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『中身38歳おっさんの美少女配信者、定時退社したいだけなのに世界最強の聖女扱いされる』  作者: 心瑛タケハル


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第9話:ステラ様不在、人類だけで現場を回してみた結果

「全員――撤退だァァァァァァァ!!!」


「リ、リュウジさん!? 戦わないんですか!?」


「馬鹿野郎ォォォ!!」


 東京のダンジョン現場。


 押し寄せるモンスター群を背に、リュウジは先頭を切って爆走していた。


「ステラ様はおっしゃった!! 死んだら報告できないとォォォォ!!」


「言ってることは一〇〇%正しいんだけど……!」


「生きて帰るぞォォォ!! これは神命である!!」


「そこだけ余計なんだよなぁぁぁ!?」


 安全地点まで退避。


 リュウジは即座に通信機を掴んだ。


「山城補佐官!」


『こちら山城!』


「…………俺たちだけじゃ無理だ!! 応援を寄越せェェェ!!」


『了解! 東京第三班を回す!』


「頼む!!」


 別の現場でも。


「青い揺らぎ発生! このまま入りますか!?」


「待て! 確認しろ!」


『大阪第五班から情報! 青は接続先不明! 絶対に入るな!』


「了解! 全班へ共有!」


 さらに別の現場。


「こっちは人手が足りません!」


『何人必要だ!?』


「最低でも五人!」


『了解! 足りないならすぐ報告しろ! 応援を回す!』


「はい!」


 世界中で。


 人類は。


 ステラの教えを、愚直なまでに守った。


 分からなければ、確認する。


 危なければ、逃げる。


 無理なら、助けを呼ぶ。


 情報は、共有する。


 たった四つ。


 それだけだった。


 それだけなのに。


 昨日まで崩壊しかけていた現場が。


 少しずつ。


 回り始めた。


 ◇


 火曜日。


 三連休、一日目。


「東京第二班、帰還!」


「大阪側、救援対象を全員回収!」


「韓国支局、接続異常の座標データ共有完了!」


「死亡者――」


 一瞬。


 司令室が静まり返る。


「ゼロです!!」


「…………」


 日本探索者管理局。


 山城補佐官は巨大モニターを見つめた。


「…………回ってる」


「補佐官?」


「いや……」


 山城は自分でも信じられない顔をしていた。


「ステラさん、いないのに……現場、回ってる」


「当たり前じゃないですか」


「その当たり前ができなかったんだよ、昨日まで!!」


「悲しいこと言わないでください!」


 接続異常は、まだ続いている。


 モンスターも出る。


 混乱もある。


 それでも。


 確認する者がいた。


 撤退を選ぶ者がいた。


 助けを求める者がいた。


 得た情報を、次の現場へ回す者がいた。


 そして。


 誰も。


 ステラへ連絡しなかった。


「…………よし」


 山城は小さく拳を握った。


「一日目」


 モニターに表示される。


【死亡者:0】


「乗り切った……!」


 ◇


 翌、水曜日。


 三連休、二日目。


 午後四時五十一分。


 東京のダンジョン現場。


「主要反応、ほぼ消失!」


「救援対象、全員回収!」


「接続異常も縮小しています!」


「よぉぉぉぉし!!」


 リュウジが拳を天へ突き上げた。


「見たかァァァ!!」


 汗と埃まみれの顔で。


 満面の笑み。


「我々は!! ステラ様のお力を借りず!! 二日目も無事に――!」


「また撤退してましたね」


「…………何?」


 若手探索者がぽつりと言った。


「いや」


 肩をすくめる。


「最近のリュウジさん、すぐ逃げるなって」


「逃げているのではない!!」


 リュウジが振り返る。


「戦略的撤退だァァァ!!」


「さっきも『待て! 確認だ!』って三回言ってましたよね」


「当然だ!!」


「応援もすぐ呼ぶし」


「当然だァァァ!!」


 別の探索者がニヤッと笑った。


「ステラ様の教え」


 一拍。


「リュウジさんのビビり癖に、ガッツリ刺さりましたね」


「なっ……!?」


 リュウジの額に青筋が浮かぶ。


「き、貴様……!」


「前まで『俺について来い!』だったじゃないですか」


「最近は『待て!』『戻れ!』『確認だ!』ばっかり」


「違う!!」


 リュウジが拳を握る。


「これはステラ様より授けられた、崇高なる《四大聖訓》を忠実に実践しているだけだ!!」


「でも」


 若手が首を傾げた。


「結局、ステラ様がいないと何も決められないんじゃないですか?」


「…………」


 一瞬。


 空気が止まった。


「…………誰が」


「え?」


「誰が何も決められんと言ったァァァァ!!」


「うわ、めんどくさいところ入った」


「俺はA級探索者だぞ!!」


「知ってます」


「何年、現場にいると思っている!!」


「そこは知らないです」


「今まで何百回!! 危機をくぐり抜けてきたと――!」


 その時。


 ピッ。


「…………ん?」


 観測端末の片隅。


 小さな赤い点が。


 一度。


 点滅した。


「あ」


 若手探索者が画面を覗き込む。


「リュウジさん」


「なんだ!」


「なんか反応出ました」


「…………」


【微弱異常反応】


 一秒。


 二秒。


 消えた。


「今の何ですかね」


「…………」


「一応、管理局へ確認取ります?」


「…………」


 リュウジの脳裏に。


 昨日の声が蘇る。


『分かんないなら、勝手に判断したり触ったりしないで、確認してください』


 ――一、独断を捨てよ。


「…………」


 確認。


 すべきだ。


 そんなことは。


 分かっている。


 だが。


『ビビり癖にガッツリ刺さった』


『ステラ様がいないと何も決められない』


 周囲の視線。


 A級としてのプライド。


 そして。


 かつての炎上系配信者としての。


 どうしようもなく古い癖。


 リュウジは胸を張った。


「…………大丈夫だ!!」


「え?」


「この程度の反応!」


 観測端末を指差す。


「俺が見れば分かる!!」


「いや、でも何の反応か――」


「問題ない!!」


「確認だけでも――」


「俺に任せろォォォォ!!」


「うわっ」


 若手が後ずさる。


「昔のリュウジさんに戻った!」


「進めェェェ!!」


「ほんとに進むの!?」


 ◇


 三分後。


 ズドォォォォォォォン!!!


「…………は?」


 大地が。


 割れた。


 先ほど赤い点が出た場所。


 空間そのものが。


 内側から爆発した。


 黒い亀裂。


 その奥から。


 巨大な腕が現れる。


 一本。


 床へ。


 ズンッ!!


 次に。


 異形の頭部。


 そして。


 人間など片手で握り潰せそうな巨体が。


 ゆっくりと這い出してきた。


 観測端末が。


 けたたましい警報を鳴らす。


 ピピピピピピピピッ!!


【緊急判定】


【SS級】


【測定不能】


【危険度――算出不能】


「…………」


 リュウジの顔から。


 血の気が引いた。


 若手探索者が。


 ゆっくり。


 隣を見る。


「リュウジさん」


「…………」


「大丈夫って」


「…………」


「言いましたよね?」


「…………」


「俺に任せろって」


「…………」


「言いましたよね?」


「今それ言うなァァァァ!!」


 ドゴォォォォォォン!!


「ぐあああああっ!!」


 巨大な腕が一振りされた。


 ただ。


 それだけ。


 最前列の探索者たちがまとめて吹き飛ぶ。


『東京現場、異常反応急上昇!!』


『応援に入ったA級部隊、接敵します!』


 通信機から声。


 直後。


 ドォォォォン!!


『うわああああっ!!』


『A級部隊、壊滅!!』


「…………嘘だろ」


 誰かが呟いた。


 一撃。


 たった一撃だった。


 SS級ボスが。


 ゆっくりとこちらを見る。


 空気が。


 重くなる。


 息ができない。


 足が震える。


「リュウジさん……!」


 若手が声を震わせる。


「どうします!?」


「…………」


 リュウジは。


 一瞬。


 巨大な敵を睨んだ。


 そして。


「撤退だァァァァァァァ!!!」


「即決!?」


「全員下がれ!!」


 今度は。


 迷わなかった。


「負傷者を先に運べ!!」


「はい!」


「管理局へ応援要請!!」


「はい!」


「SS級出現情報!! 座標!! 攻撃パターン!! 分かっているもの全部共有しろォォォ!!」


「了解!!」


 独断した。


 やらかした。


 取り返しのつかない判断ミスをした。


 だが。


 だからこそ。


 残り三つだけは。


 絶対に破らなかった。


「こっちです!!」


「負傷者三名!」


「運べ!!」


「リュウジさん!」


「俺はいい!!」


「でも血が――!」


「先に新人を出せ!!」


「リュウジさんも撤退してください!」


「分かっている!!」


 リュウジは歯を食いしばった。


「死んだら――」


 巨大な腕が振り上げられる。


「報告できんのだァァァァ!!」


 ドォォォォォン!!


「ぐぁっ!!」


 リュウジの身体が床を転がった。


「リュウジさん!!」


「来るな!!」


 血を吐く。


 それでも。


 立つ。


「全員……!」


 膝が震える。


「生きて……!」


 SS級ボスの影が。


 リュウジたちを覆う。


「帰れェェェェェ!!!」


 巨大な腕が。


 ゆっくりと。


 振り上がった。


 逃げ切れない。


 間に合わない。


 誰もが。


 そう思った。


 その時。


 ぐにゃり。


「…………?」


 SS級ボスの背後。


 いや。


 ダンジョンそのものが。


 歪んだ。


「何だ……?」


 空間に。


 一本の亀裂が走る。


 ぐにゃ。


 ぐにゃり。


 それは。


 今まで発生していた接続異常とは。


 明らかに違っていた。


「リュウジさん……」


 若手探索者が。


 震える指で亀裂を指す。


「これ……どこに繋がってるんですか……?」


「…………知らん」


「え?」


「分からん」


「じゃあ確認――」


「できるかァァァ!! 今それどころじゃないだろォォォ!!」


 亀裂が。


 一気に開いた。


 そして。


 崩壊したダンジョンと。


 どこか別の場所が。


 完全に接続した。


「…………」


 リュウジが。


 目を見開く。


 その先に。


 何があるのか。


 この時。


 まだ。


 誰も知らなかった。


(第9話・了)

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