秘匿性と全てを見透かす目
「まっ、こういう意味の無いこともゲームの楽しみだよな」
ガンマは頂上で胡座をかきアマリリス、基アイリス戦後の話し合いを思い出し、整理を始めた。
「今の俺達がすべきこと、まずは創世生物の報酬を秘匿すること、創世神物:蒼断のアマリリスの存在を知られたら戦争になりかねない、DEX100%強化に武器の攻撃力50%上昇とかいう超絶バフはこのゲーム屈指のレアアイテムだろうからな」
「俺達の報酬は王に比べたら些細なものですが、報酬を獲られる基準にもなり得ますので秘匿するのが良策でしょう」
「お前の持つ創世神物はこう言っちゃなんだけど、剣ってよりかは弓の強化アイテムだな。弓の攻撃力はSTRじゃなくてDEX換算だ、単純に火力2倍って考えたら話は早い」
「DEX100%上昇って装備に付与されてるやつもか?」
「要検証ですね。もし全ての数値が100%上昇するのであれば2倍どころの騒ぎじゃありません」
この話を聞いて3人は同じプレイヤーを頭に浮かべた。
「ペンタゴンにバレたら終わりだな」
「ペンタゴンとはアマリリス戦で共闘した仲だけど、そいつの存在を知られたら俺達を叩き潰しに来るだろうな」
「今の俺達じゃ単純にレベルと武器の差で太刀打ちできねーだろうな、下手すればカゲツですら掠ったら死ぬぞ」
ここでゆぃつがペンタゴンから聞いた奴のメイン武器の一部詳細を話し始めた。
「あいつのメイン武器、神器 月弓アルテミスは詠唱の統一化っていう切り札があった。」
「統一化?文言が同じってことか?」
「そっ、統一化された詠唱に置き換えればイカれた威力を放つことができる。あの武器は耐久値がない代わりに器って言うのを消耗するらしい、器が壊れれば数日使えないってことだったけど.....あれ避けれるか?」
2人に問う。同じことを思ったのだろうガンマとカゲツは目と目が合い同時に言葉を発する。
「「無理」ですね」
「掠ったら死ぬのにあいつの腕まで乗るんだから現状まず不可能だろ」
「そもそもあれ※AOEです。衝撃波程度なら何とか致命傷で済みますが、避けた先にペンタゴンの追撃があると考えたらどうしようも無いかと」
※AOE:範囲系攻撃
「最大火力は一発で器が壊れるっぽいからあの武器での連発は無い、と言ってもあいつ普通につえーからそもそもがきついな。」
別のゲームとは言えガンマ達の後を長年着いてきているクランの団長、弱いはずがない。最前線で戦い続けてるプレイヤーが大事な場面で矢を外す訳が無い上に長年の経験がある。状況判断能力と瞬時の対応力はガンマ達にも及ぶだろう。
「そっ、だから俺達が最優先で進めなきゃならないのがクランを立ち上げることだな。これは創世神物の有効活用だな。ペンタゴンに取られたらやばいって話だけど、俺達には世界最強の弓使いがいんだ、殴り合いさせときゃ勝てる!と信じてる」
「丸投げじゃねぇーか、まぁレベル上げ頑張れば勝てるよ」
淡々と告げるゆぃつに少しの不気味さを感じながらも同時に頼もしさを感じた。
「さっき話した通り現状近接職じゃペンタゴンに勝てない、だったら俺達はゆぃつを強くして殴り合わせる そもそもあいつが俺達に害をなすとは限らないけどな」
ここで整理から戻ってきたガンマは目をゆっくりと開いた。目の前には森が広がっており良い言い方をすれば目に優しかった。
「ペンタゴンもだけど、シグマだって俺達を叩き潰せるだけの腕とレベルがある。俺があいつに抵抗できるレベルまで強くならなきゃな」
メイスをメイン武器として使用しているガンマとシグマはプレイヤースキル的には互角、と言ったところだろう。初めて間もない武器でトッププレイヤーと渡り合える時点で以上だが、技術的アドバンテージがない状況でシグマに襲われればレベルと装備、スキルの質で為す術なく倒されるだろう。
「今強くならなきゃいけねーのは俺、レベルもそうだがメイスを体に馴染ませるところからだな。」
かなり体に馴染んできているが、本質は双剣使いのそれだ。鈍器と盾という長年で初めての組み合わせへの適用は未だ80%と言ったところだろう。
「まずは戦い続ける!それが今俺に必要なこと!」
ガンマは立ち上がり崖の下を眺めた。
「······これどうやって降りんの?」
90度の断崖絶壁、掴めそうなところはあるが、ありえないくらい時間がかかりそうだった。
「連絡してみるか、」
ベータにゲーム内でメールを送ることに。既に開いていたのか?という速度で返事が帰ってきた。
「えっと?」
【ベータ】
(それ死んだ方が早いよ)
【ガンマ】
(.............はい)
名実ともにクソエリア、【森羅の寺院】より酷いエリアだった。あそこには隠しエリア【荘厳に美しき青の世界】があったからまだ良かったもののここからの眺めは森しかない。せめて勇気の花畑を見える位置にあって欲しかった。ちょうど木に隠れてて何も見えない。
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「おはよ〜」
最後にリスポーンポイントに設定していた伝令神のクランハウス。まともな家が無いから一時的に設定させてもらっている妹の部屋。当たり前と言っちゃなんだがベットから目を覚ますとベータが顔を覗き込んできた。
「おう、おはよ」
思春期の妹がゲームの世界とは言え兄を自分のベットに寝かせていいのかよ、とも思ったが昔からそういう隔たりが無い関係だからなんの抵抗感もないのだろう。
「やっぱり死んできた〜どう?クソだったでしょ」
「ゴミゴミのゴミだなあれ、なんのために作ったんだよ」
「一応かなり高い山?だから超遠距離攻撃ができる!とか言われてたけど擁護にもなってなかったよ」
「本格的にいらねーじゃねぇか」
「それで?お前はなんでここにいんの?」
「待ち伏せだよ〜」
ベータだってこのゲームのプレイヤーで開拓者だ一刻も早く最前線で情報の収集をしたいはず、そんなプレイヤーが例え自分の部屋だとしても攻略を止めて待機しているなんてことしないはずだ。
「........なんの?」
「心当たりあるくせに」
心当たり、アヤメと対面した時に創世生物についての助言を授かった。あれは確実にコスモの影響で創世生物のシークレットクエストを発生させていなければあの演出は無かっただろう。
「ちょっと用事を思い出した、今日はこの辺で、」
「それは困るな」
扉が開かれた先に居たのは伝令神の団長シグマだった。シグマは部屋から立ち去ろうとした俺を押し返すように中へと入ってきた。為す術なく追いやられた俺は観念したかのようにベットに座り込んだ。
「既に全ての入口は封鎖済み、そこの窓から飛び出してもいいが、今の君では私から逃げることはできない、違うか?」
ステータスの差が圧倒的すぎる。どう頑張っても逃げれるはずもないから観念したフリから本当に観念したように手を後ろに着いた。
「はいはい、わかったよ。そんで?俺に何を聞きたいんだよ」
「本題から入ろう。君は既に創世生物に繋がるクエスト、シークレットクエストを受理している、違うか?」
「·····根拠は?」
「シークレットクエスト──理を断つ一輪の青い花──を受理した時にアヤメが話していたさ。ベータ読み上げを」
「はーい」
そういいベータは指をスワイプし何やらメモを読み出した。
「創世の王は何も生物だけに非ず、私怨.....行き場の無くなった思いは世界を作り替える力へ変わる。思念·死念·私怨、あらゆる思いは始まりの力へと生まれ変わる。思いは一つにあらず、二つの月は想いそのもの、だそうです」
「これに対して弁明はあるか?」
「弁明も何もただの台詞だろ?俺が来たからこれを読んだって訳じゃないんじゃないか?」
『コスモのことについて話してしまえば俺の持つカードが無くなる 交渉もクソもない。何かがあるって踏まれていたとしても内容を知らなければなんの効力を持たないだから今の俺にできることはただ1つ、この場を切り抜けることだけだ』
「ふん、そういう言い逃れの仕方もできるな、そういうことにしておこう。こちらもそれなりの対価を払わなければ君の口から吐かせるのは難しそうだ。では次の質問に入ろう。」
『おそらく次が本命、』
「アマリリス及びアイリス戦の報酬について伺おうか」
予想通りの質問。これを応えてしまえば俺達が標的になるのは目に見えている。アマリリスは弓に対してのバフの方が効力を持っているだけで武器の攻撃力50%UPもなかなかに壊れている。
『アレクシカコスの攻撃力が1.5倍になるだけでも俺達じゃ本格的に対処のしようが無くなる。』
「我々の報酬はこの短剣とベータが受け取ったメモ帳、以上だ」
「っ!」
言うとは思っていなかった、そもそも言うメリットがない。言ったところであまり損失がないという判断か、それともこちらが情報を渡す対価として話したのか、どちらにせよ
「それを教えられたところで俺が話す理由が無いな 俺からしたらその情報を貰ったところでなんの価値もない。」
「あぁ、ただ、その言い様だとなんかしらの特殊なアイテムは受け取ったのだろう?例えばそうだな......」
青色の光り輝く剣とか?
鋭すぎる問に答えが顔に出そうだがそれを押し殺すように言葉を続けた。
「そんなんがあればとっくに携帯してんだろ、生憎俺は聖職者なもんでね。アマリリスとは無縁の存在だろ」
「それもそうだな」
見透かされているような目つき、おそらく確信にも近いものがあるのだろう。自信の発する言葉を事前に吟味する必要がある。この発言は言い訳としてはかなり鋭い物だった。シグマが短剣を報酬として受け取ったのであれば俺に関しても同様、俺の利益となる報酬が与えられているはず、そういった考察も踏まえられるからだ。
「一つだけ言えるのは俺は遠距離手段を手に入れた」
「ほう?言う気になってくれたかい?」
「俺が言えるのはそれだけだな。後は頑張って考察してくれ」
シグマ達からしたらこの発言の真偽は分からない。実際アマリリス戦において花弁の対処に奮闘していたところはある、ガンマが花弁に関する何かを受け取っていてもおかしくはない。シグマだけが花弁の制御を可能になった、という憶測は捨てるべきだと判断しなければならない。
「仕方ない 今日のところはこの辺りにしよう。また後日言及させて貰うよ」
「答えるかはそんとき次第だな。じゃーな」
ガンマは堂々とした態度でベータの部屋から、伝令神の包囲網から抜け出した。
『あっぶねぇぇぇぇえ!鋭すぎだろ!えぇ?!怖!ポーカーフェイス保ててたか?あぁ もうここに来たくない。早く自宅を建てなきゃ......』
内心ヒヤヒヤのガンマだった。
「どう思う?ベータ」
「お兄ちゃんはこういう状況で情報を話す人じゃないので遠距離攻撃のくだりも嘘だと思います。VRMMOにおいて情報は最大の武器ってずっと言ってたので」
「もし仮に遠距離攻撃の手段を手に入れてたとしてもそれはアマリリスとは関係の無い物だろうな。」
全てを見透かされたガンマの思惑、この言及は今後も幾度か続くのだろうか
「あぁ、逃亡したい」




