登る絶壁!広がるただの木!
称号《森の主の親友の友達》を獲得しました
「なんてダイナミックな譲渡、あの不動のHPを削るとは、さすがはオセロだな。」
カゲツは顔面に張り付いた子猫を両手で優しく引き剥がした。開けた視界に映っていたのはさっきまでは何も無かったはずの場所に巨木、熊や鹿などの中·大型の動物達は静かに穏やかに暮らし、鳥や小動物が戯れている姿が見受けられる。
「........」
「カゲツ.....?」
手を目の前で振ってみても反応がない。これは気持ちの整理が全てのリソースを使わなければ間に合わない程に感極まっている、ということらしい。
「俺は、ここで生涯に幕を閉じようと思います」
「カゲツ?!雲田さんとかは?!」
「では二生涯に分けて幕を閉じます」
いつもは頭がいいはずのカゲツがあまりにも頭の悪いことを言っているが、カゲツにとってここはそれだけの楽園ということなのだろう。動物は好きだけど飼ったりした事の無いガンマであってもここから帰りたいという気持ちは一切生まれてこない、やはり動物の魔力という物は凄まじい。
遂に動き始めたカゲツ、大きな熊が目の前で寝っ転がっている。怖がらないようになにか声を掛けていたが、何を話していたかは聞こえてこなかった。なにか話したあとに熊は更にだらけ始めカゲツのされるがままになっていた。
もっふもふの毛並みは抱きついてしまえば一巻の終わり、その魔力で体は拘束され気づいたら数日の時は経っていることだろう。そんなこと気にせずに顔を埋めたカゲツ。周りの動物達もそれを羨ましく思ったのだろうか、カゲツの周りに動物達の動物集りが出来カゲツはあっという間に動物達と仲良くなっていた。
「さ、さすが動物オタク......レベルが違う。そういやここ《動物達の憩い》になったんだな。この前来た時は《唯一の》だったのによ」
オセロがいつも通り頭をゲジゲジと叩いてきたと思ったら木の左後方を指し示した。指し示した方向にはこの木と同じような巨木が生えていた。まだまだ距離はありそうだが、ここから頭が見えるほどということはここと同等の大きさはあるだろう。
「これと同じ巨木.....ってことは、もう一つ作ったのか?」
頭を優しく叩いてきたことからこれは肯定と受け取った。カゲツは幸せそうだから後で連絡を入れて置いてやろう。
「カゲツ〜?果物置いてくから後は頼んだぞ〜?ちなみにこの木ツリーハウス的なやつだからセーブポイントもあるし動物達もまだいると思うから。んじゃ」
カゲツが蕩けていた。いつもあんなに威厳のあるプレイヤーなのに、動物に囲まれるだけで戦闘能力はほぼ皆無になっているだろう。
「さて、アマリリスの検証もしたいところだけど..........まだクラン建てれてねーからな、金はあっても建築資源とかがあまりにも足りなさすぎる。確かモンスターの素材で良かったはずだけど.....」
頭の中には様々な妄想が広がっているが、結局どれも素材が無ければ取り掛かることすら出来ない。
「やっぱエリア攻略を進める方が現実的だな」
ガンマはオセロを家に帰し、このエリアから去った。そして久々にやってきた通常ワールドの探索!アマリリス戦に向けて四六時中カブトムシを叩き落としていたガンマからすれば全てが開放的で最高にゲームをしていると感じるだろう。
「ここがクロスコードから1個目のエリア、断崖の絶壁か」
エリア?というよりただの壁だ。ここは勇気の花畑の一つ手前のエリア、開拓が進んで行ってここを通るよりも大回りする方が圧倒的に早いとすら言われている何のためにあるのか分からないエリアだそうだ。
「突風が吹いたり鳥が襲ってきたりして地面に叩き落とされるエリア、登ってる最中だからまともな反撃が取れないから近接職にはかなり厳しいな.....だが、俺にはあるんだよな〜超強力な遠距離攻撃手段が」
ガンマは素手で岩肌を掴みよじ登り始めた。AGIはかなり上げてきたからスタミナに関してはあまり心配していない。上を見た感じ所々に人一人くらいなら立てる場所はある、そこでスタミナを回復させてしまえばなんの問題もない。
「うぉ、聞いた通り風邪強ぇな、一旦あそこで休憩するか」
目線の先にあったのはさっきも話した人一人立てる場所、先はまだまだ長い、スキルを使うことはあまりしたくない。いざと言う時にCTが終わってないとなるとそれだけで致命的だからだ。
「ここであいつらと数日間ハマってたボルダリングの知識が生かされるぜ!」
岩肌をスルスルとよじ登って行き絶壁の中腹辺りに達した時奴らが現れた。
「来やがったな?情報通りだ」
鳥が襲ってくるエリア、その言葉通りに周囲を囲むように大型の鳥が羽ばたき始めた。近接職のガンマにとって相性最悪の敵なのだが、ガンマにはさっき貰っておいた伝説のアイテムがある。
「全員撃ち落としてやるよ!」
スキル――ウォールライドを使い壁を足場として認識したガンマ。手元には千色のリスの団栗、握りしめるように複数個持ちMPを注いだ。
「運が良ければ避けれるかもな!MP装填!スキル――投擲!!」
それは宛ら散弾銃のように大型の鳥達を撃ち落とした。運良く直撃を免れたものも居たが、脚を欠損しバランスが取りずらくなっているのだろう、フラフラと安定して留まることができていなかった。
「MP切れか、」
大型の鳥はその隙を逃さずに猛攻をしかけ始めた。羽を羽ばたかせ風の刃を飛ばし、強風でガンマを吹き飛ばさんとし、ガンマも盾とメイスで弾くので手一杯だった。一瞬攻撃が止んだ。その隙にMP回復ポーションを手に取り、口に咥えた。攻撃は再開されるが口に咥えたポーションを上を向き流し込んだ。
「MP装填、発射!」
千色のリスの団栗は鳥にの脳天を貫いた。
「奥義ノーハンドMP補充、行儀悪いのが難点だけどな」
スキルの時間が切れ岩肌から脚が離れたガンマ。今一度岩肌を掴み断崖の絶壁を登り始めた。話を聞いた感じ1回切り抜けてしまえばあとはロッククライミング、万が一でまだ敵がいるかもしれないが、その時はその時だ。一応スキルを使わず焦らずじっくりと登ることにした。
「おおおお!...........お?」
登ったその先は美しく広がる!.......特に何かがあるという訳でもなくただ単に登らされただけ、ショートカットとしてと有効じゃない、ということは。
「本当に意味ねーじゃん......」
せっかく登ってきたんだ、ガンマはここから見える景色を堪能することに。
「森で埋まっててなんも見えねーよ」
景色もさほどいいものじゃない。自身の頑張りは何だったのか、そう黄昏れる時間がたまには必要だろう。頂上で胡座をかき一息ついた。
「まっ、こういう意味の無いこともゲームの楽しみだよな」




