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離れ難きは恋敵  作者: *非文症
とっておきの嫌がらせ
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二・〇だったかな

 妙なノリになって、徹底抗戦を決意した日の翌日。


 教室に入って最初に目にしたのは、あたしの席を我が物顔で占領する直の姿だった。


 ……席替えをした記憶はない。椅子取りゲームのレクリエーションでもない。


 あたしは頬が引きつるのを必死に我慢しながら、努めてにこやかに。領土を不法占拠する盗賊に話しかける。


「おはよう直! 早いね」

「おはようございます。ことりは今日も元気そうですね」

「それだけが取り柄だからねえ。ところで、そこあたしの席なんだけど」

「いいじゃないですかちょっとくらい」

「うんうん全然いいけどね? あたしも座りたいからさ」

「半分こしますか? ほら」


 無駄に長い足を組んで悠然と座っていた直が体を半分どかして、椅子に余白を作る。


 半分こというかそう言う次元の話じゃなくて、もともとあたしの席なんだけど。アンタがどけば二秒で解決すんだよ。


 と、言えてしまえたらそれが一番早いのに。邪険には扱えない理由が、すぐそばに立っていた。


「えー? じゃあお邪魔しまーす」


 あたしは直の誘いに乗って、わずかなスペースに腰掛ける。必然的に彼女と密着する格好になった。


 向こうはきっと嫌がらせのつもりだろうけど、それは諸刃の剣になる。


 こっちからベタベタしにいくのを直は拒絶できないし、パーソナルスペースの広い彼女にとって、こうまとわりつかれるのは相当ストレスになるはず。自分で自分の首を絞めているといえる。


 表面上はよくあるじゃれ合い。しかし、水面下では激しい縄張り争いが勃発していた。


 お互いを押し出そうとおしくらまんじゅうを続けるあたしたちの様子を、隣で見ていた真白ちゃんが。


「二人とも、仲良くなってくれたみたいでよかった」


 どこか安心したふうな、穏やかな表情で言った。


 昨日もそうだったけど、これのどこが仲良しに見えているのか。ちょっと心配になる。


「真白ちゃんもおはよ。いきなりなんだけどさ、真白ちゃんって視力いくつ?」

「前測ったときは、両目とも二・〇だったかな」

「よすぎ」


 どうやら視力の問題ではないらしい。それはそれでなんで?


 今も肘で脇腹を小突いたり、背中をつねったりと地味な小競り合いの最中なんだけど、それには気付いていないようだった。


 表立って喧嘩できない代わりに、仲良しのフリで嫌がらせをして相手に根を上げさせる作戦。


 あたしが思いついたそれと、全く同じ結論に至った直との冷戦は激しさを増している。


 嫌いな人にまとわりつかれることほど嫌なことはない、という推測は、良くも悪くも正しかった。


 直の腕には相変わらず鳥肌が経っているし、ストレスからか作り笑いがぎこちない。こうかはばつぐんだ。


 ちなみにあたしもだいぶきつい。触れ合っているところがかゆくなってきた。ドラゴン対ドラゴン、ソシャゲの光属性と闇属性みたいなパワーバランスで、この関係は成り立っている。


 クラスメイトにたまにおふざけでくっついたりすることはあるけどさ。それとはまた全然違っていた。


「邪魔だなあアンタ無駄にデカいんだよ」

「そっちこそチビなんですから半分も要らないですよね?」


 真白ちゃんに聞こえないよう小さな声で言い合いを続ける。やがて先に我慢の限界に達したのか直が観念したように椅子から降りた。勝利。


 最初から意地なんて張らなければいいのに。あたしが肩に掛けたままだったスクールバッグを机の上に下ろそうとして。


 なんか別人のバッグがででーんと目の前に鎮座していた。考えるまでもなく直のものだろう。


「これも邪魔。使うからどかして――って、おっも!? 何コレ、爆弾でも入ってんの!?」

「持ち込み禁止でしたっけ?」

「そんなスマホみたいな。校則が許しても法が許さないでしょ」


 それをどかそうとして、想像以上の重さに取り落としそうになる。あたしは慌てて両手で支えようとしたが、それでもギリギリだった。


 確かに学校内には独特のルールがあったりするけれど。


 少なくとも日本には爆弾持ち込みオッケーなクラスなんてない。あるとしたら担任はタコみたいな姿をしていると思う。


「冗談ですよ。教科書とあとは、軽食その他諸々が入ってるだけです」


 よくよく見れば、ファスナーの端から何かの包装紙が飛び出していた。


 彼女がお昼休みに消費するパンの量を考えれば妥当、なのか。それにしたって限度があるでしょ。


 直が証拠を示すように、鞄を開き、それを軽く傾ける。すると、無造作に詰め込まれた徳用のお菓子が雪崩のように流れ出してきた。


 一瞬あっけに取られて、ふと我に帰る。ねえこれ凄い量だけど。もちろんアンタが片付けてくれるんだよね? 確認のため向けた視線は黙殺された。


「あーあーこんな散らかして……。これ全部食べるの?」」

「なんならもっとあるのであげましょうか? 甘いもので頭を働かせれば、多少はマシになるんじゃないですか?」

「審判これレギュ違反じゃないの? ……あー、あたしはいいや」

「他にも色々ほら。ビスケットに、おせんべいに、キャンディとか」

「いらん出すな。……どんだけあんの?」


 直がバッグに手を突っ込むたび、色も種類もメーカーも違うお菓子がどんどん出てくる。すごいじゃん。四次元ポケット?


 もはや止めるまで永遠に続きそうな勢いだった。ほっといたら机一面がお菓子で埋め尽くされてしまいそうだし、変に否定して真白ちゃんが勘違いしても面倒だったので、適当にポテチの缶をひとつ選んだ。直は真白にも視線を向けてうながす。


「真白もほら」

「私は……ご飯食べられなくなっちゃうからいいや」

「そうですか」


 いや断るんかい。それならあたしももっと強く言えば良かった。


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