第14話 Tolerance
背中に何かが当たる感触で起きた。
「ゆりな、起きて!」
後ろから小さな声がする。
授業中に居眠りしてたのを遥に起こしてもらったのだ。
「よし。じゃあ...古賀。音読してみろ」
担任の橘あかり先生がきつい視線で私を当てる。
「ひ、ひゃい!」
クスクスという笑い声が起きる。しかしみんなの視線は冷淡ではなく、温かい。容姿が良いとこんな特権があるのか。
「どうした?早く読みなさい」
「え〜」
どこを読んでいいのかがわからない。
「『え』はPictureだぞ、古賀」
またクスクス声が起きる。
「35ページだよ」
後ろからありがたい援護射撃をもらう。
「It was’nt until she died that I realized what deep love I had felt for her」
クラスのみんなが感心の声を漏らす。
橘も私の発音の良さに驚いているのがわかる。
「...じゃあ訳してみろ」
「彼女が死んで初めて、私が彼女に対してどれだけ深い愛情を抱いていたかに気付いた」
「...いいだろう」
橘は悔しそうな顔をし、授業を続けた。
*
授業後。
「ゆりなちゃんすごいね!あんなに発音いいなんて!」
「私にも今度英語教えてよ!」
クラスの女子に囲まれる。JKしている感があって気持ちがいい。
「たまたまだよ〜たまたま」
日本ではこういう時こそ謙虚さが大事なのだ。
「古賀さん」
横から冷たい声が聞こえた。
振り向くと、ロングヘアと赤いメガネがよく似合う美しい女の子がいた。学級委員長の稲越薫だ。昨日の役員決めで一番に手を挙げていたのが印象的だった。
「初回授業早々寝るのは良くないわよ。クラスの風紀が乱れるわ」
そう言って稲越は自分の席に戻っていった。
「感じ悪〜い」
「なんか気取ってるよね」
周りの女子たちが陰口を叩く。
確かに感じ悪かったが、寝てた自分が悪いのだし、稲越はそれほど意地の悪い子には見えなかった。
*
次は数学の授業だ。
小太りしたおっさんの先生が教室に入ってきた。
「今日は初回授業なので、みんなでゲームのようなものをしたいと思います」
教室がざわめく。
「ルールは簡単。問題を解けた人にお菓子をあげます」
前の白板に問題が映し出される。
[問. √2が無理数であることを示せ(但し、無理数とは整数の分数で表せない数である)」
「あなたたちにとっては少々レベルが高いですが、頑張ってください」
みんなが一斉に解き始めた。
この問題くらいなら私だって解ける。
20分後。
「解答やめ。解けた人挙手」
流石にみんな解けただろう、と私は手を挙げる。
周りを見渡すと、手を挙げているのは私と、遥と、稲越薫だけだった。オリバーは寝ていた。
「三人もいるのか!このクラスは優秀だなぁ」
先生が感心の声を漏らす。
「この問題は本当は今から習う内容なんだけど、君たちはもう授業受ける必要がないかもね。みんな拍手!」
拍手が教室に鳴り響く。
やってしまった。
さっきの英語の授業と今回の授業で、私は完全に「勉強できるキャラ」になってしまった。
てか今から習う問題出すなよ。
「でも残念ながらお菓子は一個しか持ってきてないんだよね〜」
そう言って先生はカバンから袋を取り出す。
間違いない。私の大好物、ハニーローストピーナツだ。
日本中で探したが見つからなかった幻のお菓子。喉から手が出るほど欲しい。
「この後はさっきの問題の解説しようと思ってたんだけど三人の決勝戦やるか。よし、じゃあこの問題解いてみろ。」
問題が白板に映し出される。
[問.e^πとπ^eの大小を決定せよ]
この問題なら見たことある。
ここで澄ました顔して解いて、ハニーローストピーナツをもらうか。でもそうしたら勉強できる奴認定されてめんどくさいことになる。でもやっぱりハニーローストピーナツは欲しい。
私はそのジレンマに苦悶する。
*
放課後になった。
私と遥は「戦研」に行く前にピーナッツで小腹を満たすことにした。
私はあの後、見事に問題を解き、お菓子を勝ち取った。予想通り、先生からもクラスメイトからも「誉め殺し」にされた。
勉強嫌いなのに優等生を演じるのはなかなかに辛い。
しかしその苦労も報われる。
私はピーナッツを口に放り込んだ。
舌が喜び跳ねる。やはり最高だ。
「これ美味しいね!初めて食べたよ」
遥もピーナッツを次々と食べる。本人にはとても言えないが、ナッツを食べる小動物みたいだ。これほど可愛いくハニーローストピーナツを食べる子は見たことがない。
あっという間に一袋食いつくした。
そして、二号館地下へと向かった。




