第11話 Hippocampus
グラウンド脇にある2号館へ私たちは向かった。
2号館は12階建の本校舎と違って、小さめの3階建だ。そこにはあらゆる文化系部活の部室がひしめいている。
2号館に入って奥の方にある階段を降りて地下に行った。
薄暗い廊下が続いていた。なんだか君が悪い。
さらに奥へと進むと、鉄製の扉があった。
青年は扉を開けるための指紋認証、網膜認証、パスワード入力を行った。高校の設備にしてはなかなか厳重である。
扉が開かれる。何が向こうにあるのだろうという高揚感が私を襲った。
暗い廊下に「光」と「音」が漏れ出す。
中は廊下と対照的に真昼のように明るく、私は思わず目を細めた。
瞼をゆっくり上げると、白衣を着た高校生が十人近く、機械のようなもので実験をしているのが見えた。
「ただの物理部じゃん」
私はそう遥に耳打ちした。
しかし青年に聞こえていたらしく、小馬鹿にするように笑った。
「こっちだ」
私たちは青年の案内されるがままに奥の方へと進んだ。
さっきから聞こえていた「音」の正体がわかった。
ガラス越しに射撃場が広がっていた。
生徒数人が射撃を行なっている。しかも実弾だ。
私はこの懐かしい光景に見惚れててしまっていた。
すると、青年は私と遥の前に立って両手を広げた。
「ようこそ先進戦術技術研究部、通称戦研へ。私が部長の海馬悠だ。」
海馬は軽くお辞儀をする。
「せんけん?そんなダサい名称誰が考えたのよ」
私はそうぼやく。
「無論、私が考えた」
海馬はもはや誇らしげに言う。
相手が自己紹介したからにはこちらもするのが礼儀だ。
「私は一年一組の古賀ゆりなです」
「私も同じ一年一組の近衛遥です」
遥が名前を言うと、海馬は目を丸くした。
「近衛遥って首席で入学した子だよね?いやー素晴らしい!」
海馬が遥に握手を求めた。遥は恥ずかしそうにそれに応じる。
「ともかく、何で学校に射撃場があるんですか。流石におかしいでしょう」
私は興奮を抑えて海馬に問う。
すると海馬は簡易型プロジェクターをポケットから取り出し、机に写し始めた。
「t-Sportsというのはご存知で?」
「いえ」
私にとっては初耳だった。
「戦術兵器を使ったスポーツのことですよね」
遥がそう答える。
「さすが首席。よくご存知で」
海馬が小さく拍手する。
なんか私が馬鹿にされたようで鼻につく。
海馬は説明を続ける。
「t-sportsの『t』は戦術の『t』だ。ちょうど二年前に日本で普及し始めた出来立てホヤホヤの競技なんだ。t-sportsは五十年前に流行ったサバイバルゲームやペイントボールの進化版のようなものだ」
「ちょうど五年前に銃規制が緩和されて、銃を使うスポーツがメジャーになったんですよね」
遥が口を挟む。
「その通りだ。技術の進歩と銃規制の緩和でこれまでにない高レベルな競技が誕生したのだ。t-sportsは基本的に実弾を使う」
するとプロジェクターにスーツの写真が映された。
「アダマントスーツ...」
遥が呟く。
「首席さんは何でも知ってるね。このアダマントスーツは銃弾に耐えうる強度と機動性を兼ね備えた装備だ。米国の特殊部隊ジ・エイスも使っている」
もちろん知ってます。
「さっき実験をしてたのは研究組のやつら。アダマントスーツとかの装備の製造、改良担当ね。さっき地上で撃ったレールガンも研究組の新作。威力高すぎて実際は使えないと思うけど」
流石にあれくらいの弾速があればアダマントスーツくらいは貫通する。
「研究組以外の奴らは実戦組。僕は両方を担当してるけど。これで大体この部の説明はしたかな。どう?入りたい?」
海馬はにっこりと微笑む。
「私ちょっと興味あります」
遥がそう口にした。
意外だった。大人しそうな印象だったからこういうのは苦手だと思っていた。
「おお!じゃあ早速やってみるか!古賀さんはどうする?興味ある?」
私は頷いた。遥が行くと言うなら私も行くしかない。興味がないわけでもないし。
「よし!二人ともついてこい!」
遥は海馬を追ってスキップしている。
こうなったら元特殊部隊の手腕を見せつけてやろうじゃないか。




