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凍える城塞  作者: CGF
11/16

変事



「……何だありゃ?」



薪を取りに表に出たランドは、奇妙な一団が近付いて来るのを見た。


その連中は古い意匠の甲冑に身を包み、ゆらゆらと揺れながら近付いて来る。手には錆の浮いた剣と紋章が浮き彫りにされた盾を持ち、騎士の様な出で立ちだ。


兜から覗く瞳は落ちくぼみ、茶色くなった皮膚はなめした革の様な見た目をしている。



「動死体ってヤツか!?」



素早く防水布をはねのけ、ベースの面々に怒鳴り声をあげる。



「敵襲だ!バリケードを作れ!」



護衛達が一斉に動いた。そこらにある古い棚を外扉の前に押し出し、寒さ避けに外扉に張っていた防水布を引き剥がして視界を確保する。


間近に迫ってきた集団を見た護衛達や調査員達がざわめいた。



騎士姿の動死体は剣を振り上げ走り出した。バリケード越しにミナとアイラが矢を射つ。胸や肩口に突き刺さるが動死体は止まらない。



「頭だ!頭を狙え!」



兜を被った動死体だ。矢でなかなか狙えるものでは無い。動死体相手では牽制にもならない。



「ィヤアアァァ!」



甲高い雄叫びをあげて、シスターシャンナの関節鎚フレイルが動死体の兜を陥没させる。



「オラァ!」



ランドの剣が首をはねた。頭部を損傷した動死体がくず折れる。


しかし、数が数だ。


いったい何処からいてくるのか、動死体の数が増えていく。



「ぐぇ!?」


「ぎゃあああ!」



多勢に無勢という情況のせいで、防御の隙を突かれて護衛の何人かが打ち倒される。



「いかん!儂らも武器になりそうなものを!」



ミゲル師の声に調査員の面々も松明や石を拾い、加勢しようとするが戦いの訓練などした事の無い者達だ。腰が引けてバリケードまで近寄れない。



「ぐっ………」



僧服を着ていた者が倒れた。シスターエレインが床に伏している。



「くそっ、冗談じゃねぇぞ!」



バリケードを乗り越えようとする動死体の首をはねながら、ランドが悪態をつく。


バリケードを抜けた動死体がミナに馬乗りになると胸に剣を突き立てた。すぐさまピート師が松明で動死体を殴り付け首の骨を折る。



「ちくしょうめ!」



身体中に剣を受けながら、それでもランドは吠えた。



その時。



     ゴオッ!!



巨大な火球が唸りをあげて動死体の集団に突き刺さった。




────────



「あれは!?」



地下牢の裏手から表に出たアレクセイ達は、外扉に群がる集団を目にした。



剣撃の音が響く。


騎士姿の集団は外扉を挟んでベースの護衛達と戦っていた。



「マリア!」



アレクセイの声にマリアは指を正面にかざし、呪文を唱える。




其は

   龍王の息吹

  炎の主

 我が敵

       灰塵となりて

 風に吹き散らさん




呪文の詠唱が完了すると同時に、マリアの指し示す方向へ巨大な火球が勢いよく飛翔する。




     ゴオッ!!




火球は唸りをあげて騎士姿の集団のど真ん中に直撃すると大爆発を起こした。



「すげぇ……一撃かよ?」


「よし!皆行くぞ、残りはわずかだ」



アレクセイの号令で探索班の一行は武器を構えて突進した。


……マリア以外は。




マリアは当惑していた。



(……そんな…おかしいわ!あんな威力の火球なんて…今まで出した事無いのに…!)



今までマリアがこの魔法を唱えても、火球は最大で先程の半分にも満たない規模でしかなかった。


明らかに異常だ。



マリアは辺りを見渡した。



見えるのは城塞全体を覆う霜と、漂う黒い霧…。



(考えられるとしたら……霧?)



この霧は地下から汲み上げた魔力によって黒く変色している。



(私の呪文を受けて…霧の魔力が上乗せされた…?)



マリアは背筋が寒くなった。


一つ間違えばあの火球はベース内にまで影響しただろうからだ。



(これが…黒い霧の用途!?呪文に魔力を上乗せして効果を増大する…)



マリアはアレクセイ達を見た。掃討はほぼ終わっていた。



(……待って、それならクローディアは黒い霧の魔力をどう使うつもりだったの?)


「マリア!終わったぞ!ベースに戻ってこい!」



アレクセイの声を聴きながら、考えた。



(…あの地下の実験室……まだ何かある)



マリアはベースへと歩いた。




────────


ひどい有り様だった。


そこら中に倒れた動死体。


崩れたバリケードの内側にも幾つかの死体が転がっている。動死体のものばかりではない。



ランドの組の三人、シスターエレイン、ハンナの組のミナ、二人の調査員が倒れたまま動かなくなっていた。


ランドはあちこちに傷を受け、シスターシャンナに回復魔法をかけてもらっていた。他に怪我をした者は順繰りにシスターミーナが回復をしている。



「くそが!何処から涌いて来やがった!?」



ランドは回復魔法をかけられている間中ずっと悪態を突き続けた。


城塞到着後、五日で八名。


マリアの火球が無ければベースは全滅していたかもしれない。



「……兵舎」


「あん?ブラス、なんだって!?」


「最初の動死体は兵舎から出て来た。コイツらの格好を見てみろよランド、昔この城塞に詰めていた騎士団じゃねぇのか?」



あの時、調査員を助ける為に兵舎の中を調べる暇は無かった。そこから現れたのだとしたら…


…今まで冒険者の類いが生還しなかったのは、この数で取り囲まれたせいだと見るべきだろう。



「……そうか!」



傷の手当てをされていたトマス師が、机に近寄り資料を漁る。



「ミゲル師、城塞の収支ですがある時期から人件費が削減されています。にもかかわらず騎士団の新規加入の数は増えている…騎士達を動死体に変えていたのだとしたら辻褄が合います」


「死なぬ軍団…と?しかしトマスよ、動死体は時を過ぎると傷みがはげしいと聞いておる。百年も前じゃぞ!?」



動死体を使役する魔法は、謂わば費用対効果が悪いものである。


術者が絶えず側にいて命令をしなければならないし、それでも出来る事が少ない。ましてや時間とともに腐敗し動きが鈍くなっていく。


死者の軍団など夢物語のはずであった。



しかし、現実にベースは襲撃された。



「この冷気!この寒さですよミゲル師!周囲の気温とは全然違う。城門の内側に霜が張るほどの冷気が、動死体を腐敗から護っていると考えれば」


「おい先生方!じゃあなにか?あんなのがまだゴロゴロしてるってのか!?」



ランドが顔色を変えた。


元々ここは国境警護の城塞、駐留していた人員は騎士団の世話をする者達を外しても千人単位の規模になる。



「動死体が生きている者に比べて利点があるなら、場所を取らない事だわ…」


「どういう意味だ嬢ちゃん!?」



マリアの呟きにランドが反応した。



「…生きている人は眠る時ベッドが必要でしょ?起きていれば動き回るし……動死体なら立ったまま、部屋にみっしり詰め込んでも動かずに命令を待ち続けられる…」


「…千人どころじゃきかないって訳?」



ハンナが呆然とした表情で言った。




────────

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