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魔人兄妹の隠遁生活  作者: 月見夜メル
3章:暗躍の王都
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魔人兄妹は整理する

 それから。


 憔悴しきっているシスターグラディスとシスターネリネを休ませるべく、クロとイロハ、オリヴィア、そしてゼシカとカイセルは騎士たちに教会を任せて外に出た。クロがシスターマリーベルを追っていた際の状況を共有したいという思惑もあり、クロの起想幻像(リバース・ビジョン)を適宜使いながらミラの教会に向けて歩いて行く。


「……道すがら、一度事件全体を整理しておきたい。流石に色々と事が起こり過ぎている」


 皆内心で同様の事を考えていたこともあり、ゼシカの提案に異を唱える者はいなかった。


「そうだね……事件その物はかなり前から水面下でじわじわ進行していたんだろうけど……今のこの状況のトリガーになったのは……やっぱり、ユウジの帰還かな」


 昨日の午前中。突如として、中央広場に行方不明者たちを連れて舞い降りた、勇者ユウジ・ブレイブス・モノクローム。ユウジ本人もまた約半月の間行方知れずとなっており、“港湾都市セルリオへのバカンス”というカバーストーリーを隠れ蓑にしてオリヴィアたちが密かに捜索を続けていたが、ほとんど手掛かりを掴めずにいた中での出来事だった。(尚、首謀者と目され手配書が出回っていた胡散臭い人相の男=メフィストフェレスの疑いはユウジの証言により既に晴れている)


「えっと……クロくんたちがメダリア入りしたのもこのくらいのタイミング?」


「そうだな。広場の騒ぎを知ったのはギルドに着いてからの話だから正確には少し遅かったかもしれないが」


 オリヴィアと話を合わせて、クロはナチュラルに嘘をついた。実際は勇者と共にメダリア入りしていたという事実は勇者パーティー(と、アリーシェ)だけとの秘密である。


「オーケーオーケー。で、多分悪魔たちがユウジ帰還の情報を得たのも同じくらいよね……そして、午後に早速アクションを起こした」


「最初の通り魔事件ね……」


 イロハが呟く。あの出来事は、反省の記憶として未だ彼女の脳裏に鮮明に焼き付いている。しかし、ガンプを討った今となっては、あの場でガンプを倒すことは出来なかっただろうと冷静になり始めてもいた。


「ガンプが無差別に撒き散らした高周波で多数の通行人に被害が出ちゃったけど、イロハちゃんのおかげで死者は出なかった。ただ……多分ガンプの役割は完遂されちゃってるんだよね……」


「ああ、おそらく奴の狙いは我々第2騎士団を事後捜査と警備強化の為に東側へ集中させることだっただろうからな……わざわざ騎士に扮して犯行に及んだのも、我々を挑発して本気にさせるためだったという訳だな」


「そして、レラジェーンが街の西側の警備が薄くなったタイミングでシスターマリーベルを襲撃し、竜熱の呪いに紛れ込ませて例の塊根を仕込んだ。ガンプは夜に再び通り魔を働こうとして騎士団に阻止されたようだが……これもどちらかと言えば、殺人よりも自分が潜伏していることを印象付けて騎士団の目を東側に向けさせたままにするという意味合いが強そうだな」


『……仮に陽動だとすれば、これ以上ない程効果的だ』


 かつてアリーシェが言った懸念がクロの脳裏に浮かび上がる。ここまでの行動を整理した限り、ガンプは徹底的に“陽動”として動いているように思われた。それも、“放置すれば天井知らずに被害が拡大するが、その実力故対処するにはかなりの人数を割かなければならない”という極めて厄介な性質の。


 頭上では丁度、クロに襲い掛かるコウモリの群れの逆再生映像が流れていた。クロがシスターマリーベルを追うのを妨害するためにけしかけられたコウモリなのは明白であり、またオリヴィアが言うには、転移魔法を妨害する魔法もこの時仕掛けられていたとのことで、ガンプの行動理由を強力に補完していた。


「深読みすればキリがないけど……お昼の襲撃は私たちに実力を知らしめて本気で自分の攻略法を考えさせるっていう意図があった可能性もあるわよね……その分だけシスターマリーベルの方に回す頭が少なくなる訳だし」


「攻略法を考えさせて……その結果として自分が倒されることまで織り込み済みだったってこと……?」


 イロハの問いかけに多分ね……と答えるオリヴィアの脳裏には、散り際のガンプの妙に晴れやかな表情が浮かんでいた。戦いに満足していたからかと思っていたが、全ての仕事をやりきったという意味も含まれていたのではと思った。


「むむぅ……その覚悟、敵ながらあっぱれと言うほかありませんな……」


「だがそうなると……序列27位の実力者と引き換えにする程の価値が、子どもたちの誘拐にあるということになる訳だが……」


「人質……じゃ、ないよね……?向こうからは何の要求もないし……」


「あまり、考えたくはないが……」


 再生を終えた映像を消しながら、クロが重々しく告げる。


「……何らかの儀式魔法やマジックアイテムの生け贄や材料として利用しようとしている、という可能性があるな」


「……シスターグラディスたちには聞かせられないね、それ」


 最も忌避すべき、しかし悪魔たちに子どもたちを返すつもりが全く感じられない現状では最も有力な可能性がそれだった。もしそれが真実なのであれば、ガンプが自分自身という直接的戦力と引き換えにしてまで陽動――実質的な捨て駒の役を買って出た理由も説明がつく。


 一時的とはいえ世界のルールを書き換えて見せた第2騎士団の【パンテミウス司祭の鳥籠】でさえ、必要とした魔力はせいぜい騎士10数名分である。子ども99人の命を丸ごと捧げた儀式魔法の威力がどうなるのかなど、クロたちには想像することも出来なかった。


「教会の被害状況から考えて、奴らは意図的に99人で誘拐をストップさせている……実際、教会を出てからのシスターマリーベルは、人を眠らせはしても根を展開する様子はなかったからな」


「……じゃあ、一体何のために無差別に人を眠らせていたの?」


 イロハの疑問に、クロは指を立てながら仮説を並べる。


「考えられる可能性としては……単に暴走していたから、シスターミラの教会が本命であると悟らせないためのカモフラージュ、シスターミラの教会の場所が分からず、それっぽい地点で適当に波動を放っていただけ……などか。カモフラージュ説が有力ではあるが、あの時のシスターマリーベルの挙動はひたすらに虚ろで、どうにも判断がつかない」


「あの根っこが何なのかも結局分かってない訳だしね……取り憑いた人を操れるにしても、どれだけ精密に操れるのかとか、命令をどうやって伝えてるのか、とかさ……」


 映像はちょうど、ミラの教会の付近でシスターマリーベルが睡眠波動を放ったところだった。


「……ん?」


 そこでクロは首を傾げた。シスターマリーベルは睡眠波動を放つと同時に高度を落とし、霊園横の林に降りて行く。タイミングとしては、クロがコウモリの群れに攻撃され始めた辺りだった。


「シスターマリーベルが移動を止めたのはこのタイミングだったのか……思ったよりかなり早かったな」


「この林ってシスターマリーベルが救助された場所よね……?じゃあ、彼女はクロくんがコウモリの群れをやっつけて、シスターメリルと一緒にアンデッド退治をし終えるまで、ずっとここから動かなかったってこと……?」


 それはおかしい、と、その場の全員が考えた。


 塊根を回収する際に明確な殺意を持って攻撃を加えていたことから、マリーベルが生きていては不都合だと魔将たちが考えたことは間違いない。そんな彼らが、悪漢たちをけしかけて行動の妨害を図るという手間を加えたとはいえ、それでもマリーベルを救命出来てしまう可能性が高いミラがいるすぐ近くで塊根を回収しようとするとは思えなかった。


「となると……ここから動かなかったのは、シスターマリーベルの意思ということか?」


「ああ……おそらく、彼女が塊根の支配に対して必死に抵抗を試みた証だ……シスターミラに気付いて貰えるという保証は全く無かったはずだが……それでも、シスターマリーベルは見事賭けに勝った」


 一介のシスターでしかないはずだったマリーベルが塊根に抵抗出来たというのは、魔将たちにとってはかなりの誤算だったはずだ、と、クロは思った。


「ふむ……魔物どもがわざわざ口を封じようとしたくらいですからな……余程重要な情報を、シスターマリーベルは握っていると思って差し支えないでしょうな……」


「回復次第、話を聞かせて貰いたいところだな……」


 とはいえ、と、ゼシカはミラの教会の方に視線を向ける。ミラからの通報を受けて駆けつけたらしい第2騎士団の騎士たちが、気絶して縛り上げられている悪漢たちを担架で次々に運び出しているところだった。


「今日はもう遅いし、みな色々あって疲労もピークだろう。戻ってしっかり休むべきだ」


「まあ休む前に我々は王宮その他に報告しなければなりませんがな……」


 カイセルの瞳から、心無しか生気が失われたように見えた。ゼシカも思わず苦笑を返す。


「そういう事情もある。ひとまず解散としよう」


「ゼシカさんもちゃんと休んでよね?」


「善処しよう。クロ殿とイロハ殿も、今日は非常に世話になった。特にイロハ殿は、報酬を楽しみにしておくように」


 それでは失礼する、と、ゼシカとカイセルはマントを翻えして去って行った。イロハがその背中に「お休みなさい」と声をかける。


「……ガルゼムもそうだけど……あの手の『善処する』はあんまり信用できないんだよね。昨晩から警戒しっぱなしなんだからせめて今夜くらいはちゃんと休んで欲しいんだけど……」


「流石にその辺りはわきまえていると思うが……少なくとも一段落はついた訳だしな」


「そうそう、まだまだ問題は山積みだけど、だからこそ今は一時の休息が必要だよ」


 という訳で、と、オリヴィアも転移魔法をスタンバイする。


「私も戻って休むね。明日の朝、またこっちに来るから」


「ああ、お疲れ様だ」


「お疲れ様オリヴィアさん。今日は色々ありがとう」


 兄妹へにこやかに手を振り、オリヴィアは虚空を渡った。

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