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『中身38歳おっさんの美少女配信者、定時退社したいだけなのに世界最強の聖女扱いされる』  作者: 心瑛タケハル


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8/11

第8話:ステラ様、休暇中。人類、さっそく現場が回らなくなる

 火曜日。


 三連休。


 一日目。


 世界は。


 朝から。


 炎上していた。


「東京第二班が行方不明です!!」


「大阪へ送った救援が東京から戻ってきました!!」


「海外支局からも同様の報告!!」


「出口が別のダンジョンに繋がっています!!」


「通信障害も同時発生!!」


 日本探索者管理局。


 司令室。


 巨大モニターには。


 次々と。


 赤い警告表示が浮かんでいた。


【東京第一ダンジョン】


【接続先――不明】


【大阪第五ダンジョン】


【帰還地点――異常】


【韓国支局】


【通信――断続的】


【英国支局】


【構造データ――不一致】


「何なんだよこれ……!」


 若手職員が。


 青ざめた顔で。


 画面を見る。


 今回。


 現れたのは。


 ものすごく強い怪物ではない。


 ダンジョンそのものの。


『出口』


 と。


『構造』


 が。


 狂っていた。


 東京の出口から出た探索者が。


 なぜか大阪へ飛ばされる。


 本来。


 地下三階にいるはずのモンスターが。


 別のダンジョン入口に出現する。


 応援を送れば。


 違う場所へ着く。


 連絡を取ろうとすれば。


 通信が途切れる。


「東京第二班、応答ありません!!」


「救援要請が三件重複!!」


「こっちの現場には誰も来てません!!」


「このモンスター、どこのダンジョン所属だ!?」


「知らないですよ!!」


「じゃあ誰が知ってるんだ!?」


「分かりません!!」


 敵ではない。


 情報が。


 人類へ。


 襲いかかっていた。


「…………」


 山城補佐官は。


 巨大モニターを見上げた。


「最悪だ……」


 胃が。


 キリキリする。


「敵が強い方が、まだ分かりやすい……」


「補佐官!!」


「なんだ!」


 若手職員が。


 受話器を掴む。


「ステラ様に連絡を!!」


「…………!」


「このままじゃ現場が――!」


 ガシッ!!


「ダメだ!!」


 山城が。


 若手の手首を掴んだ。


「えっ!?」


「今日は」


 一拍。


「休みだ!!」


 司令室が。


 一瞬。


 静かになった。


「ですが補佐官!!」


「休みの人間に電話するな!!」


「世界規模の緊急事態ですよ!?」


「知ってる!!」


「だったら!!」


「それでもだ!!」


 山城は。


 机を叩いた。


「昨日」


 一拍。


「あの人が何のために引き継ぎしたと思ってる!!」


「…………」


 昨日。


 三十分だけ行われた。


 ステラの。


 引き継ぎ配信。


 そこで言われた。


 四つ。


【一、独断を捨てよ】


【二、生を捨てるな】


【三、助けを求めよ】


【四、知を分かち合え】


「…………」


 山城は。


 唇を噛んだ。


 そして。


 もう一つ。


 以前。


 ステラから届いた言葉が。


 頭をよぎる。


『私一人が三日いないだけで現場が回らないって、組織としてヤバくないですか?』


『私に依存しすぎです』


『いい加減、属人化やめてください』


「…………」


 若手が。


 受話器を握ったまま。


 山城を見る。


「でも……」


 一拍。


「ステラ様なら」


「分かってる!!」


 山城が叫ぶ。


「あの人なら多分」


 一拍。


「五分くらいで全部終わらせる!!」


「じゃあ電話した方が早くないですか!?」


「それをやるからダメなんだよ!!」


「えぇ!?」


「できる人間に全部投げる!!」


 机を。


 バンッ!!


「一番ダメな現場だろうが!!」


「…………!」


 山城の脳裏に。


 昨日の声が蘇る。


『一人で全部抱え込む人いるじゃないですか』


『あれ、一番危ないんで』


「…………」


 山城が。


 ゆっくり。


 自分の机を見る。


 未処理案件。


 山積み。


 緊急連絡。


 全部。


 最後は。


 自分のところへ。


 集まっている。


「…………」


 一秒。


 二秒。


「…………俺じゃん」


「補佐官?」


「いや」


 一拍。


「俺もだ」


「え?」


「俺一人に全部持ってくるな!!」


「えぇ!?」


 山城は。


 立ち上がった。


「脱・属人化だ!!」


「急に!?」


「各現場!!」


 司令室全体へ。


 怒鳴る。


「連絡責任者を一人ずつ決めろ!!」


「はい!」


「情報は全部共有!!」


「はい!」


「分からないことを勝手に推測で埋めるな!!」


「はい!」


「分からないなら!!」


 一拍。


「『不明』って書け!!」


「はい!!」


「人手が足りない現場!!」


「はい!」


「遠慮せず足りないって言え!!」


「了解です!!」


「現場で判断できるものは!!」


「現場責任者へ任せます!!」


「よし!!」


 若手職員が。


 ぽかんと。


 山城を見る。


「補佐官……」


「なんだ!」


「全部」


 一拍。


「自分で指示しないんですか?」


「しない!!」


 即答だった。


「俺も一人で抱え込んだら怒られるんだよ!!」


「誰にですか!?」


「ステラさんにだよ!!」


「本人いませんけど!?」


「だから余計に守るんだよ!!」


「…………」


 三秒。


「東京第一班!」


「はい!」


「責任者決まりました!!」


「大阪側!」


「情報整理開始します!!」


「海外支局!」


「異常座標データ、共有サーバーへ上げます!!」


「救援足りない現場!」


「三件です!!」


「応援回せ!!」


「了解!!」


 少しずつ。


 バラバラだった情報が。


 整理されていく。


 山城がやったのは。


 自分一人で。


 すべてを解決することではない。


 全員が。


 自分の仕事を。


 できる状態へ戻すことだった。


「…………」


 山城は。


 胃を押さえた。


「これ……」


 一拍。


「普通の組織運営じゃね?」


「今さらですか!?」


「言うな!!」


 ◇


 一方。


 東京。


 ダンジョン現場。


「うおおおおおお!!」


 ドゴォォォン!!


 リュウジが。


 迫ってきたモンスターを。


 大剣で。


 吹き飛ばす。


「次ィィィ!!」


「リュウジさん!!」


「なんだ!!」


 若手探索者が。


 前方を指差した。


 通路。


 その先。


 空間が。


 ぐにゃり。


 ぐらり。


 青白く。


 揺らいでいる。


「…………」


 リュウジの動きが止まった。


「なんだ……あれは」


「分かりません!」


「接続異常です!」


「この先がどこに繋がってるか……」


 一拍。


「不明です!!」


「…………」


 さらに。


 後方。


 ドドドドドドドド……!!


「リュウジさん!!」


「モンスター群来ます!!」


「数、約五十!!」


「くそっ!!」


 前。


 接続先不明の。


 青い歪み。


 後ろ。


 迫ってくる。


 モンスター群。


「リュウジさん!」


 若手が叫ぶ。


「どうします!?」


「決まっている!!」


 リュウジが。


 拳を握る。


「俺が!!」


 一歩。


「根回しを――!!」


 踏み出す。


 ――ピタリ。


「…………」


 止まった。


「リュウジさん?」


「…………」


 脳裏に。


 過去の記憶。


『リュウジさん、勝手に動線変えないでください』


『直そうとして、逆に現場をぐちゃぐちゃにしてるだけでしょ』


「…………っ!」


 ステラ。


 世界最強の聖女。


 そして。


 自らが。


 生涯を捧げると誓った。


 絶対神。


「これは……」


 リュウジの額から。


 一筋。


 汗が流れる。


「ステラ様に禁じられた……」


 一拍。


「勝手な根回しでは……!?」


「今気づいたんですか!?」


「黙れェェェ!!」


「はい!!」


 さらに。


 昨日の。


 引き継ぎ。


『危なかったら逃げてください』


「…………」


 そして。


『死んだら報告できないでしょ』


「…………っ」


 リュウジは。


 拳を。


 強く。


 握り締める。


 後ろを見る。


 若手探索者たち。


 全員。


 自分を見ている。


 自分の判断を。


 待っている。


「…………」


 以前のリュウジなら。


 ここで。


 格好をつけた。


『俺について来い』


『俺が全部なんとかする』


『A級の俺に任せろ』


 それが。


 強者だと。


 思っていた。


 だが。


 今。


 目の前にあるのは。


 行き先すら。


 分からない穴。


 背後からは。


 モンスター。


 そして。


 守るべき。


 後輩たち。


「…………っ」


 リュウジが。


 奥歯を噛み締める。


 己の。


 イキりプライドを。


 根こそぎ。


 噛み潰した。


 そして。


 クルリ。


 振り返る。


「全員――!!」


 若手たちが。


 身構える。


「戦闘準備!!」


「はい!!」


 では。


 なかった。


「撤退だァァァァァァァ!!!」


「「「えっ!??!?」」」


 全員。


 固まった。


「聞こえなかったかァァァ!!」


 リュウジが。


 もう一度。


 絶叫する。


「全員!!」


 一拍。


「撤退だァァァァァァァ!!!」


「リュウジさん!?」


「戦わないんですか!?」


「馬鹿野郎ォォォ!!」


 リュウジが。


 誰よりも先に。


 退路へ走る。


「死んだら!!」


 一拍。


「報告できないだろうがァァァァ!!」


「言ってることは正しい!!」


「正しいけど!!」


「なんかリュウジさんが言うと違和感すごい!!」


「うるさい!!」


 モンスター群が。


 迫る。


「生きて帰るぞォォォ!!」


 リュウジは。


 腹の底から叫んだ。


「これは!!」


 一拍。


「ステラ様から授かった神命である!!」


「そこだけ余計なんだよなァァァ!?」


「走れェェェェ!!」


「はいぃぃぃ!!」


 こうして。


 三連休。


 一日目。


 世界各地で。


 人類は。


 初めて。


 世界最強の聖女がいないまま。


 自分たちだけで。


 現場を回し始めた。


 本人は。


 温泉宿で。


 スマホの電源を切っている。


 何も知らない。


 そして。


 それで。


 よかった。


 ◇


【速報】世界各地のダンジョンで《接続異常》発生


【悲報】ステラ様、三連休初日につき完全沈黙


【朗報】探索者管理局、ステラ様への緊急要請を行わず対応継続


【改革】山城補佐官、突然の「脱・属人化」を宣言


【衝撃】あのリュウジ、現場でまさかの「撤退」を絶叫


【決意】死んだら報告できない。全員、生きて帰れ


(第8話・了)

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