ファンタジーって言ったよね、これファンタジーなの?
桜以外はわりと気楽だった前回の転移。次はどこかな。え?ファンタジー?
桜「いや~、今回も無事に戻ってきたね。」
翼「楽しかった。過酷な条件は何もなかった。ウルトラマンのときほどタバコもひどくなかったし。」
紬「6年で少しずつ変わるものだね。楽しいだけの転移だったな。」
桜「あんたたちはな。私はずっとドキドキだったよ、いろいろと。」
翼「Back to the Future 問題以外にも何かドキドキ案件あったの?」
桜「爺ちゃんに顔バレするんじゃないかって。だって、自分で言うのもあれだけど、婆ちゃんと私、似すぎだった。」
紬「そう言われればそうだね。桃さん、未来派美人だったのかも。さすがアーティストの修さん、見る目がある。」
桜「爺ちゃんだけどさ、実はエレキも弾く、いやむしろエレキこそ弾く。」
翼「え?マジ?」
桜「入り婿になって生活に余裕ができてから、家に地下のスタジオを作ってさ、いろんな楽器を買い込んで好き勝手して遊んでたみたい。」
紬「カネが人間を変える。」
桜「でも婆ちゃんは喜んでいたよ。桃婆ちゃんのパパ、私の曾爺さんは、金ができたら女遊びを始めるモラハラ親父になったそうで、曾婆さんはずいぶん苦労したんだって。詳しいことはわからないけど。それに比べれば趣味に没頭するくらい可愛いってさ。」
翼「八王子のエレキ爺さん。シンボルは首のスカーフ。」
女神「おお、今回もなかなか良かったぞ。桜の消滅がかかっているイベント、ドキドキハラハラで退屈しのぎにピッタリだった。やはり己の存在を賭けてのチャレンジ、これ最高だな。」
桜「女神様...だんだんギリシャ神話の理不尽な神々と似てきてますよ。」
女神「神だからな、そうなるかもしれないな。だけど私はちゃんと助けるよ。転移先で死なれたら後味が悪いし、楽しみもなくなるもの。」
翼「(...我慢するんだ...神に対して憤ってはならない...)ですよねー。」
紬「次もこんな感じで危険がない場所に転移お願いします。」
女神「それじゃ刺激が足りなくてつまんないな。そうだ、危険が予測できないファンタジーの世界はどうだ?うん、今のは質問ではない。返事はいらない。うん、うん、ファンタジーの世界にしよう。予習はなしなので、あと30分後な。では健闘を祈る。」
桜「あーあ、行っちゃった。」
翼「これじゃ準備のしようがない。」
紬「とりあえず飲み物を補給しよう。私買ってくる。何が良い?」
桜「炭酸水。」
翼「緑茶。」
桜「まあでも、ファンタジーだから現実と関係ないし、ある意味気楽だな。」
翼「危険もなさそう。童話と親和性が高いし。」
桜「休憩時間にトイレ済ませておくか。」
翼「それ大事。」
紬「買ってきたよ。もうそろそろだね。」
桜「そろそろムズムズしてきた。」
翼「いっちゃいまーす!」
桜「ここはどこだ?森の道?」
翼「グリム童話とかかな?」
紬「あっちから何か来る。馬に乗った人?」
桜「いや、あれは馬じゃないな。…… 熊だ。」
翼「乗ってる人、某キャリアのCMに出てるやつじゃん。」
紬「金太郎だね。金太郎という名前以外の情報がない人。」
金太郎「あれ、お姉さんたち、どうしたの?」
桜「いやあ...どうもしてないけど...あなた金太郎さんですよね。」
金太郎「そうだよ。ほら、腹巻きに大きく“金”って書いてあるだろ。」
翼「金太郎さんって、熊にまたがりお馬の稽古以外、何かしたんですか?」
金太郎「あー、それは歌の1番しか知らない人の素朴な疑問だね。2番は“けだものあつめて相撲の稽古”だから。」
紬「なるほどー、とりあえず熊に馬術と格闘技を習った人なのね。」
金太郎「まあそうだな。そして、それ以外の情報はほとんど知られていない。」
桜「もっと知られて有名になりたいの?」
金太郎「ああ、同じ太郎でも桃だの浦だのと比べて扱いが雑すぎるからな。」
紬「なるほど、ならば私たちがコンサルティングをしましょう。名付けて金太郎プロモーション。」
桜「まず修正すべきはそのビジュアルですね。推される要素がほぼ皆無。直毛のおかっぱ頭、股間がどう収まっているのかわからない腹巻き1枚、裸足、これはもう...画面に出せるクオリティじゃありません。」
翼「髪型を変えて衣装も変える。それだけで推してくれる人は増えると思いますよ。」
紬「女性の支持がないとキャラはどんどん忘れ去られるものなのです。」
桜「熊と素手でやり合えるワイルドさがあなたのビジュアルからはまるで感じられません。ただの肥満児にしか見えない。」
金太郎「う、言われてみれば...」
桜「なされた提案を実行してから再登場してみてください。」
金太郎「わかった。」
桜「わーお!」
翼「見直しました。」
紬「これならファンがたくさん付きますよ。」
桜「で、金太郎さんはどのような業績を残されたのですか?」
金太郎「足柄峠で源頼光にその力量を認められ家来となり、“坂田金時”と名付けられ、頼光四天王の一人として大江山の鬼・酒呑童子を退治した。」
紬「あー、いろいろダメだわ。源頼光にぜんぶ持って行かれてる。」
翼「ヒーローは家来じゃダメね。ソロで挑まないと。」
桜「ドラゴンを退治したセイント・ジョージのように。」
翼「ヒュドラを退治したヘラクレスのように。」
紬「伝説に残るバトルを制しないとヒーローとして記憶されないわよ。」
金太郎「どうすれば良いでしょう?」
桜「神話時代まで遡ってヤマタノオロチを倒せば有名になるかも。」
翼「たとえ負けても伝説にはなる。」
金太郎「わかりました。頑張ってみます。」
JK旅団がさらに道を進むと森の小川があった。小川といってもそこそこ大きい。走り幅跳びで向こう岸に着地できるか微妙なところだった。3人は無謀なことはせずに川辺を進むことにした。すると大きなお鉢をかぶった女が水面を見つめて佇んでいる。
桜「もしもーし、何してるんですか?」
女「父が再婚して家を追い出されて...行くところがないので身を投げようかと。」
紬「あ、あなたはひょっとして ………… 名前が出てこない....」
翼「わかった!鉢かぶり姫でしょ?」
女「そう呼ぶ人が多いけれど、違うんです。」
紬「思い出した!鉢かつぎ姫だ。」
女「担いでいませんから、かぶっていますから。」
桜「じゃあやっぱり鉢かぶり姫じゃん。」
女「いいえ、古語の“かづく”を使って鉢かづき姫です。」
紬「あかん、古文苦手や。脳内に単語登録しとこ。かづくはかぶる...っと。」
翼「えーと …… 何々...生前のお母さんが観音様にお祈りしたら鉢をかぶせろとお告げがあって、その通りにしたら取れなくなった。お父さんが再婚して、新しいママがキモいと言って追い出した....というのが現在までの状況ね。」
桜「さっき世をはかなんで入水しようとしていたと言ってたね。」
翼「その大きなお鉢のせいで沈まないよ。で、浮かんでると拾われる。拾うのはどこぞの貴族。」
紬「そしてそのまま結婚して幸せに。」
翼「いやいや、さすがにそうはならないよ。いったんは下女にジョブチェンジ。それから物置にお琴を見つけて弾いていると、貴族の息子がそれを聴いて感動。」
紬「つまり、芸は身を助く、という諺の元になったと。」
翼「いや、それ違うから。感動した息子と愛し合ったけれど、不気味な鉢をかぶった下女との結婚は反対され、斬り殺されそうになる。」
紬「それひどくない?追い出すだけで良いじゃん。」
翼「まあまあ...するとその瞬間、鉢が外れて中から金銀財宝と超絶美人が現れましたとさ、でハッピーエンド。」
桜「じゃあ、今ここでその金銀財宝を取り出せば良くない?スイス製マルチカッターで切るとかバーナーで燃やすとか。」
鉢かづき「やめてください、そんな恐ろしいこと。」
紬「中身、どうなってるの?」
紬が鉢の中を下から覗き込もうとすると、靄がかかっている。鉢かづきはきゃっと叫んで飛び退いた。
紬「中身はモザイクで見えない。無修正じゃない。」
翼「ちょっと、紬、言い方!」
桜「このまま川に飛び込んでもハッピーエンドなんだから放置で良くない?」
紬「良くないよ。こうなったら徹底解明だよ。モザイクなら解除すれば良いだけだ。」
紬は果敢にもモザイクの中に手を突っ込んだ。「イヤン、やめて!」鉢かづきが身をよじって抵抗するが、探求を諦めない。
桜「おい紬、その絵面、おまえが痴漢にしか見えないぞ。」
紬「あ、なんかあきらかにお尻のようなものに触れた。」
鉢かづき「本当にやめてください。それ以上の恥辱を与えるなら自害します。」
紬「ごめんごめん。でもわかっちゃった。あの鉢、実はスカートなんだ。下半身の大事なところがあそこに鎮座している。なので、それが外れると...エッチなハッピーエンド。」
桜「おお、それは実に理に適っている。眠り姫や白雪姫のようにキスでごまかさないで、直球で行くところまで行く。」
翼「で、どうする?」
紬「私たちじゃその中身、どうにもできないから、やっぱりこのまま川に入って救助を待つしかないね。そして、貴族の息子と知り合ったら、積極的に鉢の中へ誘い込みなさい。話が早く進むから。」
鉢かづき「わかりました。ご親切にありがとうございました。」
桜「これにて一件落着でそろそろ来そう。」
紬「来る来る、ムズムズが来る。」
翼「アストラルムズムズ。」
昔話のコンサル回になってしまいました。あいかわらずえげつないです。




