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一生働きたくない俺が、クラスメイトの大人気アイドルに懐かれたら  作者: 岸本 和葉
第六章

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79-2

 次に向かったのは、テレビ局だった。

 これから行われるCM撮影のために、スタジオが用意されているらしい。


「おー! レイちゃーん!」


 スタジオに入った途端、サングラスをかけた男が近づいてきた。


「今日もよろしくお願いします、プロデューサー」

「はーい、よろしく。レイちゃんがCMに出ると、どんなもんでもバカ売れするからねぇ。今日も期待してるよ」

「精一杯頑張ります」

「相変わらず謙虚だねぇ」


 この人がプロデューサーだったのか。

 ずいぶんとノリが軽そうだが、玲の声からは、彼への信頼が伝わってくる。


「この方も、業界では有名なCMプロデューサーなんですよ」

「へぇ……」


 宇佐森さんに教えてもらっていると、プロデューサーと目が合った。


「宇佐森ちゃん、この子は?」

「わ、我が社のマネージャー見習いです! 今日は一日お手伝いをお願いしてるんです」

「新人が超新人の面倒見てるわけ? 超面白いね」

「あはは……」


 言われてみれば、確かにおかしな状況だ。

 ふと、プロデューサーが俺をじろじろと見ていることに気づく。


「あの、何か?」

「ああ、ごめんごめん。君、結構イケてる感じじゃん。芸能界とか興味ない?」

「いや、そういうのは――――」


 俺が一歩引こうとすると、突然玲が間に入ってきた。


「プロデューサー、そろそろ準備したいです」

「ん? おっと、そういや時間ヤバめだったか。おーい! 案内してやってくれー!」


 スタッフが走ってきて、俺たちを控室へと案内してくれた。

 歩きながら、俺は玲の肩を指でつつく。


「悪い、助かった」


 さっきは、お偉いさんとのいきなりの遭遇に、上手く対応できなかった。

 玲が助けに入ってくれなければ、何か失礼なことを言ってしまっていたかもしれない。


「気にしなくていい。凛太郎の魅力がみんなにバレたら、とても困るから」

「……ん?」


 話が噛み合っていない気がした。

 メイクさんに誘導され、玲はひとりで鏡の前に向かう。


「アタシも、兄貴ならイケると思うけどな」

「なんの話だよ」

「くひひ」


 口元を押さえ、宇佐森さんは小声で笑った。



 これから玲が出演するのは、カップラーメンのCMである。

 構成は単純で、部活終わりの学生が、思い切りカップラーメンを啜るという内容になっている。


「お待たせしました」


 控室から、セーラー服姿の玲が現れる。

 先ほどの大人っぽいビジュアルと違って、あどけなさと可愛さが全面に出ている。

 俺からしてみれば、普段はブレザー姿ばかり見ていることもあって、新鮮だった。


「うおっ……可愛いなぁ、お嬢。兄貴もそう思うだろ?」

「ああ」


 今からでも、うちの学校の制服を変えてもらえないだろうか。

 せめて、ブレザーかセーラー服か選べる仕様にしてもらいたい。


――――っと、いかんいかん。


 冷静さを欠くところだった。

 今はあくまで仕事中。気を引き締めなければ。

 まずは、カップラーメンを啜るところから撮るらしい。

 構成的には、ダンス部として踊るシーンが先に流れるようだが、激しい動きで髪型やメイクが崩れてもいいように、順番を変えているとのこと。

 教室のセットの中で、玲が麺を口へ運ぶ。

 麺を啜る瞬間、伏し目になった玲から妙な色気を感じ、思わず心臓が跳ねた。

 玲は、グッと拳を握り、顔を綻ばせる。


「はいカットォ! バッチリ! いい演技だったよ!」


 スタッフたちが拍手を送るが、今のは演技ではなく、素だったと思われる。

 それから、もう何カットか撮影されたが、結局最初の映像が採用されたようだ。

 宇佐森さんと共に、映像を確認する。

 玲が映っているシーンの監修も、マネージャーの役目だそうだ。 


「――――はい、問題ないと思います」


 宇佐森さんがそう言うと、次のシーンの撮影のために、玲は再び控室へと連れていかれた。



 それからしばらくして、着替えを終えた玲が現れた。

 髪は運動部らしく、後ろでひとつにまとめられている。

 服装は、へそ出しのタンクトップと、黒のバギーパンツ。上から下まで、いかにもダンサーらしい格好だ。


「さすがはお嬢。セクシーな格好も似合うねぇ」


 げへへと笑いながら、宇佐森さんが近づいてくる。

 なんとなく、玲がそういう目(・・・・・)で見られることを、嫌がる俺がいた。

 しかし、これは仕事なのだ。

 呼吸を整え、心の底から湧き上がるモヤモヤを、無理やり押し殺す。


「それじゃあ、本番行きます!」


 リハーサルが終わり、いよいよ本番。

 玲は、スタッフから指示された位置に立ち、目を閉じる。

 スタッフのカウントのあと、アップテンポが特徴的なミルスタの曲が流れ出す。

 それに合わせて、玲は激しく踊り始めた。

 キュッと靴と床がこすれる音が響き、ポニーテールが跳ねる。

 さすがは玲。その圧巻のパフォーマンスで、一瞬にしてスタジオ全体を自分の空間にしてしまった。

 曲が終わると同時に、玲がスタイリッシュにポーズを決める。

 静寂が訪れたあと「カット」の声がかかる。


「かんっぺき! 最高だよレイちゃーん!」


 プロデューサーが、玲に拍手を送る。

 完璧という言葉通り、ダンスシーンは一発オーケー。

 その結果、想定されていた収録時間を、大幅に短縮してしまった。


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