5、負けヒロインは負けヒロインらしくしなきゃね
~前話あらすじ~
タマキは写真撮影の実践開始。
でも幼馴染二人の写真を撮りたくないと思っているタマキ。
そんなタマキにレイが“今夜、部屋に遊びに行く”と言う。
それを見ていた女子に“負けヒロイン”だと言われ、タマキは期待するなと自分に言い聞かせる。
「タマキ」
レイが私の部屋の窓から入って来て言った。
「今日は、何の用事で来たの?」
「ん? 用事なんて必要か?」
「だって、わざわざ私に“部屋に行く”って言ったんだから用事があるんだと思うわよ」
「なんとなくタマキの部屋に行きたくなっただけ」
「そう。なんにもない私の部屋に?」
「前も言ったけど、タマキの部屋は落ち着くんだよ」
レイは、そう言ってベッドを背もたれにして座った。
「だから、それは褒めてないって。レイの部屋と同じ香りなんて私は嫌よ」
私はベッドの端に座って言った。
「なぁ、タマキ」
レイが見上げて私を呼んだ。
まるで子犬のような眼差しで私を見てくる。
可愛い。
「レイ?」
「今度、強豪校と練習試合があるんだけど、来てくれないか?」
「それはツキ先輩に訊かなくちゃ」
「違う」
「えっ」
「写真部としてじゃなくて応援に来てほしい」
「でも、せっかく行くなら写真部として行きたいな。レイの想いを写真に残したいの」
「あの先輩も来るんだろう?」
「そうね。ツキ先輩も私を撮りたいと思うし」
「タマキを撮る?」
レイは驚きながら私に訊いてきた。
「ツキ先輩は私を撮りたいんだって」
「何それ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。撮った写真のデータは部顧問に預けているからね」
「それっ、信用できる訳?」
「うん。ツキ先輩は写真を愛しているからね。悪いことには使わないよ」
「ふ~ん」
レイは信用していないみたい。
でも私のことだから興味も無いみたいね。
これがレイナだったら心配するんだろうな。
「そういえば、レイナにもスクイーズをあげてるの?」
「えっ、レイに?」
「この前の肉球の形をしたスクイーズをレイナも持ってたよ?」
「あっ、あれ? あれはレイが勝手に自分で“お揃い”って言って買ったんだよ」
「えっ、レイはレイナに買ってあげなかったの?」
「なんでレイに買わなきゃいけないんだよ」
レイは呆れながら言う。
「だって、私には買ってくれるのに?」
「あっ、それは、レイナには部屋の芳香剤の香りを変えてくれたら買うって言ってんだよ」
「そうね。甘い香りを変えてくれればレイもレイナの部屋に行けるからね」
「そっ、そうだな」
私だけに買ってくれたのは事実だけど、レイナが芳香剤の香りを変えたらスクイーズを買ってあげるの?
なんだか複雑な気分よ。
「私が甘い芳香剤を使ったら、レイはこの部屋に来ないの?」
「タマキの部屋に来れないのは困るから、違う香りの芳香剤を買ってきて交換させてもらう」
「それをレイナの部屋でもやればいいのに」
私はクスクスと笑いながら言った。
でもレイは笑っていない。
どうして?
「レイ?」
「タマキの部屋は居心地が良いから、行かない選択肢はないんだよ」
期待してしまう。
レイは私が必要なの?
私はレイを好きでいていいの?
「今日はスクイーズはないの?」
「ある」
レイは丸いチョコチップクッキーの形をしたスクイーズを私に渡してきた。
見た目は美味しそう。
「可愛い。嬉しい。ありがとう」
前の肉球の形をしたスクイーズのお礼と一緒に気持ちを込めて言った。
「ねぇ、写真部の先輩と一緒にいると楽しい?」
「うん。ツキ先輩は写真のことになるとアドバイスが的確で尊敬してるし楽しいよ」
「そう。それなら俺といて楽しい?」
「えっ、そんなの楽しいに決まってるじゃん。だから幼馴染なんでしょう? だから一緒にいるんでしょう?」
どうしたのレイ?
何か不安なことでもあるの?
言わなくても分かっているんだと思っていたのに。
「今日もドラマ見るんだろう?」
「ドラマ?」
「『さんかく幼馴染』だっけ? レイが、いつもうるさいくらいドラマの内容を話してくるんだよ」
「私は、見てないの。なんだか負けヒロインの女の子が可哀想で」
「そうか? なんだか俺達みたいだよな?」
「そう? レイも、そう思うんだね」
「タマキ?」
「負けヒロインは負けヒロインらしくしなきゃね」
「タマキ、何を言ってんの?」
「私、宿題が終わってないのよ。レイ、早く帰ってよ」
「はあ?」
私はレイの腕を引っ張り立たせて、背中を押して部屋から追い出す。
「タマキ?」
レイは仕方なく部屋から出ていく。
私は窓を閉めて、カーテンを閉めた。
私、本当に可愛くないよね。
顔も心も可愛くない。
こんな私をレイが好きになる訳がない。
でも、これが負けヒロインなのよ。
負けヒロインは負けヒロインらしく、レイから離れなきゃ。
どんなに頑張ってもレイは私を選ばない。
期待しちゃダメだし、好きになっちゃダメなのよ。
諦めなきゃ。
◇
「あれ? タマちゃんの教室の前、人が集まってるね?」
朝、学校に着くとレイナが異変に気付いた。
私の教室で何が起きてるの?
私達三人は私の教室へ向かう。
すると私に視線が集まるのに気付く。
私を避けるように皆が離れていき、教室へ向かう道ができる。
皆の視線が痛い。
私、何かやっちゃったの?
黒板に一枚の写真が貼ってあった。
近付いて気付く。
私とツキ先輩が見つめ合っている写真?
これ、誰が撮ったの?
まるで私とツキ先輩が恋人みたい。
そして二人の後ろにはホテルという文字が見える建物が写っている。
私が写真を取ろうと手を伸ばした時、誰かの手が先に写真を取り、握り潰す。
その手は怒りで震えていた。
私に覆い被さるように後ろから写真を握り潰した相手は私よりも怒っている。
それは声で分かった。
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~次話予告~
写真を見てタマキよりも怒っているのはレイだった。
それなのに、タマキは恥ずかしくてその場から逃げた。
そして外階段で一人で泣く。
そこへ来たのはツキ先輩だったけど、、、。




