四日
四日目の編成はベース待機組と調査班一班に変えられた。
調査対象はクローディアの居室、及びその周辺。クローディア・バルファスが実際どの様な業績をあげたのかを調べる。
バルファス城塞はクローディアの為した何事かで滅びた。だが、何をしたのかが不明だ。
城塞が沈黙した直後、ロザリア王国から調査団が何度か派遣されているが、全員未帰還と記録されている。その後調査は中断され百年が過ぎた。
何かあったらしい、クローディアに関係するらしい、と憶測はされるだけで正確な話が無い。
元々今回の調査団派遣はその辺りを明確にする事も目的の一つである。
調査団派遣の目的は大きく三つ。
バルファス城塞が廃城となった原因を明確にする事。
クローディア・バルファスが開発し、発表せずに秘匿した魔法研究の成果を発見する事。
バルファス城塞を今一度、国境警護に再利用出来るか確認する事。
「クローディアが開発した魔法がこの城塞を滅ぼした可能性はある。故にかの者について調べる事は避けて通れん」
「ミゲル老、でしたらなぜすぐに取り掛からなかったのですか?」
アレクセイの問いにミゲル師は苦笑した。老人はこの若者の狙いに薄々気付いている。
「それはの、城塞が使えるか否かを判定するのが一番簡単じゃからよ。昨日までの調査でさほどの手間を掛けずとも再利用は可能とみておる」
ミゲル師は、自身の地勢調査とゲイル師の建築物の破損箇所に対する見立てで、城塞は再利用出来ると結論していた。
「早めに済ませられるものは済ませておくに限るからのぅ」
若者が野心を持つのは良い事だが、それで調査団全てが引きずられる訳にはいかない。ましてやアレクセイは護衛であって調査員では無い。
「諸君はこれまで以上に気を引き締めて事にあたる様に」
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「ここが子爵令嬢の部屋…ねぇ」
ブラスは部屋を見るなり、眉をしかめた。
雑然としている。
嫁入り前の貴族令嬢の部屋であるなら、それなりの調度品に囲まれてしかるべきではないだろうか?
この部屋はまるで物置小屋だ。
或いは魔導学校の研究室である。
ところ狭しと何やら理解不能な器具の類いが置かれ、書架には魔導書であろうか、ぎっしりと詰まっている。クローゼットの中にまで本が山積みだ。
部屋の奥にベッドらしい残骸が無ければここが寝室だなどと思うまい。
「起きてすぐ研究、研究が済んだらすぐ寝床…って感じですわね」
シャンナが部屋のあちこちを眺めながら感想を漏らした。
非常に不健康に感じた。白変児であったというクローディア、ならばもう少し健康に注意した内装を考えるべきだったのではなかろうか。
「…クローディアは健康だったけれど疲れやすかった、と伝わってます。寝室と別に研究室を設けて行き来するのが煩わしかったのでしょうね」
マリアがシャンナの内々に沸いた疑問に答える様に言った。
「ま、なんつぅか色気のある部屋じゃ無いこたぁ確かだ」
「あ、皆さん、辺りにあるものを変に弄らないで下さい。危険かもしれませんから」
ピート師とマーク師が率先して部屋の器具を調べる。マリアとシャンナを除き護衛は邪魔にならない様、部屋の外に出た。
「ようアレックス、どう思う?」
「どう…とは?」
ブラスの言葉にアレクセイはとぼけた様な声を出した。
「……この部屋さ、こんな部屋で新しい魔法なんて開発出来るもんかね?」
「さて…出来ない事は無いでしょうが、そういったものは臨床実験が必要でしょうね」
「まぁ、魔法の全てが全て、大爆発する様なものじゃ無いくらい解るがよ…実験するにゃ手狭だよな」
つまり、ブラスはこの部屋の他に大掛かりな施設、実験室があるだろうと見ていて、それはアレクセイも考えていた事である。
この部屋は発明・実験の場では無く、謂わば思索の場だろうと二人はあたりを付けていた。
ちょっとしたアイディアや没ネタならここにあるだろう。
しかし実用化したものはここには無い。という訳だ。
調査員達の部屋を物色する物音が廊下まで聴こえる。
「…そっちを探した方がいいんだが、先生方にしちゃあこの部屋も宝の山なんだろうしな」
しばらくかかるぜ?とブラスはアレクセイを見て笑った。
(全くだ。マリアもその程度気付いてくれればいいんだが…いや、気付いていても魔法に関わる事だ。調査員と一緒に『宝の山』を喜んでいるのか)
そういった面、やはり妾腹の子だ。しっかりしている様でいて、政治意識という側面にどうも疎い。
そう思うと自然アレクセイの顔は険しくなった。
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「……そういう訳でクローディアの私室付近を調査しましたが、発見出来たのは草稿でした。完成品とは謂えません」
「他の部屋も順繰りに見て回ったんですが、クローディアが使用していたと思われる部屋はありませんで…」
ピート師とマーク師の言葉に、ミゲル師は眉をしかめた。
「しかしの?私室で魔法の実験など行えまい?何処かに専用の場所があるはずじゃが、見当たらんか?」
「ちょっといいかい爺さん」
ブラスが横から口を挟んだ。
「気付いた事なんだがよ、廊下の天井に金属の管……鉄板みたいなものを丸めて筒にした様なものが張り巡らせてあったぜ?」
「なんじゃそれは?」
「流し樋みたいなもんで、寒い地方だと熱気を流して家を暖める様なヤツだ。確かにこの城塞は寒いがよ、ここだけだろ?麓の村は寒くねぇ。なら熱気を流す為のもんじゃ無さそうだ」
「ふむ……どこから続いておる?」
ブラスはへらへらと笑った。
「爺さん、俺達は護衛だぜ?先生方をほっぽり出して調べる訳にゃいかねぇよ」
言われてみればその通りだが、ミゲル師はシワの寄った顔を更にしかめた。
その筒の繋がる先にクローディアの秘密があるかもしれないのだ。
「お主ら…その程度すぐに調査員へ報せんか!二度手間ではないか」
「いやぁ、忙しそうだったんでね?なんなら明日調べるぜ?先生方は休んでもらってよ。アレックス、他に誰を連れて行く?」
最初からブラスは段取りを組んでいたらしい。調査員抜きで手柄を取りにきている。
「そうだね…シスターミーナ、フロスト、マリアの5名。これくらいの数ならベースの防衛も疎かにならないだろう。ランドとハンナ、シスターシャンナがベースに居れば万全だ」
アレクセイはそれぞれのリーダーをベース防衛という名目で外した。
「抜け駆けしようってか?こすい野郎だ」
「ランド、君のところのフロストを借りる。それでいいだろ?」
「うちも行くよ!うちら初日からベースばっかやからな」
ハンナが立候補してきた。
各リーダー達は帰還後にボーナスがある、無くてももぎ取るつもりだ。少しでも分け前に与る気でいる。
もちろんアレクセイはハンナが立候補する事を読んでいた。立候補する様に仕向けたのだ。
「ハンナ、危険があるかもしれない。いいね?」
「へっ、出て来ても薄ノロの動死体やん。大した事あらへん」
(まぁ、これで面倒は押し付けられるだろう)
ミーナ、ハンナ、フロストと、クローディア関連の調査に同行していない。情報の共有が為されていない面子だ。
気を付けるべき競合相手はブラスだけ、それに自分にはマリアがいる。アレクセイは自分の有利を確信した。
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