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離れ難きは恋敵  作者: *非文症
とっておきの嫌がらせ
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2/33

マブダチズッ友BBF

「うーん……」

「そんなに難しいことかな」


 あたしは人生の岐路に立たされている。


 こんなに悩んだのは、とあるゲームソフトの剣バージョンと盾バージョンのどちらを選ぶか迫られたとき以来だ。そういうことじゃないか。ないな。


 自分の発言を自分で否定してしまう癖は、自分に疑いを持っているからか。


 という自問自答すら疑問形なのは自身の無さの表れで、こんなふうに考えるってことは……あれ? どういうことだ。自分で言ってて訳わかんなくなってきた。


 こっちの選択が間違いなく正しい! って胸張って言い切れるほど人生経験豊富じゃない。だから迷う。だから選択問題もウを選ぶ。


「うーーーん……」


 腕を組んでうんうん唸っていると、真白ちゃんが心底不思議そうに首を傾げた。その仕草はあどけなくて可愛らしいんだけど、提案は全くもって可愛くない。


 五十鈴直。しなやかな長髪を下ろした、成績のあまりよくないあたしとは正反対の、ザ・優等生って雰囲気の女子生徒。実際クラス委員長でもある。


 その実教室での姿は猫をかぶったそれで、本性は他人をナチュラルに見下す煽り厨なんだけど。今はあまり重要じゃない。


 重要なのは、コイツが暫定恋敵であるということ。


 ちゃんと話をしたわけじゃない。でも、同じ人を好きになったということで、通じる部分がないこともない。不本意なことに。


 視線の動き。話すときの姿勢やトーン。やたらと真白ちゃんに甘いところとか。


 心は頭でも心臓でもなく、全身に宿るのだ。雰囲気とか態度を見てれば、その人が誰に何を考えているかなんとなく分かってしまう。


 五十鈴直とは真白ちゃん関係で必然的に近づくことが多いからなおさら。なおなお。音が重なって気持ち悪い。


 ちなみに、真白ちゃんはこちらからの好意に気付いてないっぽい。逆になんで分かんないのか。自分がメンタリストだと勘違いしそうになる。


「うーん……」


 あたしがなんで、味方の味方は敵、なんて協力型対戦ゲーム(某イカのTPS、あるいは世界一民度の低いMOBAでも可)で味方に負けさせられたときのような考えに至ったのかと言えば、理由は単純で。


(目的からして対立してるから、仲良くって無理なんだけど……)


 五十鈴直が、最も味方してあげたい人の味方であり、自分にとって最大の敵。すなわち恋敵だからである。


 真白ちゃんは一人しかいないんだから、当然あたしたちのどちらかとしか付き合えない。


 三人一組。三人で付き合っているラノベ主人公がどっかにいた気がする。たまたまショートで見ただけだから、作品名は忘れた。


 とにかく、あたしはそんなの嫌だ。それはたぶん、並ぶのが五十鈴直じゃなくても。五十鈴直だからことさらに、でもある。


 五十鈴直と仲良くはしたくない。でも、真白ちゃんとの絶交はもっと嫌だ。


 告白に失敗するならまだしも、それ以前に縁を切られるなんて前代未聞すぎる。いや、告白に失敗するのも全然ヤなんだけど。


 挑戦して失敗と挑戦すらできない、では全く異なる。どうせならあたしは、前向きに倒れたいのだ。倒れる前提なのが悲しいところ。


「確かに、喧嘩ばっかしてたら真白ちゃんに迷惑だしね。仕方ない。非常に、ヒジョーに不本意だけど」

「……はあ。それはこっちのセリフです」


 となると、やはり選択肢はひとつしかない。そもそも最初から決まっていた。


 決意を固めて顔を上げる。凄まじく渋い顔の五十鈴直と目が合った。


 変な顔も、元の顔立ちのせいで映えるのが腹立たしい。夏目漱石(後で調べたら、福沢諭吉だった。学がない)は嘘つきだ。


 どうやら、向こうも同じ結論に至ったらしい。


 こと真白ちゃんのことに関しては、意見が一致しがちなのもなんだか気持ちが悪かった。スーパーで仲良くないクラスメイトと鉢合わせたみたいな感じがする。


 あたしは五十鈴直に向かって右手を差し出す。眉間にシワが寄るのを我慢できていただろうか。


 自信はないが、向こうも針金を皮膚の下に埋め込んだような突っ張った表情をしていたのでおあいこだ。


「アンタとも仲良くしてあげる。感謝してよね」

「してあげる、って何様ですか? 私の方が我慢してあげてるんですけど?」

「あ?」

「ん?」


 ピリッとしたけど静電気かな。春にしては珍しい。真白ちゃんが低い声で言う。


「――絶交、だよ」

「いやいやあたしたちチョー仲良しだかんね! マジマブダチズッ友BBF!」

「ことりと喧嘩なんてしたこと無いですもん。日本は平和主義の国ですし」


 五十鈴直は恐ろしい速さであたしの手を取り、これ見よがしに高く掲げる。手のひら返しもここまで鮮やかだと逆に凄い。


 人は目的のため、ここまで自分を捨てられるのか。そこだけちょっと感心した。


 緊張からか、あたしとの温度差か。しなやかな指先の間にはかすかに汗がにじんでいた。手が冷たい人は温かい心の持ち主だといった人も嘘つきだ。嘘だらけじゃん世界。


「いやアンタのこと尊敬してたんだよ、あー……その、髪がキレイだよね」

「私も実は……。えーっと、ごめんなさい、何褒めたらいいですかね」

「コイツ……! ご、ごほん! ほら、この制服、とか。バレない程度にちょっと改造してたり? そういう細かいオシャレを褒めて欲しいなー、なんて」

「知られたら生徒指導室送りなのに……! その度胸は敬服します」

「褒めるとこそこじゃねーから」


 とりあえずアピールしとこうと適当に褒めてみた。寄り添ってやったのに。こっから険悪にするとかもはや才能なんじゃなかろうか。


 体育祭のときは、敵チームの雰囲気を破壊するスパイとして送り込んでみてもいいかもしれない。そんなことを考えた。


 五十鈴直が白々しく取り繕おうとするものの、慣れない事をしたせいでむしろボロが出かかっている。下手な鉄砲は撃たない方がいい。暴発の恐れがあるから。


 表面上取り繕ってはいたものの、まだお互い認め切れてはいなかった。


 その証拠に、さっきから真白ちゃんに見えない位置で、お互いのふくらはぎに蹴りを入れ合ってている。リーチ上あたしが不利だった。


「もう……。じゃあ二人とも、くれぐれも仲良く、ね? 約束だよ?」


 無表情で感情の読みにくい真白ちゃんの考えていることが、初めてはっきり分かった気がする。水面下で行われている戦争に気付きつつ、見逃してくれたんだろう。


 呆れたふうにため息を吐きながら念を押す真白ちゃんに、あたしたちは手をつないだまま、赤べこのように首をガクガク上下に振ることしかできなかった。


 もちろん仲良くするつもりだ。……向こうから突っかかってこない限りは。


 それを見た真白ちゃんが溜息とは異なるふんいの息を吐く。どうやら、満足いただけたらしい。


 ……おいいつまで繋いでんだ。もういいでしょ。はよ離せ。あたしは手を引っ込めて、拘束から逃れる。


 提案自体はとんでもないものだったけど、冷静になればそんなに理不尽なことは言っていない。一段落ついて、頭に冷たさが戻ってくる。


 仲良くったって、なにもべったり友達っぽく接する必要はない。要は喧嘩さえしなければいいのだ。クラスメイトとの関わり方と、何が違うというんだろう。


 大丈夫。煽りはクソウザいけど、気合で全部無視して三年間過ごせばいいだけ――。内心頷いて、あたしは無理矢理自分を納得させる。


 が。その思惑は、続く真白ちゃんの言葉で粉砕された。


「まず初めに、名字呼び禁止ね。『アンタ』とか『お前』もなるべく使わないようにして、ちゃんと名前で呼んであげて」

「え゛」


 どうしても距離を離したくて、人知れず頑なにフルネーム呼びしてたのを見透かされた気がした。やっぱメンタリストか。

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