第1話「暑すぎる世界」
今作から文字数を気にせず書くようにしたので、話によっては短く感じるかもしれません。
夏真っ盛りの八月。
現実世界・リアリティアの人々は、今日もうだるような暑さに苦しんでいた。
年々、夏の気温は上がり続けていた。
九月どころか、十月に入っても涼しくならない。
リアリティアの四季は、少しずつ壊れ始めているようだった。
ここはアクセプト寮という女子寮。
先日、再入寮したばかりのユアは、新たな生活に慣れるために日々奮闘していた。
とは言うものの、親しいメンバーは一人も変わっていなかった。友人にギャル組が加わったこと以外は。
今日は久しぶりに、ショッピングモールへ出かけていた。
寮に戻り玄関に入ると、ゲームやアニメなどが大好きな、いわゆる「空想組」の三人が迎えに来た。
「おかえり、ユア!」最初に、タハナが声をかけた。
「ただいま! どうしたの、三人そろって?」
「ユアにお客さん来てるから、早く行ってあげて」
ラッカに言われるとユアは急いで靴を履き替え、客がいると言う食堂へ向かった。
食堂のドアを開けると、ギャル組の三人が一人を取り囲んでいた。
中央の者は、紫色の短髪で黒いジャケットを着ていた。明らかに夏向けの服装ではなかった。
ユアはその見た目に心当たりがあった。
「ディン様?!」
ギャル組とその人物が、同時にこちらへ向いた。
紫色の髪の者はユアの想い人であり、イマストⅤというゲームのキャラ・ディンフルだった。
今はリアリティア仕様の姿に変身しており、名前も「ディーン」と名乗っていた。
「ユアっち、お兄さん来てるよ。すっごくしんどそう……」
ギャル組の代表・ソウカが教えてくれた。
ディーンは「ユアの兄」という設定で、周囲に伝えられていた。
いつも眼鏡をかけているディーンはこの時だけ外し、すでに疲れ切っていた。
「どうしたの? “今日来る”って聞いてないけど……」
「その前にいいか……?」
ディーンは肩で息をしながら、苦しそうに言った。
そして……。
「何故、こんなに暑いのだ?!」
彼が怒鳴ると、ユアとギャル組は口をぽかんと開けた。
「いや、お兄さん、今さら……?」
「リアリティアが暑いのは、数ヶ月前からだよ……」
ヒースとズノも呆れ返った。
彼は普段、夜にしか来ないので、昼のリアリティアは久しぶりだった。
この暑さを知らないのも無理はない。
そこへ空想組が心配して、食堂へ入って来た。
「先ほど来てビックリしたぞ! まさか、リアリティアの夏がこんなに暑いとは! お前たち、よく平気でいられるな!」
ディーンは初対面にも構わず、全員に向かって声を張り上げた。
リアリティア人も平気ではなく、数ヶ月過ごして来たので、対策をわかっていた。
「そのジャケット、脱げば良くね……?」ヒースが、引き気味で提案した。
そこへ、タイシが疑問に思った。
「“先ほど”って……じゃあお兄さん、空港からここまで、どうやって来たんですか?」
ディーンは、いつも空間移動の魔法でフィーヴェ(イマストⅤの舞台)からリアリティアへ飛んでいた。
リアリティアでは、海外勤務という設定になっていた。
なので、海外から来るにしても、空港から暑さを感じないのは不自然だと思われた。
「い、いつも、空港からクーラーガンガンのタクシーで来るから、外の気温がわからないんだよねっ!?」
ユアがあわててフォローした。
少しでも怪しまれると、ゲームキャラのディンフルだとバレてしまうからだ。
友人たちは「あぁ~!」と納得してくれたが、ギャル組はあることが引っかかっていた。
「てか、ユアっち。さっき、お兄さんのことを“ディン様”って呼んでなかった?」
「“ディン様”って、イマストのディンフルだよね?」
「何で、そう呼んでんの?」
ソウカ、ヒース、ズノが順に聞くと、今度は空想組も疑問に思った。
ユアとディーンは、ぎくりとした。
「そういえば、お兄さんってディンフルに似てない?」
タハナが、ディーンを見つめた。
「声も似てない?」
「思った! もしかして、本人だったりして?」
つられて、ラッカとタイシもじーっと見つめ始めた。
ユアとディーンは、同時に血の気が引いた。
危機を感じたところで、食堂の奥から、寮母がコップ一杯の麦茶を持って来た。
「遅くなってごめんなさいね。麦茶がちょうど切れてて、買いに行ってたんです」
差し出され、ディーンは「感謝する!」と一気に飲み干した。
「ずいぶん美味い飲み物だな。色だけ見るとブランデーのようだが……。おかげで生き返ったぞ」
彼が初めて口にする麦茶に感動していると、周りの者はどっと笑い出した。
ヒースが思わずツッコんだ。
「いや、大袈裟だから!」
「もしかして麦茶、知らないんですか?」
タハナが聞くと、ユアが「海外にいる方が多いから……」と疲れながらもフォローした。
初めての猛暑、初めて顔を合わす友人と、ユアはディーンのフォローをしなければならなくなった。
心の準備も出来ていなかったので、不安は一層強いのであった。




