が、ん、ば、っ、て!
「え……? だって、いつも一緒にいるじゃん」
「いやいやいや」
首がねじ切れそうになるくらい横に振って否定する。その剣幕に、みっちゃんは上体をのけぞらせた。
確かに、教室では真白ちゃん含めた三人でいることが多い。けど仲良いってのは誤解だ。
あれは真白ちゃんとあたしの二人組に、単独の知らん人が混じってる構図なんですよ。仲良し三人組じゃなくて、二人プラス一人。で、外見上三人に見えてるだけ。ベン図を書いて説明してあげたい。
それをあろうことか友人と勘違いされるなんて、不本意なことこの上ない。全く、と腕組みするあたしの前で、みっちゃんはあたりを見回しながら。
「……あれ? でもそしたらましろんは? 今日は二人?」
「え、ああ、うん。今日はたまたま」
「……まさか、三人組のなかでカップル成立しちゃって気まずい感じとか? なーんて」
「ほあーーーーーっ!?」
「な、なにその反応!? もしかしてガチなの!?」
みっちゃんさっちゃんが途端に色めき立つ。友達跳び越えて、斜め上にバウンドした誤解。彼女たちの頭の中には、空気代わりの妄想がパンパンに詰め込まれているに違いない。
取り返しのつかないことになる前に、どうにかして正さないと。声が震えるのを自覚しつつ、重ねて否定する。
後になって思い返してみれば。ムキになったせいで上気する頬が、上擦ってしまった声が。そうした必死さが、かえって疑惑を深めていたのかもしれない。
「じょ、冗談キツいって! あたしはこんなヤツのこと――むぐ」
「本当は真白も来る予定だったんですが、急用で。でも期間限定だからって、仕方なく二人で来たんです」
背後から手のひらが伸びてきて、あたしの口元を塞ぐ。というか。口元どころが鼻まで塞いでいる。いきができない。コイツ、この機会にあたしを消す気か?
身の危険を感じたので、手足をばたつかせて抵抗を試みる。
絡みつく細い指先をなんとか引きはがし視線だけで振り返ると、直の顔がすぐそばにあった。
「ね?」と、彼女はこちらにゆるく視線を合わせてくる。横顔からは圧しか呼べない何かが滲んでいた。圧されて頷いてしまう。
相変わらず、外面だけは良い。クラスメイトの手前まさしく優等生といったスマイルを浮かべてはいるものの、斜めった片足重心でいる。ピサの……ピザ? どっちだっけ。とにかくアレみたい。
あたしと話してるときもそうだったけど。これ癖なのかな。多分内心面倒がっているんだと思う。
「なーんだ。ちょっと残念。……とか言って実は? 誰にも言わないから!」
その答えを聞いたみっちゃんは、興味を失ったふうに眉尻を下げて苦笑した。と思いきやの追撃に、直は飄々とした態度を崩さず。
「もう、からかわないでくださいよー。仲良いですけど、ただのと・も・だ・ち、ですから」
「あはは。ごめんごめん」
無駄に四文字を強調して、きっぱり言い切る。そこでようやく追及は止んだ。みっちゃんさっちゃんは二人揃って小さく舌を出し、反省を示す。
……ホントに分かってる? 納得したのか、していないのか。二人の瞳には、まだかすかに好奇の色が残っているようにも見えた。
直の腕の中からするりと抜け出して、「そういうのじゃないから。マジで」と改めて釘を刺しておく。しかし彼女らは訳知り顔で頷くばかり。生暖かい眼差しがかえって腹立つ。
誤解されたまま広まってしまったら最悪だ。学生生活が破綻しかねない危機の真っただ中、行列の中からわざとらしい咳払いが聞こえた。「しまった」というふうにみっちゃんが顔をしかめる。
「やば。ちょっち話し過ぎたっぽい」
「確かに迷惑でしたね。私たちもちゃんと並んできます」
「はーい。ごゆっくり」
「ちょま、ガチで違うからね!?」
四人まとめてシンクロ気味に顔を上げると、周囲からやんわり、けれど確かに厄介そうに見られていた。どうやら少し騒ぎ過ぎたらしい。
完全に優等生モードと化している直に手を引かれて、列の最後尾へ向かう。この前も思ったけど、直って体温低めなんだよなあ。割に冷たい手の平がちょっと気持ちいい……じゃなくて。
まだ誤解が解けていない。かと言って留まるのも気まずい。あんなあからさまな咳ばらいを食らってなお話し込めるほどのふてぶてしさは持ち合わせていない。
どうしていいか分からず、あわあわしながら直とみっちゃんの顔を交互に見やる。引きずられるさなか、みっちゃんの唇がゆっくり動いた。
流石に友達。あたしの気苦労を察してくれたらしい。
――が、ん、ば、っ、て、!
あー。
隙見て殺すしかないかもなあ。出荷される寸前の家畜みたいな心持ちのなか、静かに決意を固めた。




