4話 不幸を呼ぶドレス
「本日の夜会のドレスでございます」
グランヴェルの上位貴族が集まる夜会当日。
侍女たちが運んできたのは、数着の青のドレスだった。
どれも王族にふさわしい上質なものだ。
(流石に、今日ばかりは妙なことはしてこないみたいね)
「お好きなものをお選びください」
フィオリアは、一着ずつ目を通していく。
(今日は、エルシオン様は濃い青の礼装だと聞いたわ。
だから、少し落ち着いた色合いのほうが合うかしら)
その中で、ひとつのドレスが目に留まった。
深い湖のような色合いに、光の加減でわずかに淡さが滲む。
装飾は控えめ。
だが、胸元に施された閉じた銀薔薇のような刺繍は繊細で、静かな品格を宿している。
(よく見ると生地も、他より上質みたいね。
今日は殿下との初めての夜会だから、一番質感のよいもののほうがふさわしいわよね)
フィオリアは、その銀薔薇の刺繍のドレスを手に取った。
「こちらで、お願いします」
「かしこまりました」
その瞬間、侍女たちが一瞬だけ視線を交わしていたことに、フィオリアは気づかなかった。
侍女達はやけに念入りに準備を行っているのか、かなり時間がかかり、支度が完了する頃、時計の針は約束の時間ぎりぎりになっていた。
やがて、扉を叩く音。
「失礼。支度は終わりましたか?」
入ってきたのは礼装姿のエルシオンだった。
きっちりと長い髪をまとめ、濃い青を基調とした礼装。
落ち着いた色合いがよく映えていて、相変わらず美しい。
フィオリアが少し見惚れた、その瞬間。
エルシオンの歩みがぱたりと止まった。
その目線はフィオリアではなく――侍女たちへ向いた。
「ーー彼女のドレスを選んだのは?」
その声は普段と特段変わらないはずなのに、なぜか空気が冷えたような気がする。
「……それは、フィオリア様ご自身でお選びになりました」
「そうか」
侍女頭ニーナの返事に、短く返すエルシオン。
そして一歩、侍女達の方に踏み出し、侍女頭ニーナに目線を向けた。
「ーー確か君は、伯爵家出身だったね。
父上が君の一家を教養深いと褒めていたのを覚えている」
「それは身に余るお言葉ですわ」
ニーナは、崩れない微笑みを浮かべたまま深く頭を下げる。
「ならば、その家に連なる者として問おう」
一段、声が低くなる。
「このドレスの紋章の意味を知っているな?」
その声には、明らかに怒気が込められていた。




