第13話 Doze
「ぷは〜うまい!」
私はビールを胃に流し込んだ。
「お前随分と遅かったな」
台所で料理しているオリバーが話しかけてくる。
「あんたt-sportsって知ってる?」
「知ってるけど」
「今日t-sports部みたいなの見つけた」
「えっまじで?!」
オリバーの目に輝きが芽吹く。
「二号館の地下にすごい施設あったわよ。明日も行くからあんたも来る?」
「絶対行く。絶対」
オリバーの目から強固な意志を感じる。
「あと肉焦げてるわよ」
「やばっ!!もっと早く言ってよ!!」
「焦げたのあんたが食いなよ」
「くそぅ」
いつものオリバーならこれくらいでキレるが、今晩は機嫌がいい。扱いやすい男だ。
*
「やっべ遅刻だぜ」
「そのわりには全然焦ってるように見えないけど」
「あんたもな!」
私たちは秒速5メートルで走っている。なぜかと言うと700メートル先の学校があと3分で始まるからだ。しかも初回授業。遅れるわけにはいかない。
「おい!見ろ!70メートルくらい先に同じ制服のやつがいるぜ!」
オリバーは全然息が切れていない。私たちが本気で走ると結構危ないから抑えざるを得ないのだ。
「あれ?あの子...」
その艶のある髪とすらりとしたシルエットには見覚えがあった。
「遥!」
思わず呼び捨てになってしまった。前の少女が振り返る。華奢な姿が眩しかった。
「あ!おはよう!ゆりなさん!奇遇だね!」
私はオリバーを走り抜いて遥の隣に並ぶ。
「さん付けはいらないよ!そんな呑気に歩いてたら遅れるよ!」
「じゃあ私にもさん付け禁止ね!それよりまだ全然余裕あるはずだけど。だって8:15登校だよ」
ちょうどオリバーが私たちに追いつく。
「どうした?遅れるぞ!」
「あっ。おはよう! オリバーくんで合ってたっけ?」
「う、うん。お、おはよう」
オリバーは頰を微かに赤らめた。ちょろい男だ。
私はそんなオリバーを歯牙にも掛けず、ポケットからTDPを取り出す。厚みがほとんどないため二次元電話だ。
昨日の入学式の書類はすべてクラウドを介して渡されるのでTDPで確認できる。
昔はすべて紙だったらしいが、今では紙の媒体は廃れてしまっている。
しかし、一定数の人(私を含めて)は未だに書籍を紙の媒体で読むことを好む。やはり紙の感触は譲れないものがある。
渡された書類を確認すると、たしかに登校は8:15となっていた。
「ちょっとオリバー!あんたが言ってたより15分も遅いじゃない!!」
私は激昂する。
「あれ?8:00だと思ったんだけどなぁ」
オリバーが目を左上に泳がせる。
「目瞑って。そしたら許す」
私はニコッと笑う。
オリバーは目をギュッと瞑る。
「はっ!」
私は掛け声とともに思いっきりオリバーの腹にブローを喰らわす。
「うっ」
オリバーが苦しそうな声を出す。
「立っていられるなんてやるじゃない」
「くそう...覚えてろ...ぅ」
オリバーが足をプルプルさせながら復讐を宣言する。
「大丈夫?すごい音したけど」
遥がオリバーの背中をさする。
「近衛さぁん...」
オリバーは涙目だ。その姿にさすがの遥も苦笑い。
「でもゆりなさ...ゆりなとオリバーくんは仲がいいみたいだね〜付き合ってたりするの?」
遥が微笑む。言い直すところが可愛い。
「いや、ただの従兄妹だよ」
私はでまかせの嘘を言う。
「本当に〜?」
遥が勘ぐって聞いてくる。その顔も可憐だ。
そんなくだらない会話をしているとあっという間に学校に着いた。
「よし!頑張るぞ!」
私はガッツポーツを掲げる。




