第10話 Lorentz Force
四十年前までは世田谷区内に高校が沢山あったらしいが、少子高齢化に伴っていくつもが合併したそうだ。
世田谷中央高校はその名の通り、世田谷区の中央に位置する高校だ。
周囲の10校近くが合併して、校舎も新たに建設した新しい高校である。生徒数も三千人と桁違いに多い。
本校舎は12階建てとなっており、地下にプール、サッカー場、テニスコートがある。
地上には野球のグラウンドや小さめのゴルフ場があったりと、施設の充実ぶりは日本一だ。
だから部活動はものすごく充実している。
私と遥は吹奏楽部を見学(?)した後、他にも色々と部活を見に行った。
テニス部、陸上部、合唱部、バレー部、etc.
しかし、どれも私たちにとってイマイチだった。
疲れ果てた私たちは校舎外のベンチに座った。
「なんかどれもしっくりこないね〜」
「うん、そうね」
それ以外に話すことが思い浮かばない。
そして気まずい沈黙は続いた。
その沈黙を忽然として破ったのは重々しい轟音だった。
「なにいまの?」
遥は私に聞いてくる。
私はこの音を知っていた。しかし、こんなところで聞く音ではないはずだった。
「ちょっと見に行こう!」
今度は私の方が遥に引っ張られ、音のした方へ向かった。
音がしたのは間違いなくグラウンドからだった。
そして私たちがグラウンドに着いたとき、ちょうど2回目の轟音が響いた。地面が少し揺れる。
三脚の上に設置されている白くて細長い直方体型の物体。グラウンドの真ん中に佇んでいたのは間違いなくGarmament社製のレールガン、Echidnaだった。
ガーマメントは2040年代から画期的な兵器生産会社として躍進した企業だ。
数あるガーマメントの兵器のなかで抜きんでていたのがこのEchidnaだった。
高威力で高精度。その上、小型(他のレールガンに比べて)という革命的な性能は過去に例を見なかった。欠点は発射音が大きいことだが、弾が音速の17倍で出されるときに発生するソニックブームを搔き消す技術は今のところ確立されていない。
私がEchidnaを見るのは2回目だった。
初めてEchidnaを実戦投入したのがジ・エイスだったのだ。
作戦行動中に、ミサイル兵器が敵によって撃墜されてしまうことが発覚した。通常のミサイルだと相手の高性能レーダーに捕捉されてしまうのだ。したがって、レールガンによる攻撃が有効だと考えられた。秒速6キロメートルで発射し、上空1000kmまで上げて、敵に弾を降らす。もはや弾道ミサイルなのである。終端速度は秒速7km。敵に捕捉されずに攻撃する唯一かつ最適な手段だった。
Echidnaの使用は完全な成功を収めた。
結果として、Echidnaの威力と実用性は高く評価され、アメリカ、日本を含め世界中の軍隊に採用されることになった。
しかし、そんな兵器が高校にあることがまずおかしい。
私はすぐにグラウンドの中に入った。
「ちょっと!ゆりなさん!危ないよ!」
遥が戻ってこいという仕草をするが、私は合掌して謝り、Echidnaの方へ駆け寄った。
「ちょっと君!なに勝手に入ってるんだ!」
そう怒鳴りながら眼鏡の上に安全ゴーグルをかけた青年がグラウンドの外から入ってきた。勉強が出来そうな顔だ。多分年上だ。
「危ないってのはこっちの科白よ!何でEchidnaを学校でぶっ放してるのよ?!下手したら誰か死ぬわよ?!」
私はそう応酬した。
眼鏡の青年はカッコつけて安全ゴーグルを外す。
「あなたは勘違いしているようだが。これはEchidnaであってEchidnaではない」
そう言って青年はニヤリとする。
「は?」
私は唖然とした。意味がわからなかった。
「つまりだな。このEchidnaは我々、先進戦略技術研究部が本物のEchidnaを真似て作った模倣品なのだ。威力も本物の100分の1に満たない。その名もEchidna世田谷ヴァージョン!」
「ダサッ」
思ったことをそのまま口にしてしまった。
「ふっ。この卓越したネーミングセンスをお前も否定するのか。つまらない奴らばかりだな」
青年は呆れたとでもいうように肩をすくめた。
「それよりもお前がEchidnaを知っているのが驚きだ。そうだな。我々の部室に案内しようじゃないか」
青年はそう言っててくてくとグラウンドの外へ歩いて行った。
私は遥を手招きした後、その青年に着いていった。




