友の心に刃を向けて其の二
『アヤちゃんは私が止める、そしてもう一度だけちゃんと話す!今までずっとそんなこと思ってたのってちゃんと聞く!』
「アイリス.....!」
肉薄していたシグマはアイリスに振り払われ遠くへ吹き飛ばされてしまった。
絡めて全開の戦闘スタイルに切り替えることで今まで自分達の戦闘を見て学習していたアイリスの不意をつく事は出来た、ただそれ以上にアイリスの力と防御性能が高すぎた。
『止まってる暇なんかないぞ私、ベータを悲しませた罪は償ってもらう。』
冷静な表情を保っているつもりだろうが心の奥底は燃えたぎっていた。一泡吹かせなければ気が済まない、そういった様子だ。
「鋼鉄の震打!」
アイリスの上段に襲い掛かるメイスによる強力な一撃。アイリスはそれを青色の光り輝く剣で軽々と受け止めガンマの体ごと剣で振り払った。
「おっ、人は見かけによらず、人か怪しいけど.....」
『なんつーパワーだよ、自慢の攻撃スキルがビクともしなかった、やっぱ直接殴んねぇと意味無いか。』
振り払われたガンマは受け身を取り瞬時に追撃に備えた。
「ご無事ですか?」
「あぁ、問題なし」
カゲツもガンマが追撃されると踏んで援護に来たがアマリリスにその様子はない、あの力があれば適当に武器を振るっているだけで何人か殺れるだろうが、それをしないのは何故か。
「仕掛けてきませんね、何か理由があるんでしょうか。」
「それは恐らく慣れていないんだろうな」
横からシグマが推測を話してくれた。
「我々はNPCかプレイヤーかの差はあるが本質的には変わらない、アイリスはさっきまでただの人間だった、にもかかわらず今のあいつは創世生物に成った、身体の適応が始まってるんじゃないか?」
「んじゃ、今のうちに叩くのが正解だな!」
「お供します」
アマリリスがこちらを見た。背筋が凍りそうな目線だが、そんなものにビビってたら剣を交えるなんぞ出来やしないだろう。
「アヤちゃん!」
声がした、アイリスに対して刀を握り、斬りかかった女の子の声が。
「ベータ......」
今までビクともしなかったアイリスだがベータとの肉薄には少し別の動きを見せた。左手を伸ばしベータのことを掴もうとしたのだ。ベータはそれを振り払うように両手で握りしめた刀から右手を離しアイリスの左腕を跳ね除けた。
「私が倒すよ!アヤちゃん!私が止めてみせる!」
「........」
冷たい視線を送るアイリス、ベータも怯まない。止めるという覚悟を持った1人のプレイヤー、圧だけで逃げだすような覚悟はしていない。
「行くぞ!」
3人は分散し多角から仕掛け始めた。少し反応が遅れてベータもその一角に入り込んだ。
「過剰なくらい守るって言っちゃったからさ、約束は守るよ」
ゆぃつやペンタゴン達は伝令神の前衛を壁にし弓を構える者や詠唱を唱える者が待機していた。
「これで全方位だなアイリス。」
「ホークアイ、ヘイスト!」
視覚強化スキルホークアイを使い全体の動きを更に掴みやすくする。
ヘイストによるAGI強化は高レベルプレイヤーのシグマに動きを合わせるためにも使わざる負えない。
「血の代償」
カゲツは自身のHPの50%を代償に任意のステータスに50%の補正をかけるスキルを使いAGIを強化した。
少し冷静さを取り戻したシグマ、3人を引っ張るかのように先陣を切りアイリスに斬りかかった。アイリスは動くこともせず右手の長剣だけで対処をしている。
シグマに引っ張られるように3人も続きアイリスと剣を交え始めた。
息のあった4方向同時攻撃、アイリスは右手で長剣を振るい左手でこちらの武器を直接弾いたり掴んだりと、腕はかなりうごくようになっていた。
「腕の適応が終わったみたいだな。」
「ジャストを取られてる訳でもない、単純にHPで受けるタイプだなこいつ」
アマリリスに比べてアイリスは防御力が低い。アマリリスに比べたら全て低く感じてしまうが、素手で受け止めてくる左手には赤色のダメージエフェクトが出ているところから多少のダメージは負っていると見受けられる。このダメージエフェクトで理解した。
『こいつは倒せる敵、残りHP1から減らないタイプの負けイベの可能性は秘めているけど、ダメージエフェクトすら出なかったアマリリスに比べれば心持ちがまだ楽だな。』
「離れろ!」
シグマの言葉で4人は一斉に後ろへ飛んだ。後衛から数多の魔法が降り注いだ。アイリスはそれを長剣でブロックするがダメージは免れないだろう。
前衛が崩れたら終了、それがわかっているからこそ戦場を俯瞰して見ることができるゆぃつは後衛達に指示を飛ばしていた。
ペンタゴンとゆぃつは矢を放たず構えて待機している。もしアイリスが予期せぬ状況で動き始めてしまった時、2人の援護がなければ恐らく、ベータは死ぬ。
他の3人は死なないと確信できるがベータはそうではない。伝令神の副団長という立場ではあるがそもそも伝令神は武闘派クランではない。武闘派と呼べるのはシグマかタロンくらいなものでベータはどちらかと言うと情報屋といった立ち位置なのだ。
情報を集めるクランなためそれなりの武力は持ち合わせているが最前線にたっている3人ほどではないのは明白、創世生物の攻撃を完璧に捌けるほどの戦闘経験は持ち合わせていない。
「っ、」
案の定ベータは攻撃を捌ききれず頬や腕に掠り傷を負い始めていた。
傷跡がは残らないがダメージは蓄積していく、アイリスを目の前にしてポーション回復なんて悠長なことはしてられない、後衛のヒーラーとバッファーを頼るしかないのが今のベータの現状。
「そういやお前あの武器は?」
素朴な疑問。ペンタゴンはさっきまで使っていた武器ではなく別の弓を使っていた。
「アルテミスは器が壊れて使えないんだよ」
「なにそれ」
「俺のメインウェポンの神器月弓 アルテミスはメリットデメリットがはっきりしてるタイプの武器なんだよね〜」
メリット
──── 火力が弓の中でトップ
──── 耐久値が存在しない
──── バフが他の武器より25%上乗せ
──── いくつかの高威力専用スキルがある
────詠唱の統一化
────統一化による威力の増加
デメリット
────スキルのCTが長い
────《器》という専用の効果があり器が壊れると36時間使用不可
《器》が壊れる条件
────統一化された詠唱を一定回数以上使用する。
統一化詠唱
永劫の宙を統べし光の導き、静寂に満ちる夜の帳よ、裁きに応えここに顕現せよ。千の都を包みし月の神よ神威を我に
「俺は月神の裁き以外で使ってないけど、本体性能と破壊力を加味すれば36時間使用不可でもお釣りが来るよ、何気に耐久ないし」
『耐久値の代わりが器ってことか、普通に使えばただの最強の弓、詠唱すれば破壊力最強の遠距離攻撃、』
「それ最強だな」
「でもアマリリスの次に何かあるとは、万全の体勢でいどめないのは俺の失態だよ、」
自分の不甲斐なさを嘆いているのか、弓を握る手に力が入る。
サッ
「そんなことは.........っ!ペンタゴン、警戒態勢。」
「了解」
剣同士がぶつかり合う音や魔法による爆裂音、普通だったら聞き逃すレベルの微かに聞こえた音。
前衛は分かっている、そういった憶測を宛にしていたら前線が崩壊する恐れがある。ペンタゴンとゆぃつはいつでも引けるよう構えた。
『今の音は聞いた事がない、つまり今のはアイリスが摺り足をした音。奴も絶好の機会を伺っているはず、まずはそこを潰す。』
..........................
動けるように、否。動かせるようになったのは何も一つだけではない。
「クッソ、」
肉薄していたがアイリスに弾かれ吹き飛ばされてしまったベータが受身をし損ねている。アイリスがベータの方に向かって高く跳んだのが見てわかる、だが、
「撃ち落とせ!」
青色の花弁が宙に舞っていた。その数はアマリリス戦の比にならないほどに。
『約束したもんな、』
後衛と前衛を分断するかのような青い花弁の障壁は完成間際、普通ならこの花弁の壁を破壊しなければ援護などできるはずがない、普通なら、
「無理するか、」
ゆぃつの言葉を理解しペンタゴンは花弁をひとりで引き受けた。ゆぃつの様な速射性は人力ではほぼ不可能、だがこれはスキルで溢れているファンタジー世界、やれない事はない。
気持ちを落ち着かせるためフッと一息ついたゆぃつ。足を開き上体を整える、弓を左右に引き会を保つ。
瞳孔が散大している。極度の集中状態に瞬時に入り込み矢を通せるポイントを絞り込む。
完成間際の壁、少しだけ空いている隙間、ゆぃつが矢の放った矢はその隙間に吸い込まれるように間を抜けていった。
「ベータ!」
シグマがベータのカバーに向かうが反応が少し遅れてしまった。アイリスの脚力は人間のそれを遥かに超えるもので追いつけるはずも無かった。
『ゆぃつのカバーは......クソッ、花弁も動き始めてしまったか、あの花の壁がある限り援護は見込め........』
「は?!」
壁の隙間から飛んできた矢は少し曲がりながらにベータに向かって飛んで行った。
「ハッ、バケモンだろ」
ボソッと声を漏らしたガンマ、それは雑言ではなく敬意の表れ、異次元の射撃精度と速射性、判断の速さに視野の広さ、そして圧倒的な思考速度と処理能力。マルチタスクを常にしているゆぃつが他を思考を捨て一つのことに集中した時、それは恐らく玉座にも単独で届きうる怪物へと進化する。
ベータの目先に青色の光り輝く剣の鋒が迫る、ベータは自身の退場を受け入れまいと崩れ倒れた姿勢のまま刀を手に一矢報いようと刀を突き立てた。
ズバン!
ベータの目に映る物は現実だろうか、アイリスの頭にどこから飛んできた矢がぶつかりcriticalの文字が飛び出していた。
それだけではない。矢を頭に受けたアイリスは狙いが逸れたのだろう、ベータの左肩に長剣が突き刺さっていた。両者この状況を理解できずにいるようだった。
一矢報いるベータの刀はアイリス同様左肩を穿いていた。
数瞬、2人の目が合った。アイリスの心に触れた気がした、それは気のせいかもしれない、それでも、この光景がベータの覚悟をより一層強めたのは確かだった。




