友の心に刃を向けて其の三
数瞬、2人の目が合った。アイリスの心に触れた気がした、それは気のせいかもしれない、それでも、この光景がベータの覚悟をより一層強めたのは確かだった。
アイリスの目を見つめ続けるベータとは違いアイリスはベータを仕留め損ねた長剣を肩から引き抜き、次は外すまいと狙いを定めベータの喉元へ突きを放った。
その刺突がベータを穿くことはなかった、アイリスの刺突がベータを穿く寸前に誰よりも早く反応し援護に入っていたカゲツによって阻まれた。
カゲツの振るった長剣はアイリスの首を刎ねる勢いを持ち武器を弾かれた状態のアイリスにそれを受け止める選択肢は存在せず、アイリスは大きく後ろに回避することになった。
結果として大きく間合いを取ることが出来ベータの生存が確実なものとなった。
「カゲツさん!」
「この戦に終止符を打つのは王でもシグマでもない、貴方で無ければなりません、俺が援護します。」
「っ!はい!絶対!私が倒します!」
差し出された手を握りアイリスを倒すべくもう一度立ち上がった。
「鋼鉄の震打!」
少し離れたところでガンマとアイリスがぶつかり合っている。スキルを使用し上から強烈な一撃を叩き込むガンマ。
さっきまではビクともしなかったが1対1で押し合いが成立している、ベータの一撃が効いている証拠だろう。
「はっ!左腕が垂れてんぞ!虚言女!」
『ゆぃつの神アシストにカゲツの迅速な援護、極めつけにベータの均衡を崩す致命打、』
自分で理解していた、アイリス戦において自分は時間稼ぎに過ぎないと。本来*バファーでしかない聖職者に下降補正がかかっているAGIによる高速戦闘などただの縛りプレイだ。ここまで戦えてるのはプレイヤースキルによるもので普通の人であれば前線に出ていること自体トロール判定されかねない。
『俺の役割は命を落としてでも誰も死なせないこと、お誂え向きの仕事じゃねぇか』
「バッファーは最前衛にSTRバフの付与!AGIはあげるな、感覚がズレると崩壊しかねない」
マルチタスクに切り替えたゆぃつの頭には情報が流れ込んできた。目の前の花弁が全て消し飛ばされていること、魔法による火力は優先すべきことではないこと、継続的に殴りあえるようバフをかけることが現状の最優先事項、
「ヒーラーはベータのヒールをしたら攻撃に参加してくれ。」
『こっからだな、』
左肩に致命傷を受けたとしても足が動かせるようになったこととトレードと考えればアイリス的にもお釣りが来るだろう。
『立ち止まった状態であの防御性能だったんだ、足が動くようになればこいつの動きは予想できなくなり後衛に被害が出る可能性がある、左腕を失ったことによる戦闘能力の低下は微々たるものと考えて良さそうだな、』
他にも同じことを考えているプレイヤーは居るだろう。前衛が崩壊しても終わりだが後衛が潰れるのもかなりまずい。遠距離攻撃の圧が無くなればさらにアグレッシブに動き回る可能性がある。そうなればジリ貧になり勝ち筋が薄くなっていくのが容易に想像できる。
「反響する斬撃」
アイリスがガンマを弾いた一瞬の隙を狙いアイリスの背中に斬りかかった。
かなり鋭い一撃だったがアイリスはそれを跳んで躱した。だが空中は体勢が取れず無防備になるのは必然、空中は近接攻撃相手には滅法強いが攻撃が届く相手からしたら的でしかない、
「弓覇者の爆裂矢」
「ソニックアロー」
2人の弓使いがそんな隙を逃すはずもなく二射共に頭に矢を叩き込んだ。
「「........」」
爆煙でアイリスが視認できないが2人は今の一射に納得できてない点があった。
「当たった感覚無し」
「防がれた」
防ぐ手段が有るのなら空中は安置となる。爆煙の中から姿を表したのは青色の花弁によって形成された球体だった。
アイリスは左肩以外に目立った外傷はなく2人の二射は完璧に防がれたことを意味していた。
アイリスが見下ろすようにこちらを睨みつける。今の二射でアイリスの標的が2人に向いたのは言うまでもなかった。
『ヘイトこっち向いたな、あれで反応されるんだったら空中は的じゃなくて罠だな、撃つのは得策じゃない、ただ。』
「向いたんだったらもう関係ないよな?」
こっちに向かってくるんだったら迎撃する以外に選択肢は無い。ゆぃつは指示を飛ばした。
「|バフは前衛を回せ、前衛は後衛の援護を最優先に!火力は要らないからとにかく守れ!魔法使い《メイジ》はありったけ撃ち込め!」
「問題はそっから、」
「だな。」
伝令神の前衛だけでアイリスの猛攻に耐えれるかと問われればそれは否である。ゆぃつとペンタゴンが援護するとはいえ元の性能で押し切られてしまったら意味が無い、最前衛部隊が強すぎるだけだ。
「できるだけ長生きして援護待つしかないな」
瞬く間にアイリスは伝令神前衛の前に現れ、蹂躙を始めた。




