしまった。
「“サルソバ”じゃなくて“ざる蕎麦”! ざるの上に乗っけて、つゆにつけて食べる蕎麦のことだよ……」
ユアが笑いながら説明するが、語尾へ行くにつれて自信がなくなっていった。
ざる蕎麦の説明を人にしたのは初めてだった。
生きて来た中で、ざる蕎麦を知らない者がいなかったからだ。
「“ソーメン”もわからんが、“ザル”に“ソバ”も初耳だ。それらはどんな食材だ?」
「そこから……?」
フィーヴェは、リアリティアとは文化がまったく違う。
もちろん、ディーンが知らないことは、まだたくさんあった。
どこから説明すればいいかわからず、今度はユアの頭がこんがらがった。
ちょうどその時、街頭でチラシを配っていた人が、ユアに一枚手渡した。
(助かった……)
話が紛れ、安堵した彼女は早速、それを目にした。
「明日、夏祭りやるんだ?!」
「夏祭り?」
ディーンの関心が祭りへ向くと、ユアはそちらの説明を始めた。
「美味しい食べ物のお店がいっぱい出て、花火も上がって、すっごく楽しいから!」
「美味しい食べ物? ラーメンも出るか?」
「焼きそばなら、あるけどな……」
ユアは、ふと思いついた。
「せっかくだし、みんなを誘わない?」
「フィトラグスたちか?」
「うん! こういうのは、大人数で行く方が楽しいんだよ!」
「名案だが、あいつらも忙しいぞ。それは何時から始まるものだ?」
他の仲間たちは現在、異種族・ディファートと人間の共存のために活動していた。
それを思い出したユアは、気軽に誘っても大丈夫か心配になった。
「屋台は昼過ぎから出るけど、花火は夜の七時から」
「その時間なら終わっているだろう。だが、仕事終わりで疲れているかもしれぬ」
「そうだね……。ダメ元だけど誘ってみよう」
「もしあいつらが無理なら、俺だけでも参加しよう」
ユアはディーンの気遣いに心から感謝した。
思えば、彼とゆっくりリアリティアを歩いたのは、今年の春以来だった。
今から、ディーンとの夏祭りが楽しみで、胸を躍らせるのであった。




