第9話 Stars and Stripes
「遥さんは中学の時何部だったの?」
私はさりげなく話しかける。
「中学の時は帰宅部だったよ。親に『部活より勉強!』って怒鳴られてさ。部活に入れさせてもらえなかったんだ」
遥はしょぼんとした顔になる。
「ゆりなさんは何部だったの?」
しまった。この質問は想定していなかった。
「わ、私は吹奏楽部だったよ」
昔マーチバンドに入っていたから嘘ではない。
「え〜いいなぁ〜。じゃあとりあえず吹奏楽部見に行こうよ!」
そんなこんなで、金管楽器が勢いよく鳴り響く音楽室の前まで来た。
音楽室のドアを開くと、先輩たちが一斉に集まってきた。
「新入生かな?よく来てくれた!さ、入って入って」
ほとんど無理矢理、中に入れさせられた。
「楽器経験ある?」
「ピアノなら小さい頃...」
遥がそう答える。
「じゃあ楽譜が読めるのか!Nice!あなたは?」
先輩が私にそう聞く。
「トランペットをやってました」
私がそう答えると、音楽室内に歓声が起きる。
「じゃあちょっとこれ吹いてみてよ」
先輩が塗装の剥げたボロいトランペットを私に渡してくる。
私はマーチバンドにいた時に演奏した「星条旗よ永遠なれ」を吹き始めた。
先輩たちの視線を感じる。みんなが練習を中断して私が吹くのを見ていた。特に隣の遥の目線がきつい。じーっと私を見ているのがわかる。
私が吹き始めて30秒ほど経ったところで、ドラムの一人が合わせて叩き始めた。それにつられて他の楽器も入ってくる。
気づけば一つの大きな楽団になっていた。なんだか昔に戻った気分だ。私は長らくこの感覚を忘れていた。瞼が熱くなる。
3分の演奏があっという間に終わった。
音楽室は歓声に包まれた。
「あんたすげーな!新入りなのにHiB♭出せんのか!」
「これでトランペットパートの人員不足も解決だな」
先輩たちが寄ってたかって私を褒める。
そこで私は雰囲気をぶち壊す一言を放った。
「入部するなんて一言も言ってませんよ」
しーんと静まり返る。
私は遥の手を掴み、音楽室から走って逃げた。
先輩たちが獲物を逃すまいという形相で追いかけてくる。あれに捕まったらもう戻ってはこれないだろう。
私は全力で走った。
追いかけてくる先輩たちを撒いたことを確認して走るのをやめた。
遥を握る手には汗が滲んでる。
「ちょっとゆりなさん!逃げてよかったの?!」
と、遥が息を上げながら聞いてくる。
「いいのいいの!さっきので十分楽しかったから!」
私は晴れ晴れとした気持ちで笑った。遥もつられて笑う。そして二人で大声を出して笑った。
心地の良い笑いだった。




