03.ひよこの過去
「ふんふふんふふ〜ん♪」
薄暗い闇夜の中、蔵で一人楽しげなひよこの姿が。
「みんな本当に楽しそうだったなぁ〜」
宴会の様子を思い出し、ふと寂しそうな顔をする。
「ニィちゃん……」
ひよこはふと、思い出す。
自身が彼と出会った──6年前を。
6年前──。
ザアアアアアアアッ──。
豪雨の中、一人の少年がひた走る。
「うっへぇ〜!さびぃぃぃぃ!!!早く帰って、暖炉付けてやらないとヒナの奴風邪ひいちまうなこりゃ──」
あの強気で大人顔負けのヒナが風邪引くとはとても想像出来ないが…それでも、フェニィにとっては可愛い妹だ。嫌でも世話を焼いてしまう。
そんな土砂降りの中かっぱを深く被るフェニィの尻目に、見慣れないものが写った。
町外れの住宅街──その路地裏の突き当たりに、その子はいた──。
全身泥を被り、息も絶え絶え、小さな身を抱き寄せて寒さを凌ぐその少女はいかにもみすぼらしい孤児そのものだった──。
普通なら、孤児などこの世にいくらでもいる──普通なら。
しかし、この《ヒノトリ》という島において、フェニィは孤児という存在を見たことが無かった…。それはひとえに、祖父でありこの島を取り仕切る〝番長・スザク〟による方針でもあった──。
彼曰く──『島の者が平等に、愛のある暮らしを──』だそうだ。
その意思を継ぐわけでも無いが、フェニィ自身孤児である彼女を──ひよこを見捨てることなど出来はしなかった。
「おい、お前…大丈夫か──?」
「はぁ…はぁ…はぁ──」
近づいて声をかけてもフェニィの事が見えていないのか、やつれた様子のひよこは肩身を震わせて息が小さい。
「おい、お前──しっかりしろ!!」
具合が悪くなったのか、その場で倒れ込むひよこ。
一刻を争うため、フェニィはそのままひよこを自身の家へと運んで行った──。
真っ暗な闇が、視界を支配する。
毎日訪れる、孤独で寂しい──苦しい時間だ。
「寒い…怖い…、痛い、苦しい──」
流行り病が、その小さな体を蝕む。
まだ幼い彼女には薬を買うお金も、ウィルスに抵抗する免疫も持ち合わせてはいなかった…。
「神様、あの子たちは──無事に冬を越せましたか??わたしのぎせいは、意味があったでしょうか──?」
それはおよそ3ヶ月前──ひよこが孤児院に居た頃の事だ。
彼女のいた教会は資金難にあえいでおり、上層部では子供の間引きを考えていた。
シスター達は自分達の食料を減らして子供たちに食べさせていたが、流行り病の影響もあって全員が冬を越せない程だと判明したのだ──。
「神父様!これではあんまりです!!間引きだなんて…神に仕えるわたしたちが、子供を犠牲にしろと言うのですか??」
シスターの一人が、声を荒げて反発する。が、しかし──
「君の意見はよく分かる──わたしも身を切る程に、とても辛い。だが、仕方が無いのだ。このままでは全員が共倒れになってしまうのだから──何人かの子供達には申し訳無いが、自分たちでこれから外で生きて貰わねばならない──」
「この時期に子供でも出来る働き口なんてロクなところがある訳じゃない!!命なんてかほども尊重してくれない、闇商人くらいしか雇いやしないよ!!」
「ならば君たちが闇商人のお手伝いをしに行くかね──?」
「それは…」
「……」
「……」
「……」
「私たちを、外に……??」
「……申し訳ないね、この時期にこんなひどい仕打ちを。許しておくれ──」
深々と頭を下げるシスターに、反発の意を示す子供は一人もいなかった。
「シスターは何も悪くないよ!!わたしたちみんな、ここにいるみんなのおかげで生きて来られたんだもの!!」
「ああ!!外の世界でだって、絶対俺たちなら上手く生きられるさ!!」
「お前たち…ありがとうねぇ──本当にごめんね」
シスター達とのお別れを機に、子供たちは出発した。
五、六人程の小さな冒険団だ。
「よしっ!みんな!!今日から俺たちは冒険団だ!!このまま港へ向かうぞぉ!」
「えぇ〜?港までどれだけあると思ってるのよぉ〜!!」
「港…ということは、僕たち──外国へ行くの??」
「外のくに??やったぁー!!」
皆がわいのわいのと騒ぎ立てるお祭り騒ぎ。
しかしそんな中で、一人臆病な少女がいた。
「ひよこ!お前そんな小さな荷物で大丈夫なのかよ!?ちゃんと食料とか入ってんのか??」
「あ、あの…えっと…」
もじもじとしていて、言葉を口に出せない。
見かねたのか、少年達は話題を切り替えた。
「そういえば知ってる??最近の革命家の話!!またどこかの凄い革命家が悪い王さまを倒して国を救ったんだってぇ!!」
「革命家かぁ〜…いいなぁ…。わたし、王子さまみたいな革命家の人と出会いたい〜!!」
「よしっ!!じゃあ俺たちが今日から革命家だぁ!!名付けて──『木の里孤児院革命団』結成だぁ!!」
「そのまんま過ぎて格好つかないよ……」
ギャハハ!!と笑い合う面々。彼らが港町に着いたのは、およそ3日後の事であった──。




