09.黒船事変(覚悟)
ボタボタ──ボタッ
「はぁ…はぁ……はぁ──」
フェニィの傷は深く、出血量からどう考えても助からない。
ヒナは、激しく後悔していた──。
「私の責任だ…私が、もっと早く動いていれば…もっとちゃんと奴の動きを見ていれば──フェニィを守れる強さがあれば──!!」
ブワッ──と、ヒナの周りから炎が巻き起こる。
「こいつは──〝先祖返りの能力〟か!!」
ヒナから解放される炎の渦は、三人以外に向かって広がるように燃え盛る。
「うわあああああっ!!熱い!熱い!!」
「水だ!水を持ってこい──船が燃えちまう!!」
乗組員が慌てて船内を駆け回る。が──、ヒナはそれに逆らうようにどんどん炎の勢いを強くした。
〝炎鳥の先祖返り〟──それが、ヒナの先祖返りの能力である。
「はぁ…はぁ、ヒナ──やめろ。お前はまだその力を使いこなせていない──」
フェニィの声が届いていないのか、ヒナは無表情ながら激しく憤りを表していた。
「……安心して、フェニィ。あなたとひよこは絶対に死なせない──二人は私が守る。こいつらを全員焼き払ってでも──!!!!」
ブワッ──と、燃え盛る炎を纏いながら戦闘の構えを取る。ヒナの本来の力を前に、黒装束の男は不敵に笑みを浮かべた。
「なるほどな──確かに、こいつぁ計算外だ。まさか〝あの男〟と同じ種の先祖返りを持つ奴がまだこの島にいたとはな──だが」
黒装束の男は、銃口を構える。
「俺の前じゃあ──ほとんど無意味だぜ??」
ヒナの怒りが限界に達したのか、黒装束の男の元へ突っ込む。
「調子に──乗るな!!」
勢い任せのヒナの蹴りは、明らかにさっきまでとは速度が違う。
(速い──!!なるほどな、炎で自身の身体能力をブーストしたのか……炎系統の〝先祖返り〟は扱いが難しいが、ちったぁやるじゃねぇか──!!)
ヒナの蹴りが男の首元を掠めて──ふわり、と男の姿が霧散する。
「なっ──」
気づけば男はヒナの真後ろにいる。
「どうした──俺を倒すんじゃ無かったのか…??」
「…………ぶっ倒す」
どうやら男はヒナとの戦いを楽しんでいるのか、フェニィとひよこに対しての興味を完全に失っていた。
と──、そこへ。
「ニィちゃん──大丈夫?」
血まみれで、今にも死にそうな兄を前に何故か冷静なひよこ──しかしそれに気づく余裕も無いフェニィは、ただ妹を心配させまいといつも通り気丈に振舞った。
「心配すんな──言っただろ?俺は〝不死身〟だってさ──!!いつか、世界をひっくり返す〝大革命〟を起こす革命家が、こんな所でくたばるかってんだ!!」
それは屈託無い、いつも通りの表情。いつも通りの笑顔──故に、ひよこは涙を浮かべながらフェニィを自身の胸へと抱き寄せた。
「そうだよね──ニィちゃんはいつか、この世界を変える〝ヒーロー〟だもんね!!」
「ああ──だから本当に……心配、すん、な──」
死に際に、気を失ったフェニィ。その生死の堺に待ったをかけるべく、ひよこは〝とあるもの〟を取り出した。
「ニィちゃん──私にとって、ニィちゃんに出会えた事が、私の人生最大の〝大革命〟だったんだよ──」
そう言って死にかけのフェニィの口元へと〝あるもの〟を押し込む。
「だから例え──私が死んでも、〝不死身〟のニィちゃんならヒナちゃんは助けてあげられるよね──」
最後に微笑み一つ残すひよこ。
その顔はちょっぴりイタズラで、愛する家族を思う年相応の少女の笑顔だった──。




