友の心に刃を向けて其の四
「ぐぁぁ!」
「このやろぉ!」
アイリスへと飛びかかるように攻撃を仕掛ける伝令神の面々、アイリスの究極とも言える剣技に拮抗するはずもなく為す術なくやられていく。
「巨重の体」
前衛で唯一アイリスに対抗出来るプレイヤー《タロン》が自身のHPを50%消費することでVITを同様の%上げるスキルを使いアイリスと肉薄する。
大剣をコンパクトに振り極力隙を晒さぬよう注意するタロン、今自分が死ねば戦線が崩壊すると分かっている動きだ。
アイリスの攻撃は鋭く、そして美しかった。余計な力が一切加わっていない、撫でるような力で振るった剣は大剣使いであるタロンを怯ませるほどだった。左腕が使えないという弱点わ誤魔化すように花弁を巧みに使っていた。
「ショックアロー」
ペンタゴンはあくまでも時間稼ぎ、それを理解し対象に麻痺を付与できる矢を放つ。何事も無かったかのように防がれるがこれでいいのだ。少しでも隙が生まれればタロンも行動しやすくなる。
ゆぃつとペンタゴンはお互いにサイドに広く展開し左右から同時に矢を放つ。花弁や剣よって防がれるがお陰でタロンが懐に入ることができた。
「はぁァァ!空裂の破断!」
誰もがこの一撃は入る、そう確信した時、最悪なタイミングで力が復活してしまった。
「なっ、」
タロンが驚愕した目をする。それもそのはずだ、入ると思っていた紫色に光った大剣がが緑色の鞭のようなものによって防がれていたのだから。
「ここで茎復活か、」
アマリリスよりも細い茎だが、タロンの一撃を止めたことから強度が数段上昇しているだろうと予想される。
タロンは左肩から右腰にかけて袈裟に斬られ膝から崩れ落ちた。
ゆぃつは瞬時に用意していた【生命の冥水】を括り付けた矢構えた。
アイリスがそれを見逃すはずもなくゆぃつを次の標的と定め瞬時に目の前にとんできた。
ゆぃつは矢を切り替え通常の矢を装備しアイリスと肉薄する準備を整えた。近接戦もかなり得意なゆぃつだがそれでもアイリスには持って15秒程度だろう。結局のところどんなに優れたプレイヤーでも後衛は後衛、脆いのは変わらない。
ゆぃつに剣が振りかざされる瞬間、目の前に見慣れた背中が割り込んできた。盾で剣を受け止め右手に持った長剣を振るいアイリスを大きく引かせた。ゆぃつも動じることなくそのプレイヤーの首横から矢を何射も放った。アイリスはさらに距離を取り後衛への追撃が叶わなくなってしまった。
「助かったよカゲツ」
「いえ、俺にはこれしかないんで」
カゲツが稼いだ時間のお陰でシグマ·ガンマ·ベータはアイリスが引いた先に追撃をすることが叶った。ベータの抜刀技、シグマの連撃、ガンマの重撃による三者同時多角攻撃、攻撃の音が重なり合いとてつもない轟音と風圧が生じた。
アイリスに久々に入ったまともなダメージ。アイリスは地面に剣を突き刺して吹き飛ばされた衝撃を軽減しようと試みている。
「やっと一撃入った、」
『アマリリスが保有してた能力を手中に収めた、あの一撃を防ぐくらいだから俺の技なんぞビクともしないだろうな。ただ、アイリスもかなり削れてきた、このまま削りきる!』
アイリスも威力を殺し終わりゆっくりと体を起こした、と思ったら。剣を抜かずに何やら力を貯め始めた。周囲から青色の光が舞い上がりアイリスの周りに漂い始めた。
「っ!止めろ!」
感、ただの感だが何か良くないことが起こりそうな予感がした。呼びかけたシグマ同様あの詠唱には数々のゲームで見覚えがある。バフか、全体攻撃か、デバフか、それとも.......
魔法や弓、スキルなんかがアイリスへと放たれる。アイリスはそれらを正面から受け止めかなりのダメージを負ったが、
「最悪の状況だ」
その光はアイリスの傷口に吸収され傷を治癒してしまった。幸いそこから瞬時に動く、という訳では無いらしくこちらの様子をうがってる様だ。
後衛のメンツから「振り出しかよ、」とか「初めからとか、どうやって倒すの?」だとか聞こえたが呑気なもんだ。
「どこが振り出しだよ、マイナスだよマイナス。」
1人ボソッと呟くゆぃつ。この場においての〝振り出し〟とはその場から動かず、花弁も茎も出してこないアイリスのことであって、アグレッシブに動き回り花弁も茎も躊躇なく使う殺戮兵器のことではない。しかも左肩まで治っているということはさっきの強さに加えてもう片腕付いてくる、戦況がかなり怪しくなってきていた。
「まっやることは変わんねーな。」
そんな中明るい雰囲気の2人のプレイヤー。ゆぃつ程周りのプレイヤーを重んじるタイプじゃないから気が楽なガンマとカゲツ。ガンマは言わずもがなだが、カゲツは命令を忠実にこなしているだけであってガンマとゆぃつ、今だとベータもだが、その他のプレイヤーがどうなろうとあまり関係ないと考えている。
「呑気だな、ガンマ。この最悪の状況ですら楽しいと感じているのか?」
「ゲームで楽しまなくてどうすんだ?しかもこんなにデカイ戦いなんて滅多にないだろ?だから俺は最後まで楽しむよ。辛気臭い顔してるとラストヒットも何もかも俺たちで取っちまうからな〜?」
シグマはそんなガンマのプレイスタイルに驚いてるようだが、これがポリシーだ。
「ゲームに絶望なんて言葉は似合わないだろ?楽しんでこうぜ、勝った方が楽しいに決まってる。」
「あぁ、それもそうだな。」
「だろ?そんでさ、なんか手ある?」
あんなこと言ってたくせに実は手札がもうゼロである。極論ノーダメに抑えればいずれ勝てるかもしれないけど、あの見えない斬撃が来る可能性があるからいつかはワンパンで死ぬ。
「あの見えない斬撃の対処はなんとなくわかったけど、タイミングが悪かったら結局回避は不可能だから運ゲーだな。あれで死んだら運が悪かったってことで!」
「私もただの仮説に過ぎないが対処は思いついた、手立ても無いわけじゃない。」
シグマがベータに目線をやった。ベータは会話の内容をよく理解していないのか目をパチパチとしている。
「ベータ、あれを出してくれるかい?」
「ん?あぁー!あれね!」
ベータはインベントリからある一振の刀を取り出した。白と金色の鞘に収められたその刀は《天を割る逆滝》と言うそうだ。
「こいつがなんなんだ?」
「これは使い勝手があまり良くない暴れん坊、弱点に対して特攻が入る武器なんだけど私のスキルとかと合わせたら最高で80%割合ダメージが出せるんだ。」
「80%?!!最強じゃねぇか!」
元々ボス戦において割合ダメージは最強だ。どんなに高HPの的であろうと体力を割合で削れるのだからボス戦最強といっても過言じゃない。
「でもさっきも言った通り使い勝手が良くないの、」
「火力が高すぎるから何が出てこようが目を瞑るけどな、」
「一般プレイヤーにとっては相当難しい代物なんだよね、」
⎯⎯⎯⎯心臓、首、頭以外攻撃が失敗する。
⎯⎯⎯⎯攻撃失敗時 耐久値25%減少
⎯⎯⎯⎯所有権の譲渡不可
⎯⎯⎯⎯所有権の放棄不可
⎯⎯⎯⎯類似装備制作不可
「この武器は剣とかで防がれずに絶対その三ヶ所のどっかを攻撃しなきゃだめっていう超玄人向け武器なんだよ。私じゃなくてお兄ちゃんが持ったらぶっ壊れだけど、譲渡もできないから私がやるしかなくて........」
「チャンスは1度しかないが、一つだけ確実に当てる方法がある。」
そう言った直後アイリスが行動を再開した。茎を大量に出し花弁も春風に吹かれる桜のように舞っている。
「悠長に話している時間はもう無さそうだ、簡単に言えば代償を払ってアイリスの動きを3秒だけ完全停止させることができる。そこを突いてくれ」
「了解、んじゃ俺は護衛だな」
「あぁ、頼んだ。」
「ベータ、君になら出来る、信じている。」
「っ!もちろん!私が倒してみせる!」




