終章
「……さて、儂はそろそろお暇するとしようかの」
「お構い出来ませんで…調査団、いえ元調査団の皆様にもよろしくお伝え下さい」
城塞の様子を見にきたミゲル師は、半日ほど語らった後マリアに別れを告げた。
城門まで見送られる。霜に覆われた城塞、マリアが使役する動死体の騎士が巡回する姿が黒い霧の間から見え隠れする。
「相変わらず冷えるの」
「しばらくは動死体でやりくりしませんといけませんから…仕方がありませんわ」
マリアは困った様に微笑んだ。
(雰囲気が少し変わったかの……城塞を任されて責任感が生まれたからかもしれん)
「ではの。息災にな」
「ミゲル様も」
村までの坂道を老人の姿が見えなくなるまで見送ったマリア…クローディアは城塞に引き返すと、地下の奥深くへ足を運んだ。
「これも片付けないと…面倒だわ」
実験室の奥、隠し部屋にはアレクセイ達の死体は既に無く、壊れた肉体再生機だけが置かれたままだ。
幻影で造ったマリアの顔を消して元の顔に戻すと、クローディアは更に隠された扉を開ける。それは自分が以前現れた扉だ。
扉からは更に階段が続いていた。
カツ、カツ、と彼女の靴音だけが響く。
やがて表れたのは一階の広間に匹敵する空間。
そこにはところ狭しと硝子壺が並べられていた。
クローディアは一つ一つを見て回る。
自分が入っていた以外の硝子壺全てに、クローディア・バルファスの肉体が入っていた。
「生成に不備は無い様ね…ま、しばらくは使う必要は無いでしょうけど」
自分のこの肉体が何らかの形で倒れた時、この硝子壺から新たにクローディア・バルファスは目覚める。
これが肉体再生に百年を費やした理由だった。
「後は…そう、アレクセイとやらが提案した事を検討しましょう」
それは名ばかりの適当な配偶者を得る事。
その者を人知れず動死体に変えておく。
跡継ぎとなる子が産まれた事にして、適当な時期に硝子壺の肉体の一つと今の肉体を取り換える。
「それまではマリアの顔で過ごさないといけないのね…仕方無いけれど……さて、どんな研究をしようかしら?どんな遊びを考えようかしら?」
肉体の予備がこれだけあれば、もはや不死と同義だ。
誰も近寄らぬ凍える城塞に独り、クローディアは艶然と嗤った。
──────終。




