追憶と激情⑨
「すいません、ちょっとお伺いしたいんですけどね」
自慢じゃないが、俺はどんな状況でもモブになりきれる男だ。
そうでなければ、こんな稼業なんぞやってられるわけもないが、そこにどっからどう見てもセレブのお嬢様とその保護者(?)―それもかなりの美少女と美女―が、後ろについてこられると、それだけで目立つことこの上ない。
とにかく、背後の二人はいないものとして、井戸端会議の中に紛れ込むことに成功した。
「柾木さん、ねえ……」
柾木家の近況を訊ねると、中の一人が口を開いた。ここでも宇日と押しするべく、続ける。
「そうなんです、実はかなり遠縁ではあるんですが、この度御縁談がありましてね、その相手の方と言うのが、少々……細かいことまで気にされてしまうと言いますか……」
「……ああ」
相手は、それだけで納得したような顔をした。
「確かにねえ、どんなに遠くたって気にする人はするもんねえ」
「そうなんですよ。ですが、こちらに伺ったところ、柾木さん御一家がいらっしゃらなくなっているようで、これはやはり近隣の方からお訊きしたいと言うことでして」
「そうねえ、柾木さんは、この辺りで結構いいお家だったし、息子さん二人で後継ぎには苦労しないなんて言われてたけど、やっぱり長男さんをより溺愛してたって言うか、とにかく次男と差別して育ててたって言うか、でも長男よりも次男の方が出来がよくて、お兄さんが落ちた高校に、弟さんがトップで合格しちゃったもんだから、それが余計に差別に拍車がかかったみたいで……」
そこから次男―昭史の人生が狂い出したのだろうか。




