8話 どうして気になるの
エルシオンは小さく息を吐く。
それから、フィオリアへ視線を向けた。
先ほどまでの鋭い雰囲気が、わずかに和らいでいた。
「少し外へ行きましょうか」
「……はい」
観衆の視線を受けながら、会場を横断する二人。
庭へ続く扉を抜けると、夜風が頬を撫でた。
石造りの庭の中央には、静かに水を湛えた噴水。
月明かりを受けて、水面がやわらかく揺れている。
会場のざわめきが遠くなり、フィオリアはようやく息を吐いた。
「我が弟が失礼しました。
あれは昔から兄弟の中でも一番ひねくれていてーー。
根は悪くなかったのだが、色々あってあのように」
困ったような口調になるエルシオン。
「私に対しても強い反発心を抱いているようで……最近はまともに兄弟らしい会話もできていないくらいです」
それは、レティス王女が関係しているのですか?という言葉が口からでかけたが、フィオリアはとっさにその言葉を飲み込んだ。
エルシオンが、レティス王女のことをあまり話したがっていないような気がして。
それになぜだか、そのことを聞きたくない自分がいて。
(エルシオン様とレティス様はどういった関係だったの?
なぜ、彼女と婚約せず私と婚約をしたの?
少しでも、彼女のことを思っているの……?
もしかして、私に他の相手を作ってもいいと言っていた理由は、将来は彼女と添い遂げたいから?)
ぐるぐると色々なことが頭を巡るが、フィオリアは胸元へそっと手を当て、小さく息を吐いた。
(でもそんなことは関係ないわ。
彼が誰を好きだろうと、私はエルファードを取り戻すことを一番に考えるの。
しっかりしなさい私!)
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同じ月を、遠くベルディンの地から見上げている女がいた。
豊かな赤髪の彼女は、送られてきた書簡を手にし、頬杖をつきながら目を動かしていた。
手にした書簡に描かれたのは、金髪に蒼い瞳の美しい少女。
「あらそう、やはり精霊の姫との婚約は正式なものになってしまったのねーー。
私に一言も告げないだなんて、無礼な者たちですこと」
描かれた女性の目をそっとなぞりながら、くすり、と小さく笑う。
「綺麗な目ーーこの目は母親譲りなのね、懐かしいわ。
一度直々にご挨拶しないとね、そして申し上げないと」
そう言って椅子から腰を上げたのは、レティス・ベルディン王女その人だった。
「ーーエルシオンの妻になるのは、この私だとね」




