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08.黒船事変(選択)


「さて──話の続きといこうじゃねぇか?」


甲板に連れ出されたフェニィとヒナは、そこで衝撃の人物と対面する。


「っ!ひよこ──!!」


「…っ!ニィちゃん──」


手下の男が縄で括られたひよこを人質に取り、フェニィは黒装束の男に銃口を突きつけられている。


ヒナはそれ故に、一歩も手出しが出来ない状態でいた──。


「何やら小(・)鳥(・)がこの船に紛れ込んでいたんでな──先客だったが、お前たちが誰かを探しながら船内を走っていたからすぐに目星はついたさ。馬鹿どもが……ガキの浅知恵なんぞ、俺様達には手に取る様にわかるんだよ──」


(しくじった──!広い空間に出れば、奴の隙をついてフェニィを助ける事が出来たのに…まさかひよこを人質に出して来るなんて!!)


未だに警戒しながら隙を伺うヒナを面白そうに笑みを浮かべて見定める黒装束の男。


「さぁ、取り引きといこうか──小僧。その手に持っている秘薬をこちらへ渡せ──そうすればお前の妹は返してやろう」


フェニィは、苦い顔をしながら手元の桃を見る。


ただの桃だ、傍から見れば多少値打ちがある程度──その程度の桃だ。だが──


『いいかフェニィ……こいつは我が家に代々伝わる宝だ──絶対に、誰にも渡すんじゃないぞ──』


祖父の言葉を思い出し、立ち止まる。


「どうした?そんなもの一つでお前たち全員の命が助かるんだ──安(・)い(・)も(・)の(・)だろう──」


安いものだ。


人の命と比べれば、例えどんな大した宝でも比べるまでもない──。


目の前にいる人質は、例え血の繋がりが無くともフェニィにとって唯一無二の宝(・)である妹のひよこだ。


それこそ、例えこれが国一つ買える程に値打ちのあるものでも…フェニィにとっては安いものだった──。


(家族の命に比べれば──こんなもの!!)


フェニィは、放り出す。


「ほらよ──これでいいんだろ!!」


祖父との約束も、代々伝わる家宝も、どうでもいい──。


目の前にいる二人を守る事が、兄である自分の責務であり、革命家として何より守るべき命だ──。


「欲しけりゃくれてやるよ!!取ってこい!!!!!」


船の外──空に向かって秘薬を放り投げるフェニィ。


「っ!!貴様──」


「てめぇ!!あ、おいこら──!!ぐはっ!!」


その一瞬をついた連携でヒナは下っ端の男を蹴り倒す。


電光石火のような早業で動いた連携に、秘薬に気を取られた黒装束の男は反応が数瞬遅れた。


「ヤロォ──!!」

秘薬を落下寸前で手にした黒装束の男は、銃口をフェニィに向け──凶弾が発射される。


「っ!!フェニィ!!」


「ニィちゃん──!!」


ガンッ──と、甲高い音と共に弾かれる銃声──


「あ、……あぶねぇ〜〜」


間一髪、構えた旗のポール部分で自身への銃弾を防いだフェニィは心臓バクバク言わせながら黒装束の男と対峙する──。


「チッ──…悪運の強いガキめ──」


すんでのところで拮抗した状態ではあったが──事はそう上手くは運ばなかった。


ドオオオオオオンッ──!!


「うわあっ──」


騒動の影響で、飛行船の燃料タンクが一部爆発──その余波で船内が激しく揺れる。


その好機を見逃さなかったヒナが、一瞬の隙をついて黒装束の男へと近づき秘薬を奪取しようとして──


「っ!しまった──」


「見えてたぜ?お前の動き……残念だったな。唯一の不運は、お前の見えている世(・)界(・)より俺の見えている世界の方が遥かにレベルが上だったって話だ──」


回避できないギリギリのタイミングで、ヒナの脳天目掛けて銃口を差し向ける黒装束の男。


優秀である故に、ヒナは一手で悟った


(っ!!これが──死……)


バキュウウウウンッ──!!


焼けるような硝煙の匂いに混じって、鉄分を含んだ血の匂いと共に、大量の血しぶきが自身を真っ赤に染め上げる。


ボタボタッ──と、吹きこぼれる血が自分のもので無いと気づいたのは、一瞬遅れての事だった。


「ぐっ──、、ガハッ!!ゴホッ!」


「ふぇ…………にぃ???」


「っ──!……この小僧、いつの間に──」


黒装束の男が銃を構えている事を、知っていた訳では無い。


二人の世界に立ち入る事が出来なかったフェニィは、自分が最も想像したくない、最悪の出来事を予測し、二人より先に走っていた──それ故に、二人より一歩だけ早く、ヒナを守れるギリギリのタイミングで間に合ったのだ。


本来──兄妹が撃たれるなんて想像もしたくないだろう、、しかしフェニィは直感でその未来を感じ取った。


無(・)能(・)と呼ばれたフェニィが唯一ヒナより勝っている点──それは、恐怖による一瞬の躊躇いが無かった事と、いくらヒナが優秀であっても万能では無いと知っていた事だった──。


例え自分より強くとも、心の底から妹を守りたいと思う気持ちは強く尊い──それを体現したのだ。


しかし──その代償はあまりに大きい。


「フェニィ!!!!!」


「ニィちゃん!!!」


ヒナを助けたフェニィだったが、その身に受けた傷は想像以上に致命的なものだった──。


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