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離れ難きは恋敵  作者: *非文症
とっておきの嫌がらせ
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16/29

甘く見ましたね

「それ、誰かに聞いたの?」


 無意味な問いだと自覚しつつ尋ねた。高校入って以来覚えている限り、甘いものが苦手だなんて誰かに言ったことはない。


 それに、直とは出身とする中学校も違う。たまたま以前どこかで聞き及んでいた、って可能性も低い。あたしの疑わしげな瞳を前にしても、直はあっけらかんと答えた。


「なんとなくそうかなーと。前チョコパン食べさせようとしたとき、露骨に拒否ってたじゃないですか」

「あれは単に、あーんが嫌だっただけ」

「お菓子あげたときも甘いのじゃなくてしょっぱいの選んでましたし。もしかしたら、って思ってたんです」

「ふーん……ちょっと待って。てことは、甘いの嫌いかもって思いながらお菓子押し付けてきてたの?」

「そうなりますね」

「うーわ」


 だとしたらだいぶ性格悪い。あたしが半目で睨むと、直は心外だとばかりに頬を膨らませて。


「ただ確かめたかっただけですよ。そのときは嫌がらせしようなんて思ってませんでした」

「ホントに? 怪しいなあ」

「そんな信用ないですか? 悲しすぎて真白に告げ口しちゃいそうです」

「あーはいはい。分かったから」


 真白ちゃんを盾にヘタクソな泣きまねをする直。あまりにもわざとらしくて鼻で笑いそうになる。


 バレてちゃしょうがない。弱点……弱点ってほど大したものでもないか。を知られるのは癪だったけれど、あたしはスプーンを放り出し、言い訳がましく白状する。


「いや、別に食べれないわけじゃないんだよ。実際フルーツ系はイケるし。チョコとか生クリームとか、脂っこい系って言うの? そういうこってりした甘さが苦手ってだけで」

「そんな人がなんでスイーツショップに行きたいなんて言い出したんですか」

「見た目は大好きだし映えるし、可愛いじゃん。イチゴのパフェなら大丈夫だと思ったの」

「で、ダメだったと」

「こんなに甘いと思わなかったんだもん。友達は甘さ控えめって言ってたし」

「甘く見ましたね」

「つまんねー」


 控えめだと思ってきたんだから、むしろ甘くは見てないんじゃないか。屁理屈はともかく、けっ、と輩のように吐き捨てて。少しうつむき、口の中だけでごにょごにょ呟く。


「それに……。自分で言い出した手前、実は甘いの苦手だから写真だけ撮らせてー、なんてサムすぎるし。どんだけ勝手なのって」

「そういう人も多いんじゃないですか?」

「いやああいうのはなんかさ。違うじゃん。周りに気は遣わせたくないわけ」


 軽く机を叩いて言う。直は、そういう子たちに妙な偏見を抱いている節がある。


 写真だけ撮って捨てるって人もいないことはないけど、それは限りなく少数派だ。少なくともあたしの友達の中にそんな子はいない。悪いイメージの方が記憶に残りやすい、ってのは分かるけど。


 あたしは勢いそのままにテーブルへ身を乗り出す。秘密を知られてしまったことで、低くなる声を隠せないまま。


「クラスの子には言わないでよ? 誘いにくい人、って思われたくないから」

「さあ、どうでしょう?」

「そしたら真白ちゃんの前でアンタひっぱたいてあたしも死ぬから」

「自爆テロですか? ……はいはい、誰にも言いませんよ」


 剣幕に押されたのか、直が諸手を上げて降伏を示す。疑わしくはあったものの、ひとまずその言葉を信じることにした。あたしは浮かせていた腰を落ち着かせる。


 はあ。まさかこんなところでボロが出るとは。


「みんなに優しくてノリの良い、元気系美少女キャラでやってたのに」

「自分で言ってて恥ずかしくなりません? それ」

「全然。アンタだって清楚系優等生でやってるでしょ?」


 口元に手を当てた直が、宙に視線を彷徨わせながら言う。


「まあ、それが一番楽だから、って理由ではありますが」

「あたしに言わせればそれもだいぶハズいけどね」



 キャラを作っているのは同じなのに、何が違うんだろう。時にはゲロ甘な砂糖菓子を、泣き言と一緒に飲み込んだこともあるあたしは疑問に思う。


 誰彼との関係を繋ぎとめるためには、それなりの力を要すると思っていた。


 けれどあたしと違って、直は楽だからという理由でキャラを作っている。それがどうにもちぐはぐで、どっちが本当なのかよく分からない。


 自分を押し込めることと、自分をさらけ出すこと。

 内と外のバランスはいつも不安定で、片足立ちみたいにふらついている。押すなよ押すなよするまでもなく、勝手に倒れてしまいそうになる。


 結局どっちもしんどくて、どっちがマシ、というレベルの話でしかないのかもしれない。強いて言うならあたしは前者、直は後者が苦手、くらいのもので。


「の割に喧嘩吹っ掛けてくるし、空気読まずにカレーとか注文しだすじゃん」

「普通はしませんよ。流石にそこまで恥知らずじゃありませんし」

「え?」

「なんですかその顔は」


 その傍若無人さで恥知らずじゃないは無理があるでしょ。


 反射的に聞き返すと、その反応が気に障ったのか直が眉根を寄せた。彼女はあたしを指差して言う。


「だってあなた、私のこと嫌いじゃないですか」

「うん」

「元気よく返事することでも無いですが」


 肩透かしを食らったような呆れ顔を挟んで続ける。


「元々マイナスなんだから、あなたにいい恰好する必要ないと思ったまでです」

「……まあ、それもそっか」


 顎をさすってから頷く。確かに、その言葉には一理あった。


 あたしだって、直のことはこれ以上ないくらい雑に扱っている。真白ちゃんに同じ態度で接する気は起きない。


 相手によって態度を変えることが普通のことだとするなら。当然、嫌いな相手の前でしかしない態度もあるはずで。ある意味ではそれも自然体と呼べるだろうか。


「ところで……。甘いもの苦手なら、交換しませんか? このカレー、ちょっと辛すぎて」


 一瞬思考が明後日の方向に飛びかけたあたしの目の前に、濃い茶色のルウで満ちた平たいお皿が突き出される。


 刺激に耐え切れず早々に完食を諦めたらしく、カレーは半分ほど中身を残して放置されていた。

 あたしはそれを一瞥して、再度直に視線を戻す。彼女は確認めいて首を傾げる。


「……アンタがいいなら」

「では、交渉成立ということで」


 差し出されたカレーとすれ違うように、あたしはおずおずとイチゴのパフェを差し出した。

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