19世紀のドレス、それはまるで動く監獄、紬の尊厳がベランダで潰えた
大都会の渋谷の街の上空に突き出たワンルームマンションのベランダ...風も強いでしょう...絶望感が広がります...紬....よく頑張ったな
桜「狭い!ドレスを着てこの部屋に3人もいると狭すぎ!」
翼「エレベーターに乗れないよ、これじゃ。」
紬「持ち帰ったの、失敗だったんじゃ。」
桜「なんとかしようよ、これ。ワンルームで座れない。」
翼「どんな値段になるかわからないけど売却一択だ。」
紬「値段が想定できないからヤフオクが良いかも。」
桜「資金の回収なんかもうどうでも良い。ともかくスペースの回復が最優先事項。」
翼「これさ、ヤフオクに出すにしても梱包とかいろいろ難しいのでは?」
紬「餅は餅屋、ドレスはドレス専門業者。お金がかかっても良いから、業者に来てもらって、梱包してもらい、売却まで預かってもらおうよ。脱ぐのも大変だよ、これ。」
桜「座れないから立ったままで検索開始だ。チャッピーくんにも訊く。3人別々に検索すれば、文殊AIになるよ。」
翼「私、口調が威張り腐って気に入らないけど、コピロットくんに相談してみる。」
紬「私はひたすら恭しいゲミニくんだ。」
桜「ふむ....さすが東京....探せばいろいろあるね。ヤフオクに出さなくても直接交渉で売れるかも。」
翼「この3社に相談して、ここに来てもらって査定ということで良いんじゃない?」
紬「うん....あと1時間以内に脱がないと膀胱がヤバいかも。」
桜「まくってできないか?」
紬「幅がヤバくてトイレに入れない。」
翼「紬.....バスルームも無理そうだな...」
桜「紬...おまえのキャラだ、大丈夫だ....ベランダへ出ろ。」
紬「えー、それAVですやん!」
桜「ここは9階だ。誰にも見えない。あとで水を流してやる。誰も傷つかない。誰も涙を流さない。残るのは私たちの微笑みだけだ。」
当然、1時間で業者が勢揃いするわけもなく、紬はベランダの貴婦人としてブルブルッと震えることになった。ジオラインメッシュのパンツが簡単に着脱できることだけが救いだった。それから2時間ほどして業者が集まり、驚異的に精巧な19世紀ドレスのコスチューム――一応レプリカということにした――を見て驚きながらも査定が始まった。思った通り、芸能関係で需要があるらしく、舞台関係にパイプがある業者が3点まとめて90万円で引き取ってくれた。
桜「ふう、ようやく東京の日常が戻ってきた。」
紬「私の尊厳はもう戻らないが。」
翼「誰もが通る道だ。次は私かも知れない。気にするな、同士よ。」
桜「ああ、現実を直視すれば、婆になれば誰でもそうなる。17歳でその覚悟が付いたことを誇るべきだろう。」
翼「あれ?そういえば東京時間で2日経ってるから、次の金曜日まで解放じゃね?」
紬「そうだ、日常の学校生活の開始だ。」
桜「では銀座へ行ってコインを...」
翼「ちょっと待って。さすがにそれ多すぎて足がつくよ。何度かに分けて換金しないと。」
紬「とりあえず200フランにしておこう。そのくらいなら妥当な量だと思う。」
桜「うちら、マネロンが必要なギャングみたいになってる....」
翼「金庫買おうか?」
紬「逆に狙われそう。」
桜「うーむ、持てるものの悩み。」
翼「銀行の貸金庫は?」
紬「女子高生に貸してくれるとは思えない。」
桜「この部屋に雑に放置するのが一番かもね。警戒してないのが一番のカムフラージュ。」
3人は銀座2丁目の泰星コインに行って200フランを90万円に換金した。ドレスの売却金と合わせて180万円、60万円ずつそれぞれの口座へ振り込んだ。今回のミッションで20万円ずつ拠出していたので、40万円のプラスになった。そしてセーブハウスにはとてつもない金貨が眠っている。銀座からタクシーに乗って秋葉原。ここでは防犯グッズという名前の武器を補充する。催涙スプレーは満タンのものを持ち込むべきだ。使用したスプレーは店に返却して処分してもらうことにした。催涙グレネードも3個補充し、その他にも細かいグッズをそれぞれ購入した。
桜「今週は試験があるね。ダルっ。」
翼「まあふつうの中間試験だからノー勉でなんとかなるっしょ。」
紬「だね、うちら推薦を狙ってないし。」
桜「それな。推薦ってダサくね?」
翼「そうそう。日常であくせく点数をためてっていうのがね。」
紬「受験ぐらい突破しろよって思う。無駄にならないよ、受験勉強。」
試験は無事に終わった。可もなく不可もなく。親に怒られるほどの点数でもなく、無駄に期待させるほどの好成績でもない。学校の順位で100番以内、なんとか二桁。受験でいうとマーチ圏内だ。まだ2年生なのでJKトリオは大学を全く意識していない。
金曜日になった。放課後転移の時間だ。通販で買った冷蔵庫が届いたので、飲み物を補充した。30分前に転移先を教えてもらう約束だ。次はどこだろう?
女神「やあ、集まってるな。次の転移先はまた19世紀のヨーロッパだ。時期は....前回と同じくらいだな。場所はシュタイアーマルク、現在のオーストリアの南東部だな。中心都市はグラーツだ。武装は整えておけ。荒事が発生する可能性が高い。前回の余った金貨はそのまま使える。健闘を祈る。」
桜「いつものように言いたいことだけ言って消えちゃったよ。」
紬「今度はドイツ語だから、翼、頼んだよ。」
翼「うー、オーストリアって方言がきつそう。」
桜「お菓子OK、羊羹も補充した。金貨も持った。」
紬「メントスもたくさん補充した。あとメントス拷問用に猿ぐつわも。」
翼「ドレスももうないし、レンタル袴も返却したし、スペースがあるから私服を持って行こう。」
桜「荒事って何だろうね?」
翼「まずイベントを探し出さないと。」
紬「あ、来そう...」
翼「アストラルトランスファー!」
桜「わお、いかにもな古城だ!」
翼「これってまさか...」
紬「ゴシックロマンス?」
桜「やだ、お化け苦手!」
翼「ここにはこのお城しかないので、イベントはここで発生で決まりだね。」
紬「どうやって入れてもらおう?」
桜「あ、誰か出てくる。おじさんと女の子。」
翼「おじさんがこっちに気付いて近づいてくるよ。」
おじさん「Oh, it's rare to see strangers here!(おや、ここで見知らぬ人に出会うとは珍しい!)」
桜「(え?英語?)ナイス・トゥー・ミート・ユー!」
翼「(またあれか。舞台がヨーロッパ大陸で作者が英語圏。)ウィー・ドント・ノウ・ウェア・ウィー・アー。」
紬「(ああ、面倒くさい。アプリ起動だ。)このお城は歴史を感じさせますね。」
おじさん「(おや?声が箱から聞こえる!)数百年は経っているだろうね。これは私の娘ローラだ。みなさんと同じくらいの歳だね。」
ローラ「よろしくね。」
おじさん「私は英国の退役軍人で、娘とここに住んでいる。住人は家庭教師が2人と下男下女だけだ。」
桜「まあ、それじゃローラちゃん、お友だちがいなくて寂しいわね。」
ローラ「そうなの。お姉さんたち、しばらくうちに泊まっていってよ。良いでしょ、パパ?」
ローラ父「かまわんよ。お嬢様方がそれで良いのなら。」
紬「良いですよ。どうせ行く当てのない旅だったし。」
ローラ「やったー!」
桜「ごめんなさいね。私たちあんまり英語が喋れないから、この翻訳機に頼るしかないの。気にしないでね。」
ローラ父「全く問題ありません。ローラも喜んでいますから。」
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青水「シュタイアーマルクの城、少女の名前がローラ、これは.....」
女神「そうだよ、カーミラだよ。」
翡翠「私がかつて介入したゴシックロマンス。」
女神「おまえ、どう解決したんだっけ。」
翡翠「百合の花を咲かせました。」
シェリダン・レ・ファニュというアイルランドの作家が書いた小説の世界です。かつて翡翠さんも介入しました。




