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しばらくすると、ジンギスカンが続々と運ばれてくる。
大皿には、マトンとラムの肩ロース、モモ肉、バラ肉、ラムチョップなどの肉と、キャベツ、もやし、ネギなどの野菜が、高く積み重ねられている。
思ったよりもボリュームがあるが、こいつらがいれば余裕だろう。
店員さんが焼き方を説明してくれたのだが、そこで思わず感心した。
まずは、鉄板の端で野菜を焼く。そして、肩ロースを鉄板の中心で焼く。
こうすることで、肉から出た脂が、高低差で野菜のほうへ流れていくらしい。
肉の旨味が溶け出た油が、野菜に染み込むというわけだ。そんなの、美味いに決まっている。
「凛太郎君が焼く気満々みたいだから、任せようか」
周りから微笑ましい顔で見られてしまった。
確かに、両手にトングは気合い入りすぎか。恥ずかしくなり、左手のトングをそっと置く。
店員さんの説明通り、肉が重ならないように焼いていく。肉は、部位によって形は異なるが、とにかくどれも分厚い。これは食べ応えがありそうだ。
焼いているうちに、脂がジュワッと出てきて、肉が艶やかになっていく。
そろそろ食べ頃だろう。全員から皿を回収し、肉を取り分ける。
「わぁ……すごい肉厚」
ミアが箸で肉を持ち上げると、脂が皿の上にポタポタと滴る。
同じように持ってみると、その重量感に驚いた。
サムギョプサルを思い出すが、これはそれ以上の存在感だった。
店秘伝のタレに、にんにくと唐辛子を薬味として入れ、そこに肉を半分ほどつけてから、口へ運ぶ。
分厚いと感じた肉は、想像以上に柔らかく、簡単に噛み切れてしまった。
スパイスが利いた醤油ベースのタレがよく絡んでおり、肉の甘味を引き立て口の中に広がる。
「うっま!」
「すごい、全然臭みがないね……」
ミアの言葉に、俺は共感した。
食べる前に警戒していたのは、独特な臭みだ。
その臭みを少しでも減らすために、タレに漬け込むという調理法がある。
しかし、この肉には、その必要性をまったく感じない。
「美味しい。お米が止まらない」
玲が持つ山盛りの米が、瞬く間に消えていく。
それに負けじと、ミアとカノンも米をかき込み始めた。
「す、すごか食べっぷりやね……」
「はぁ、いきなり飛ばしすぎだって」
宇佐森さんと並んで、苦笑いを浮かべる。
よし、どんどん焼いていこう。俺は箸を置き、トングを二本構えた。
こいつらのスピードに追い付くためには、やはり二刀流でいくしかない。
「ラムチョップもうま! もう、骨ごと食べちゃいたい!」
カノンが豪快に、ラムチョップに噛みつく。
こいつ、アイドルの自覚があるのだろうか? しかし、やたら絵になるな。
「初めてラムとマトン食べ比べたけど、結構違うね」
ミアは、ひたすらラムとマトンを行ったり来たりしている。
ラムとは、いわゆる子羊の肉のことで、マトンは大人の羊の肉のことだ。
ラムは、身が柔らかく、さっぱりとした味わいで、初めて羊肉を食べる人におすすめなのだそう。一方、マトンは嚙み応えがあり、味や匂いも濃くなる。この味や匂いこそ、独特な臭みというわけだ。好き嫌いは分かれるだろうが、この店の肉はどちらも非常に新鮮で美味しい。
「マトンはこう……獣! って感じがしますね」
「でも嫌な臭みとかじゃないよね」
宇佐森さんが、こくこくと頷く。
こうして並んだ二人を見ていると、なんだか姉妹のように思えてくる。
「そうそう、羊肉はダイエットにもいいらしいぞ」
羊肉は低カロリーかつ低脂質で、タンパク質も豊富に含まれている。
その他、美容に良い栄養素がたくさん含まれているのだ。
「じゃあ、無限に食べていいってこと?」
「なわけあるか」
何事にも、限度というものがあるだろうが。
そう言っても、玲の食べるスピードは加速する一方だ。
このままではこいつらにすべて食べ尽くされてしまう。
俺は、負けじと肉に食らいついた。
北海道といえば、やはり海鮮も外せない。
ジンギスカンを食べ終えた俺たちは、海鮮市場へと向かった。
「おお!」
海鮮がずらりと並んだ通りを見て、思わず大きな声が出てしまう。
なんだここは。まるで天国ではないか。最高の食材たちを前に、料理のアイデアが山ほど浮かんでくる。もうここに住みたい。
「最近で一番はしゃいでるんじゃない?」
「ボクらがお風呂に乱入したときより嬉しそうだね」
「お、お風呂……⁉」
背後で彼女たちが話す声が聞こえたが、なんの話をしているのかまでは分からなかった。
それくらい、今の俺はテンションが上がっている。
さて、何を買おうか。
目立つところでいえば、やはりカニか。夏のタラバガニは、甘みが強いと聞く。これは絶対に外せない。
ホタテなんかもいいだろう。春から夏にかけて貝柱が大きく成長するらしく、ちょうどこの時季が旬と言われている。
魚で言うと、夏はホッケが旬なはずだ。塩焼きにすれば、それだけで絶品間違いなし。
「やばい……決められねぇ……」
「凛太郎、すごく楽しそう」
「あ、悪い。お前らは退屈だよな」
「大丈夫。楽しそうな凛太郎を見てるだけで、十分楽しい」
微笑ましげな顔をしている彼女たちを見て、少し冷静になった。
途端に恥ずかしくなり、思わず咳ばらいする。
もしかして、このツアーで一番はしゃいでいるのって、俺なのか?
「……もうちょっと待ってくれ。すぐ決めるから」
そう言って、逃げるように彼女たちのもとを離れた。
結局、すぐには決めきれず、しばらく吟味したのち、最高の海鮮を購入することができた。
用意してもらったホテルには、キッチンがついている。
ホテルにさえ送ってもらえたら、その場で調理ができるというわけだ。
その旨を店の人に伝えたところ、バイクでホテルまで運んでくれることになった。
追加料金はなし。太っ腹である。
「悪い、待たせた」
急いで合流すると、彼女たちはベンチに座り、中華まんを食べていた。
「ん、おかえり」
「お目当てのものは買えたかい?」
「ああ。明日の弁当は楽しみにしとけ」
本来であれば、ツアー中は現地のスタッフが弁当を用意してくれるらしい。だが、せっかく俺がいるのだからと、すべて手作りすることになった。
ここで買った海鮮は、玲たちの弁当の材料だ。そのために、無理を言ってキッチン付きのホテルを用意してもらった。
ツアー先でも俺の料理を求めてもらえるなんて、サポーター冥利に尽きるというもの。
せっかくだから、現地の最高の食材を使った、最高の弁当を作ってやろうと思う。
「とびきり美味しいやつを期待してるわよ~? あ、そうだ。これあんたの分」
そう言って、カノンは中華まんをひとつ渡してきた。
「サンキュー……で、これは?」
「かにまんだって。そこで売ってたの」
パッと見は、ただの中華まんだが――――。
一口齧ってみると、温かいトロトロの餡が溢れてきた。そして、口の中でカニの風味が爆発する。餡の中に、解したカニの身がこれでもかと入っている。
これはまさしく、カニ爆弾。とても贅沢をしている気分だ。
「うっま……」
「美味しいですよね! 私なんて、つい二つも食べちゃいました!」
「ボクもだよ」
「あたしもー」
「ん、私は四つ」
ひとりだけ倍食ってるやつがいたが、気持ちは分からないでもない。俺ですら、もうひとついけそうだ。
かにまんを食べた手からは、まだほんのりカニの香りがする。
ああ、名残惜しい。
いつか自分でも作ってみたい。そのときは、もっとカニを入れてやる。
「これからどうすんだ?」
「海鮮丼を食べる」
――――食ってばっかりだな……。
まあ、これだけ美味そうなものが並んでいるのに、我慢するほうが酷だろう。
夕飯には少し早いが、海鮮丼と聞いたらまた腹が減ってきた。
こいつらの食欲が、俺にも移ったようだ。




