2、負けヒロインなのに期待をしてしまう
~前話あらすじ~
仲良し三人の幼馴染。
美女のレイナとイケメンのレイ。
そして陰キャのタマキ。
レイと一緒にいたら心無い悪口がタマキの耳に届く。
タマキは悔しくて外階段で一人で泣いた。
「何してんの?」
私が外階段で泣き止んだ後、外の景色を見ていると、後ろから男子の声が聞こえた。
私は振り向き相手を確認する。
上履きの色から二年生だと分かる。
「あっ、すみません。お邪魔しました」
よく分からない返しをし、その場を離れようとした。
それなのに私は動けない。
だって、先輩に腕を引っ張られていたから。
「ねぇ、泣いてた?」
私は先輩の言葉に驚き目を見開いてしまった。
泣き止んで時間が経っていたから、涙なんて乾いていると思っていた。
「どうして分かるのかって? それは君の眼鏡に涙の跡があるからだよ」
私は言われて、すぐに眼鏡を外す。
眼鏡のレンズを見て、涙の跡があるのを見つけた。
そしてハンカチで涙の跡を拭き取る。
「へぇ~。君、可愛いね。一年生だよね?」
「可愛い? 私がですか?」
可愛いなんて初めて言われた。
この先輩、目が悪いのかもしれない。
「可愛いよ。黒目が大きくて、長い黒髪はサラサラで綺麗だ」
先輩は私の左頬を右手で包んだ後、私の黒髪を手櫛で通す。
初対面で、こんなに距離が近い人に初めて出会った。
「からかわないでください」
私は先輩の手を払った。
「僕は嘘はつかないよ」
「私は、あなたのことを知りませんので、嘘をつくのかつかないのかなんて確認できません」
「それじゃあ、僕の名前はツキ。二年生だよ」
「えっと、いきなりなんですか?」
「君の名前は?」
「私はタマキです」
「タマちゃんだね」
ツキ先輩はニコニコとしながら私の通称を呼ぶ。
ツキ先輩は、短髪の毛先にパーマのかかった可愛らしい髪型に、大きなクリクリの目。
身長は低いように見えて私の低めの身長より、だいぶ高い。
いぬ系男子で可愛らしいがお似合いのツキ先輩は、レイとは正反対のタイプかもしれない。
でもレイの方が格好良い。
「ねぇ、写真部に入らない?」
「えっ、いきなり部活の勧誘ですか?」
「うん。だって君の写真が撮りたいんだよ」
「私に被写体になれと?」
「そうだけど、基本はタマちゃんには写真を撮ってもらうよ。写真部だからね」
「風景などを撮るのですか?」
「風景も撮るけど、他の部活動の様子を撮る方が多いかもね」
他の部活、、、。
もしかしてレイの姿も撮れたりするかも。
写真部、いいかもしれない。
「写真部に入ります」
「えっ、本当? これで、やっと同好会から部活動の仲間入りだ」
「えっ」
「あと一人、足りなかったんだよ」
ツキ先輩は本当に嬉しそうに笑った。
このツキ先輩の顔を見て、遊びじゃなくて真剣に写真を撮る人なんだと思った。
『カシャッ』
「あっ、勝手にスマホで写真を撮りましたよね?」
「ごめん。でもタマちゃんが可愛いから撮ってしまったんだよ」
「可愛いって言えば撮ってもいいなんて思わないでくださいよ」
「怒っているタマちゃんも可愛いね」
「だから、ツキ先輩! 勝手に撮らないでくださいよ」
ツキ先輩といると楽しい。
レイとレイナがいると私が私じゃなくなる気がしていた。
だから、上手く笑えなかった。
私、こんなに笑ったの久しぶりかもしれない。
「お~い、タマキ」
「レイ! なんで、いつも窓から入ってくるのよ」
夜の八時ごろにレイが隣の家の自分の部屋の窓から私の部屋の窓を通り、入ってきた。
昔からレイは、こうやって現れる。
そして私をタマキと呼ぶ。
私の部屋ではタマとは呼ばない。
私をタマキと呼ぶのはレイだけ。
「今日のタマキ、変だったからさ」
「私が? いつも通りだよ」
「そうか? いつも変だけど、今日はいつもの何倍も変だった気がするけど?」
「いつも変は余計よ。今日は話題のドラマの一話目があるんだから早く帰ってよね」
「話題のドラマ?」
「そうだよ。題名が『さんかく幼馴染』っていうのよ」
「へぇ~」
レイは興味なさそうにしながら言った。
「レイナの部屋へ行きなよ。レイナならレイの相手は上手でしょう?」
「レイナの部屋は甘ったるい匂いで嫌なんだよ」
レイは鼻をつまみながら嫌そうに言った。
レイナの部屋はレイの部屋の窓からは行けない。
「レイナは甘いバニラの香りが好きだからね」
「俺には堪えられないんだ。それに比べてタマキの部屋は落ち着けるんだ」
「それは、私の部屋の香りを褒めてるの? それともレイの部屋と同じ香りだから落ち着くの?」
「ん? どうなんだろう。でも落ち着くのは同じ香りだからかな?」
「えっ、レイの部屋と同じ香りなの? なんか嫌だ」
私が嫌そうな顔をするとレイはムッとした顔になる。
拗ねたかな?
「タマキ」
レイが私の名前を呼んで、近付く。
身長の低い私は近付いてくるレイを見上げるだけ。
逃げることはしない。
「レイ?」
「タマキ。これあげるよ」
レイは私の掌の上に肉球の形をしたスクイーズを置いた。
「スクイーズ? 肉球の形だ。可愛い」
「スクイーズ、好きだろう?」
「うん。ありがとう」
私がスクイーズをギュッと握り締めると、レイは私の頭をポンポンと撫でた。
私は恥ずかしくなり、顔をあげられない。
手の中にあるスクイーズは握り締める私の力で、元へ戻ろうとする力を失っている。
レイはすぐに私の部屋を出ていった。
私が顔をあげると、レイは窓から自分の部屋へ入ろうとしていた。
私の方を一度振り返り、ニコッと笑った。
私はスクイーズを握り締めていた手の力を弱めてレイに見せて、貰えたことが嬉しくて笑った。
レイは頷いて部屋へ入っていった。
レイは優しい。
たまに私の好きなスクイーズをくれる。
レイナもスクイーズが好きだからあげてるのかな?
私にだけだったら嬉しいな。
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~次話予告~
朝、レイナがタマキとお揃いのスクイーズを見せてきた。
レイはレイナにもあげていた。
レイは、ただ優しい人。
タマキは期待した自分が嫌になる。
そんな時、聞いたことのある声がタマキを呼んだ。




