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81-2

 しばらくすると、ジンギスカンが続々と運ばれてくる。

 大皿には、マトンとラムの肩ロース、モモ肉、バラ肉、ラムチョップなどの肉と、キャベツ、もやし、ネギなどの野菜が、高く積み重ねられている。

 思ったよりもボリュームがあるが、こいつらがいれば余裕だろう。

 店員さんが焼き方を説明してくれたのだが、そこで思わず感心した。

 まずは、鉄板の端で野菜を焼く。そして、肩ロースを鉄板の中心で焼く。

 こうすることで、肉から出た脂が、高低差で野菜のほうへ流れていくらしい。

 肉の旨味が溶け出た油が、野菜に染み込むというわけだ。そんなの、美味いに決まっている。


「凛太郎君が焼く気満々みたいだから、任せようか」


 周りから微笑ましい顔で見られてしまった。

 確かに、両手にトングは気合い入りすぎか。恥ずかしくなり、左手のトングをそっと置く。

 店員さんの説明通り、肉が重ならないように焼いていく。肉は、部位によって形は異なるが、とにかくどれも分厚い。これは食べ応えがありそうだ。

 焼いているうちに、脂がジュワッと出てきて、肉が艶やかになっていく。

 そろそろ食べ頃だろう。全員から皿を回収し、肉を取り分ける。


「わぁ……すごい肉厚」


 ミアが箸で肉を持ち上げると、脂が皿の上にポタポタと滴る。

 同じように持ってみると、その重量感に驚いた。

 サムギョプサルを思い出すが、これはそれ以上の存在感だった。

 店秘伝のタレに、にんにくと唐辛子を薬味として入れ、そこに肉を半分ほどつけてから、口へ運ぶ。

 分厚いと感じた肉は、想像以上に柔らかく、簡単に噛み切れてしまった。

 スパイスが利いた醤油ベースのタレがよく絡んでおり、肉の甘味を引き立て口の中に広がる。


「うっま!」

「すごい、全然臭みがないね……」


 ミアの言葉に、俺は共感した。

 食べる前に警戒していたのは、独特な臭みだ。

 その臭みを少しでも減らすために、タレに漬け込むという調理法がある。

しかし、この肉には、その必要性をまったく感じない。


「美味しい。お米が止まらない」


 玲が持つ山盛りの米が、瞬く間に消えていく。

 それに負けじと、ミアとカノンも米をかき込み始めた。


「す、すごか食べっぷりやね……」

「はぁ、いきなり飛ばしすぎだって」


 宇佐森さんと並んで、苦笑いを浮かべる。

 よし、どんどん焼いていこう。俺は箸を置き、トングを二本構えた。

 こいつらのスピードに追い付くためには、やはり二刀流でいくしかない。


「ラムチョップもうま! もう、骨ごと食べちゃいたい!」


 カノンが豪快に、ラムチョップに噛みつく。

 こいつ、アイドルの自覚があるのだろうか? しかし、やたら絵になるな。


「初めてラムとマトン食べ比べたけど、結構違うね」


 ミアは、ひたすらラムとマトンを行ったり来たりしている。

 ラムとは、いわゆる子羊の肉のことで、マトンは大人の羊の肉のことだ。

 ラムは、身が柔らかく、さっぱりとした味わいで、初めて羊肉を食べる人におすすめなのだそう。一方、マトンは嚙み応えがあり、味や匂いも濃くなる。この味や匂いこそ、独特な臭みというわけだ。好き嫌いは分かれるだろうが、この店の肉はどちらも非常に新鮮で美味しい。


「マトンはこう……獣! って感じがしますね」

「でも嫌な臭みとかじゃないよね」


 宇佐森さんが、こくこくと頷く。

 こうして並んだ二人を見ていると、なんだか姉妹のように思えてくる。


「そうそう、羊肉はダイエットにもいいらしいぞ」


 羊肉は低カロリーかつ低脂質で、タンパク質も豊富に含まれている。

 その他、美容に良い栄養素がたくさん含まれているのだ。


「じゃあ、無限に食べていいってこと?」

「なわけあるか」


 何事にも、限度というものがあるだろうが。

 そう言っても、玲の食べるスピードは加速する一方だ。

 このままではこいつらにすべて食べ尽くされてしまう。

 俺は、負けじと肉に食らいついた。



 北海道といえば、やはり海鮮も外せない。

 ジンギスカンを食べ終えた俺たちは、海鮮市場へと向かった。


「おお!」


 海鮮がずらりと並んだ通りを見て、思わず大きな声が出てしまう。

 なんだここは。まるで天国ではないか。最高の食材たちを前に、料理のアイデアが山ほど浮かんでくる。もうここに住みたい。


「最近で一番はしゃいでるんじゃない?」

「ボクらがお風呂に乱入したときより嬉しそうだね」

「お、お風呂……⁉」


 背後で彼女たちが話す声が聞こえたが、なんの話をしているのかまでは分からなかった。

 それくらい、今の俺はテンションが上がっている。

 さて、何を買おうか。

 目立つところでいえば、やはりカニか。夏のタラバガニは、甘みが強いと聞く。これは絶対に外せない。

 ホタテなんかもいいだろう。春から夏にかけて貝柱が大きく成長するらしく、ちょうどこの時季が旬と言われている。

 魚で言うと、夏はホッケが旬なはずだ。塩焼きにすれば、それだけで絶品間違いなし。


「やばい……決められねぇ……」

「凛太郎、すごく楽しそう」

「あ、悪い。お前らは退屈だよな」

「大丈夫。楽しそうな凛太郎を見てるだけで、十分楽しい」


 微笑ましげな顔をしている彼女たちを見て、少し冷静になった。

途端に恥ずかしくなり、思わず咳ばらいする。

 もしかして、このツアーで一番はしゃいでいるのって、俺なのか?


「……もうちょっと待ってくれ。すぐ決めるから」


 そう言って、逃げるように彼女たちのもとを離れた。



 結局、すぐには決めきれず、しばらく吟味したのち、最高の海鮮を購入することができた。

 用意してもらったホテルには、キッチンがついている。

 ホテルにさえ送ってもらえたら、その場で調理ができるというわけだ。

 その旨を店の人に伝えたところ、バイクでホテルまで運んでくれることになった。

 追加料金はなし。太っ腹である。


「悪い、待たせた」


 急いで合流すると、彼女たちはベンチに座り、中華まんを食べていた。


「ん、おかえり」

「お目当てのものは買えたかい?」

「ああ。明日の弁当は楽しみにしとけ」


 本来であれば、ツアー中は現地のスタッフが弁当を用意してくれるらしい。だが、せっかく俺がいるのだからと、すべて手作りすることになった。

 ここで買った海鮮は、玲たちの弁当の材料だ。そのために、無理を言ってキッチン付きのホテルを用意してもらった。

 ツアー先でも俺の料理を求めてもらえるなんて、サポーター冥利に尽きるというもの。

 せっかくだから、現地の最高の食材を使った、最高の弁当を作ってやろうと思う。


「とびきり美味しいやつを期待してるわよ~? あ、そうだ。これあんたの分」


 そう言って、カノンは中華まんをひとつ渡してきた。


「サンキュー……で、これは?」

「かにまんだって。そこで売ってたの」


 パッと見は、ただの中華まんだが――――。

 一口齧ってみると、温かいトロトロの餡が溢れてきた。そして、口の中でカニの風味が爆発する。餡の中に、解したカニの身がこれでもかと入っている。

 これはまさしく、カニ爆弾。とても贅沢をしている気分だ。


「うっま……」

「美味しいですよね! 私なんて、つい二つも食べちゃいました!」

「ボクもだよ」

「あたしもー」

「ん、私は四つ」


 ひとりだけ倍食ってるやつがいたが、気持ちは分からないでもない。俺ですら、もうひとついけそうだ。

 かにまんを食べた手からは、まだほんのりカニの香りがする。

 ああ、名残惜しい。

 いつか自分でも作ってみたい。そのときは、もっとカニを入れてやる。


「これからどうすんだ?」

「海鮮丼を食べる」


――――食ってばっかりだな……。


 まあ、これだけ美味そうなものが並んでいるのに、我慢するほうが酷だろう。

 夕飯には少し早いが、海鮮丼と聞いたらまた腹が減ってきた。

 こいつらの食欲が、俺にも移ったようだ。


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